さようなら、私の愛しい御方。どうかおげんきで。8
「いやです。黒緋さまっ、……どうして!」
私は口付けから逃れるように顔を逸らしました。
でも逃げた顔が片手で掴まれてまた戻される。
そして唇が触れあいそうな距離で黒緋が低く言います。
「どうしてだと? それは俺の言葉だ。側にいると言ったのはお前だろう……!」
黒緋の唇が私の首筋を這い、荒々しい手付きで着物が乱されていきます。
乱れた襟元から素肌が覗き、裾からは素足が露わになりました。
黒緋の大きな手に太ももを撫であげられて、私の全身から血の気が引きました。
「こ、こんなの嫌ですっ。離してください!」
無我夢中で暴れました。
力いっぱい足をバタつかせ、身を捩って黒緋の下から逃げだします。
しかしその抵抗を嘲笑うかのように足を捕まれて引きずり戻されました。
「どこへ行く」
「あっ、やめてください! んんッ」
また唇が塞がれました。
口内を蹂躙されたまま、黒緋の大きな手がやわい太ももを鷲掴む。腰巻を乱されて、手が股の間に伸びていく。
指が股の間に触れた途端、背筋に痺れが走り抜けました。
「は、あ、……やめっ……」
はくはくと呼吸が乱れる。
生まれて初めての感覚に頭の中が真っ白になってしまう。
「やめてくださいっ。やめて……!」
私は黒緋の手を引きはがそうとしますが、邪魔だとばかりに手を捕まれました。
しゅるりと着物の帯を引き抜かれて、体をひっくり返されたと思うと後ろ手に両手を帯で縛られました。
「な、なにするんですか! 解いてください!」
「それは出来ない。解いたら出ていくだろう」
「そんなっ……」
意味が分かりませんでした。
黒緋は激怒しているのです。
でもどうして黒緋がこんなに怒っているのか分かりません。
「わ、わたしは、あなたに何かしましたか? なにか怒らせてしまうような、そんなことを……」
震える声で聞きました。
でも黒緋は苦しそうに顔を歪めてしまう。
また問いかけようと口を開きましたが、言葉を発する前に唇が塞がれました。
「あ、う……ん」
口付けられたまま着物が乱されて乳房が黒緋の前に露わになります。
乳房の膨らみを大きな手に包まれて、胸の突起を指で挟まれると腰にジンッと熱が灯ったようでした。
「もうやめてくださいっ……。お願いですから、見ないで……」
誰にも見られたことがない場所が暴かれていく。
あまりの羞恥に視界が涙で滲んでしまう。
這って逃げようにも両手は後ろ手に縛られて蓑虫のように身を捩ることしかできないのです。
「どうして、どうしてこんなことっ……。うっ……」
嗚咽を噛みしめました。
でも黒緋は構わずに私の腰を抱き寄せて露わになった太ももを撫であげます。
そして股の間に手を当てられて、指で割れ目をなぞられました。
「あっ! あうぅっ……!」
背筋を甘い痺れが駆け抜けました。
行き場のない痺れが体内をぐるぐる巡って怖くなる。なんとかしたくて足の指先を丸めて力を入れるけれど、どうにもならずに熱が高まっていくのです。
眩暈を覚えるほどの甘い快楽が体を支配していく。
全身が熱く高まって、どうしようもないそれに悶えました。
経験したことがない感覚に無防備のまま翻弄されてしまう。
「ああっ、あ……! っ、んんッ」
黒緋の指が私の中に入ってきます。
熱くなっていたそこはあっさり受け入れて痛みを感じることはありません。
徐々に指が増やされていって、時間をかけてそこを解されました。
「あうっ、ぅ……、ん……」
唇を噛みしめて必死に声を耐えます。
でも鼻にかかった声が漏れて、気を抜くとあられもない嬌声が出てしまう。
こうして充分解されると、ゆっくりと指が引き抜かれました。
「ああっ……」
引き抜かれる感触だけで声が漏れてしまいました。
ようやく異物感がなくなったけれど、そこは熱く熟れて無意識に股をすりあわせます。
意志に反する体の反応に私の瞳にまた涙が滲みました。
「うぅ、黒緋さま……、どうして……っ、どうして」
嗚咽交じりに訴えました。
でも黒緋は答えずに自分の夜着をはだけます。
そして指とは比べ物にならないものが押し当てられ、「ひっ」と喉が引きつる。
硬く反り返ったものが押し付けられたと思うと、ゆっくりと中に入ってきました。
「あ、やめ、やめて、くださ……! あっ、あうっ、う……んッ」
私は悲鳴のような声を上げましたが、熱に熟れたそこは抵抗なく受け入れてしまう。
体を暴かれていく感覚に目を見開きました。
「あ、あ……あ」
圧迫感と異物感に呼吸が詰まる。
うまく息が吸えなくて、はふはふと頼りなく息を吐きました。
「鶯、ゆっくりと息を吸え」
「むりです……っ。う、あ……んんっ」
未知の恐怖で強張る私を黒緋が優しく抱きしめてきました。
何度も口付けを落とされて、教えられるように息を吸う。
捩じ込まれる楔はどこまでも熱く容赦ないのに、落とされる口付けは泣きたくなるほど優しいもの。
どうしてと確かめたいのに、口から漏れるのは情けない喘ぎ声ばかり。
時間をかけて黒緋のものがすべて中に収められました。
でも黒緋はすぐに動いたりせずに私を抱きしめる。
下半身は自分のものじゃないかのように熱い圧迫感があるのに、抱きしめてくれる黒緋の温もりは切ないほど甘く優しくて困惑してしまう。
「鶯」
耳元で名を呼ばれ、私の肩がぴくりと跳ねる。
おずおずと見つめ返すと、そこには縋るような目をした黒緋がいました。
「鶯、出ていくなんて言うな」
「黒緋さま……」
「頼むから、俺の側にいてくれ」
「っ……」
私は息を飲み、……目を伏せる。
なんて酷い男だろうと思いました。
そんな縋るような目をして、どうしてそんな残酷な言葉を吐けるのだろうと。
だってそれは懇願だったのです。
「……黒緋様、お願いです。どうか帯を解いてください」
私は目を伏せたままお願いしました。
でも、だめだと黒緋は首を横に振る。
その返事に私は複雑な気持ちになったけれど、今はどうしても帯を解いてほしい。
「いいえ、解いてください。でないと、あなたを……、あなたを抱きしめられません」
「鶯、それじゃあっ……」
黒緋が嬉しそうに破顔しました。
すぐに両手首を拘束していた帯が解かれます。
解放された両手にほっと安堵すると、手首をそっと握られました。
「すまなかった。痕になってしまったな」
そう言って黒緋が私の手首に唇を寄せました。
その唇は手首から手のひら、指先までなぞっていく。
「鶯、俺から離れるなんて二度と言うな」
指先に口付けて黒緋は言うと、また私の唇を塞ぎました。
「ふ、ん……あ」
「鶯、鶯……」
口付けを交わしながら腰を抱かれます。
挿入されたまま抱きあい、黒緋がゆっくりと動きだしました。
「あ、あっ……ん」
私をいたわるような緩やかな動きですが、揺さぶられるたびに声が漏れました。
足の指先まで熱を灯すそれに私は堪らなくなってしまう。
私は黒緋の背中に両腕をまわしてしっかりとしがみ付きました。
強制的に与えられる快感を恐れてしまうけれど、黒緋が宥めるように両腕でしっかりと抱きしめてくれます。
「あっ、くろ……あけさまっ……、あ、ああっ、ん……くっ」
「鶯っ……」
黒緋の声もくぐもった声になっていました。
動きが早くなって限界が近いのだと感じます。
「ん、ああっ……。くろあけさま……、あっ……」
名を呼んで黒緋の頬に触れました。
両手で黒緋の頬を包み、私からそっと口付けます。
それは子どもの戯れのような拙い口付けでした。
でも黒緋は嬉しそうに目を細めて微笑んでくれます。
「鶯、これからも側にいてくれるんだな。ありがとう」
その言葉に私はなにも答えません。
でも黒緋を抱きしめる両腕に力を込めました。
すると黒緋も強い力で私を抱きしめてくれる。離すまいとするように強く、強く。




