天妃物語9
「紫紺、私も一緒に戦います! あなたが私を守ってくれるように、私も必ずあなたを守ります!」
「ははうえ……!」
紫紺の瞳がじわじわと潤みだしました。
でもぐいっと涙を拭って立ち上がり、強気な面差しで羅紗染に向かって身構えます。
「オレとははうえがおまえなんかやっつけてやる!!」
「あぶぶっ!」
おんぶしている青藍が短い手足をジタバタさせました。
まるで自分もとばかりのそれに頷きます。
「はい、もちろんです。あなたも一緒ですよ」
「ばぶっ!」
青藍がぎゅっと私の背中にしがみつく。赤ちゃんの戦闘態勢です。
対峙した私たちに羅紗染は忌々《いまいま》しげな顔になりました。
「お前たちになにができる! 四凶の餌にしてやろう!!」
「舐められたものですね、返り討ちにしてあげます!! 紫紺、行きましょう!!」
「まかせろ!!」
紫紺が駆けだしました。
その動きに合わせて私は神気を発動します。
周囲一帯に茜色、山吹色、若草色、黄金色、翡翠色、瑠璃色、天色、藤色、雪色など彩豊かな絹織物の反物が垂れ下がる。それが目隠しとなって紫紺の動きを援護し、羅紗染に一気に接近しました。
「えいえいえいえいえいえいっ!!!!」
ドゴッ、ガンッ、ガッ、ズドッ、ゴッ、ドガッ!!
「ぐっ、ぐはっ……! や、やめろっ!」
紫紺の連打が羅紗染を容赦なく攻撃します。
羅紗染は反撃しようと邪気を放ちますが、反物が盾となって紫紺を守る。反撃はすべて私が阻止していました。
当然ですよね、紫紺は私の宝物です。指一本触れさせません。
追い詰められた羅紗染が紫紺の攻撃を受けながら私を睨みます。
「天妃、貴様さえいなければこんなガキ……っ」
憎々《にくにく》しげに吐き捨てられて、私はそれに目を細めます。
ほんとうに舐められたものです。私、天妃ですよ。
天帝に愛されて天妃になったわけではありませんが、天妃に相応しい神気を持っていたから天妃の位に即いたのです。紫紺は私と天帝の血を継いだ子なのですから強いのは当然ではないですか。
「それは逆恨みというものです。私は少しのお手伝いをしているだけで、あなたなど紫紺一人でも十分なのです」
「おのれぇっ、おのれえええええええ!!」
激昂した羅紗染が私に向かって襲い掛かってきました。
紫紺の攻撃を受けながらも鬼のような形相で、それは死に物狂い。
ああもう限界が近いのですね。まるで断末魔のよう。
「近づかないでください。不敬ですよ」
シュルリッ、ガンッ!!!!
羅紗染が御簾に激突しました。
「ぅ、あ、あ……ぅ……あ…………っ」
羅紗染は昏倒してぴくぴく痙攣しています。
そう、寸前で私の前に御簾がシュルリと垂れ下がったのです。しかも鋼鉄よりも硬い御簾なので激突すればひとたまりもありません。
でも仕方ありませんよね。不敬は不敬です。
天帝以外の殿方が天妃の御簾を捲って入ってくるなど許されません。
「ははうえ!」
紫紺が大慌てて私のところに駆けてきました。
天妃の御簾をあっさり捲って入ってきます。もちろん紫紺と青藍は例外なのです。
「紫紺、無事でしたか?」
「ははうえ、すごい! ははうえのちから、とってもきれいだった!!」
「あなたは強いですね。とても強くなってくれました」
「オレはもっとつよくなるぞ!」
「それは楽しみです」
いい子いい子と頭を撫でると紫紺が照れくさそうに胸を張りました。
本当に強くなりましたね。あなたを誇りに思います。
紫紺を褒めると次におんぶしている青藍が主張します。
「きゃー、あぶう、ばぶぶっ」
「ふふふ、分かっていますよ。あなたも泣かずによく頑張っています」
「あいあ〜」
青藍が嬉しそうな声を上げます。
あなたも私の背中にぎゅっとしがみついて耐えていてくれました。それだけで充分ですよ。あなたも強い赤ちゃんです。
そして私を囲んでいた御簾がシュルシュル捲りあがって消えました。私は紫紺の手を繋ぎ、息も絶え絶えになっている羅紗染を見下ろします。
羅紗染は全身を痙攣させた瀕死の状態で、もう間もなく息絶えるでしょう。
でも羅紗染の姿に私の警戒が強まります。
羅紗染は瀕死だというのに愉快そうに笑っていたのです。そして上空を見つめて恍惚と瞳を輝かせていました。
その異様さに私はハッとして夜空を見上げる。




