表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/155

アイドルだって恋がしたい


 翌日、俺はオカ研で事の顛末を説明した。


「というわけなんだ」

「お泊まり」

「いや、ルカさん? 注目すべきはそこではなくてだね……」

「二人きりで、お泊まり」

「わ、わかったよ、今度ルカの屋敷に泊まるから。それで機嫌直してくれ? な? 除け者にして悪かったよ……」

「七泊八日で」

「一週間丸々!?」


 黙ってスズナちゃんを親が不在の家に泊めたことは、やはりルカとしてはおもしろくなかったようで、何とか彼女のご機嫌を取りつつ話を本題に戻す。


「人気グラドルの大谷清香の霊がスズちゃんに憑依、か……。ルカ、どう? スズちゃん、いまどうなっちゃってるの?」


 話を一通り聞いたレンが心配げにルカに霊視するようお願いする。


「ずび……。よく見ると確かにスズナとは別の霊魂が入ってる。スズナの意識はいま眠ってる。いまのところ、害はなさそうだけど……」


 風邪の影響でまだ本調子でないルカは深い眉間ができるほど目を凝らしてスズナちゃんの状態を確認した。

 スズナちゃんは無事なのか。それが一番の気がかりであったが、ルカの言葉を信じるなら、いまのところスズナちゃん本人は危機的状況に陥っているわけではないようだ。


「きっとスズナが大谷清香さんを『可哀相』と思ったから、その優しい気持ちに引き寄せられちゃったんだ。未練を残した魂は、特に暖かい心を持った人間の傍にいたがるものだから」


 ルカがそう説明する。

 よく聞く話だ。車に轢かれた猫の死骸を哀れに思うと猫の霊がついてくる等、霊は陽のエネルギーを求める傾向がある。

 特にスズナちゃんのように裏表のない純真無垢な少女は好まれやすいようだ。


「スズナはただでさえ陽のエネルギーが強いし、なにより心がとても清らかだから。霊にとっては憑依先としてすごく居心地が良いの。うまく言えないけど……魂の色が透き通っていて綺麗なんだ」


 魂の色が綺麗か……。

 普段のスズナちゃんを見ていると納得してしまう自分がいる。

 お茶目なところもあるが、スズナちゃんがそこにいるだけでその空間は穏やかな雰囲気となるし、こっちまで優しい気持ちになる。

 霊もどうせ憑依するなら、そういう住み心地のいい清潔な場所を選ぶということか。元は人間なのだから、考えてみればその通りなのかもしれないが。


「でも、あの程度の霊力であっさりと憑依できるとは思えない。だから……たぶん、スズナ自身が受け入れちゃったんだと思う。スズナ、誰に対しても優しいから……」


 ありえる話だ。

 見知らぬ人間の魂が入り込んできたら拒むのが普通だが……心優しいスズナちゃんなら「それであなたの魂が救われるなら」と受け入れてしまうかもしれない。

 なにせ虫も殺せないほど、深い慈しみの心を持つ少女だ。

 実際ルカの霊視によると、特にスズナちゃんの魂から助けを求める反応は見受けられないそうだ。

 憑依した大谷清香さんのために、あえて沈黙しているのか。

 ……とはいえ、やはりこのままにしておくわけにもいかないわけで、昨夜に引き続き、俺は交渉を試みた。


「大谷清香さん……お願いです。その体はスズナちゃんのものです。どうか出ていってください。あなたには同情していますが……スズナちゃんはオカ研の大切な仲間なんです。だからどうか彼女を返し……」

「うまあああ!? 新作のチョコ菓子うっまあ! うぅ! 幸せ~! もう二度と食べられないと思ってたスイーツが食べられるなんて!」

「いや、ちょっと聞いてくださいってば!?」


 真面目な話をしたいのに、肝心な清香さんは先ほどコンビニで購入した山のようにあるお菓子に夢中で聞く耳を持ってくれない。


「うぅっ……グラドル時代は体型維持のためにほとんどお菓子なんて食べられなかったから超感動~! ああ~! 生を実感する~!」


 くっ……。そんな幸せそうな顔で涙を流している姿を見ていると強く言い出せないじゃないか。


「うわぁ。スズちゃんがあんなにガツガツとお菓子頬張ってるの、凄い違和感……」


 レンがドン引きしながらそう言う。

 同感だ。いつものスズナちゃんならコンビニスイーツですら食べる姿が優雅なのに、いま目の前にいるのは完全にダイエットを諦めた食べ活女子である。

 生前はよほど我慢していたのか、結構な量だったお菓子も、あっという間になくなってしまう。


「はぁ~、満足~♪ やっぱ甘い物はいいものだね~♪ 心まで満たされていくようだわ~♪」

「あ、そうですか。じゃあもう未練ないですよね? ルカ~、除霊しちゃって~」

「あいあいさ」

「あああっ!? 待って待って! まだ! まだ未練残ってるから! 一番やりたかったことまだやれてないから!」


 レンが除霊の指示をすると、清香さんは慌てて俺たちから距離を取った。

 そんな彼女の様子をレンは呆れ気味に見る。


「未練~? あのですね~清香さん? 仮にもいい歳した大人が未成年の体を乗っ取って好き勝手していいと思ってるんですか~? しかも、その未練の内容が何ですか? ……男の子と一度でいいからお付き合いしたい!? ふざけてんですか!?」

「ふ、ふざけてないよ! 真剣も真剣だよ! だ、だって……私一度も男の人と交際したことないんだもん! 事務所の言うとおり恋愛は禁止にしてきたんだもん! なのに周りは普通に破ってる女の子ばっかりでさ!? 真面目にルール守ってた私がバカみたいじゃない!? 私だって……したいんだよ~! 恋が~!」


 スズナちゃんの愛らしいお目々をバッテンみたいな形にしながら清香さんが心からの叫びを上げる。


 そう……なんとあの人気グラドル大谷清香の未練とは、生前に男と交際できなかったことだったのだ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ