二人目の赤ちゃん、その名は青藍。5
「お前はちょっと泣きすぎなところもあるが、どう育つか楽しみだ」
そう言って黒緋が青藍に手を伸ばします。
そのまま青藍を抱っこしてもらおうと差し出そうとしましたが。
「うぅ、うえええええええん!!」
青藍が大きな声で泣きだしました。
しかも私にぎゅっとしがみついて離れようとしません。
そんな青藍に黒緋が苦笑します。
「これは参ったな……」
「も、申し訳ありませんっ。ごめんなさい! 青藍はまだ赤ん坊で、まだなにも分かっていなくてっ……」
私は青藍を宥めながら必死に弁解します。
あまりの申し訳なさに身も心も縮こまってしまいそう。
青藍はちょっとしたことにも泣いてしまう泣き虫ですが、甘えん坊なので抱っこされたり構われたりすることは大好きなのです。でもこうして黒緋が抱っこしようとするとぐずって泣いてしまうのです。人見知りをしてしまうようでした。
「すみません。きっと人見知りをしているんだと思います。赤ん坊は人見知りをするのだと聞いたことがありますから」
「大丈夫だ、気にしていない。こういうこともある」
黒緋は鷹揚に笑って言いました。
本当に特に気にしている様子はありません。黒緋はいつもと同じ穏やかなままです。
でも私はそれに不安になってしまう。
それって諦めてしまったからではないかと。
青藍も紫紺のように黒緋の望むような強い子にならねばならないというのに。
「青藍も強くなりますっ。必ず強い子どもになりますから、どうかもう少し成長するまで待っていてください」
「ありがとう。気持ちだけで充分だ」
「いえ、必ず強い子にしますからっ……」
私は縋るように必死に言いました。
でも黒緋を見て心臓がぎゅっと締めつけられる。
黒緋は少し困った顔で私を見ていたのです。
「えっと……」
言葉が出てきませんでした。
呆れられてしまったでしょうか。
それとも諦めてしまっているのでしょうか。
泣き虫で怖がりな青藍ではダメなのでしょうか。
「なにしてるんだ?」
ふいに、ぴょこんっ。柱の影から紫紺が顔を出しました。
思わぬ長男の登場に私と黒緋の間にあった微妙な空気が消えてくれました。内心ほっとしながらも、私は気を取り直して紫紺に声を掛けます。
「紫紺、手習いはどうしました?」
「きゅうけいだ。そしたら、ちちうえとははうえのこえがしたから」
「そうでしたか。お邪魔してごめんなさい」
「ううん。ははうえのとこ、きたかったから」
紫紺は少し恥ずかしそうに言いました。
いつもはしっかりした紫紺ですが、この子もちょっと甘えん坊さんですね。
でも紫紺は私に抱っこされている青藍に気づくと怒った顔になります。
「せいらん、またないてたのか? あんまりなくと、ははうえがこまるだろ?」
「あう〜」
青藍の瞳がうるうる潤みます。
でも兄上の紫紺のことが大好きなので、小さな手を伸ばして構ってもらおうとしていました。
そんな弟の姿に紫紺もまんざらではありません。
「しかたないな! あにうえがいっしょにあそんでやる! こっちこい!」
「あい」
青藍はこくりと頷くと、私の抱っこから降りました。
そして渡殿を走りまわる紫紺の後を追いかけてハイハイします。
さっきはハイハイが疲れたと泣いていたはずなのに紫紺と遊ぶのは平気なようですね。
こうして遊びだした息子たちの姿を黒緋と私は見つめました。
無邪気な様子が可愛くて、思わず笑みが零れます。
それは黒緋も一緒のようで、彼もこの光景に朗らかに笑っていました。
「やはりいいものだな。子どもの遊ぶ姿は見ていて飽きない」
「そうですね」
私は頷いて子どもたちの姿を見つめます。
そんな私に黒緋が少し言葉に迷いながらも口を開きました。
「鶯、急がなくていいからな」
「黒緋様……?」
振り返ると黒緋は少し困ったような、でも優しい面差しで私を見ています。
「青藍もいずれちゃんと分かるようになる。急がなくていいぞ」
「ありがとうございますっ……」
私は胸がいっぱいになりました。
慰めだと分かっていても嬉しかったのです。
黒緋はまだ青藍に呆れてしまったわけではないのですね。
青藍も強い子どもになるように期待してくれています。
ならば私はそれに応えたいです。
私はどうしても黒緋の役に立ちたいのですから。




