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スズナもこれからは我慢しません

   * * *



 帰りの車の中で、俺たちは改めて誓い合った。

 必ず清香さんの仇を討つと。


「止めよう。何としても、俺たちの手で。これ以上、清香さんのような被害者を出さないためにも」

「はい」


 怪異を意図的に生み出す何者かがいる……。

 このことはすでに『機関』には報告済みだ。

 もっとも、秘密主義の塊である連中なら、とっくにそんな情報は持っているのかもしれないが。

 もしそうなら、なんとも腹立たしい。

 知っていながら、ヤツらは何も対策をしていないということだ。

 いつだってそうだ。

 ヤツらにとって重要なのは社会の秩序を保つこと。組織として動き出すのも、人間社会が脅かされる規模の案件が起きたときだけ。個人レベルの危機など、ヤツらの眼中にはないのだ。

 その僅かな悲劇が、大きな災害を生み出す要因になるかもしれないというのに。


 怒りに震える拳を、スズナちゃんが落ち着かせるように優しく手を重ねる。


「焦りは禁物ですよダイキさん。何事も『急いては事をし損じる』です。私たちなりのペースで、できることをしていきましょう」

「……スズナちゃんは、本当に立派だな。同い年とは思えないよ」


 今回のことといい、清香さんを救ったのも、清香さんのお母さんの心を慰めたのも、全部スズナちゃんだ。

 スズナちゃんがいなければ、清香さんはきっと怪異になってしまっていたし、清香さんの特集番組が作られることもなかった。


 俺の言葉に、スズナちゃんは気恥ずかしそうに微笑んだ。


「私は、自分の心に従っているだけですよ。それが亡き母の教えですから」

「そっか。本当に、立派なお母さんだったんだな」

「はい、自慢の母です」


 図らずも垣間見てしまったスズナちゃんの幼い頃の記憶。

 母の言葉を胸に刻みつけ、それを実行し続けるのは、容易なことではない。

 決して色褪せることのない母への愛情と尊敬があるからこそ、できることだ。

 やはり、スズナちゃんは凄い。

 しかしスズナちゃん本人は謙遜するばかりだった。


「私だってまだまだ未熟な小娘ですよ。母には全然及びません」

「そうかな」

「それに……まだ果たせていないお母様との約束もありますし」

「約束? どんな?」

「それはダイキさんでもお教えできません。乙女の秘密というものです」

「そっか。なら仕方ないな」

「……むぅ~。あっさり引き下がれると、それはそれでつまらないです」


 ぷく~と幼児のように頬を膨らませるスズナちゃん。

 精神的にはオカ研で一番成熟していそうな彼女だが、時折こんな風にあどけない一面を見せる。

 そこがまた可愛らしかったりするのだが。


「……実は清香さんに応援されたんですよ。『私の分までがんばってね』って。さて、何のことだとかわかりますかダイキさん?」

「え? それはやっぱり……生きることに対してとか?」

「……やれやれです。やはりダイキさんにはまだこのお話は早いようです」


 なぜかスズナちゃんに呆れの溜め息を吐かれてしまった。


「お母様の言ったとおりだったようですね。多少強引なくらいでないと殿方は気づいてくれないと。父もそうだったようですし」

「何の話?」

「いえ、こちらの話です。ただ……お母様の約束のためにも、何より清香さんのためにも、私もレンさんを見習ってこれからは我慢しないことにします。ルカさんのことは尊敬していますが、これとこれは話が別ですので♪」


 そう言うとスズナちゃんはいきなり俺の腕に抱きついてきた。

 むにゅうん、と豊満な乳房に埋没していく俺の腕!


「ちょっ!? スズナちゃん!? 何してんの!?」

「うふふ♪ ダイキさんとの恋人ゴッコ、とても新鮮で楽しかったのですが、やはり意識が曖昧だったので、せっかくですから改めて堪能しようかと思いまして♪」

「い、いや、する必要あるのソレ!?」

「黄瀬家の娘として立派な人材になるためには何事も豊富な経験が大事ですから。これもお母様の教えです」

「そっかぁ。それなら仕方な……くないよねぇ!? ほら、運転手さんも見てるし!」

「お気になさらず黒野様。いま後部座席に遮音ガラスを展開しますので。こちらからは何も見えない特殊な仕様ですのでご安心ください。どうぞ、ごゆるりとお楽しみください」

「そういうお気遣い結構ですから! ちょっと、なにサムズアップしてんすか!? うわっ! すげー! 本当にガラス張られて密室みたいになっちゃった! 黄瀬財閥の技術すげー!」

「ありがとう橘さん♪ それではダイキさん、せっかくですから二人きりの時間を楽しみましょう? うふふ♪」

「ス、スズナちゃん? 本当に、ちゃんと元に戻ったんだよね?」

「さあ、どうでしょう? 清香さんの影響で、スズナちょっと悪い子になってしまったかもしれません♪」


 悪戯っ子のように笑いながら、スズナちゃんは色香の滲んだウインクをした。

 それはどこか、清香さんを思い出させる仕草だった。




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