別れるな
スマートフォンの通知が鳴る。
鳴り止まない辺り、電話らしい。
俺のではなかった。
「レン。お前のスマホか?」
「え? 違うよ? ルカのじゃない? ……ルカ?」
スイーツを食べていたルカの手が止まっている。
ルカの目線は、一点に注がれている。
それは……。
「……皆瀬さん! 離れて!」
「え?」
電源を切ったはずの、皆瀬さんのスマートフォン。
それが……通知を知らせていた。
「う、嘘……なんで? 電源を、切ってるのに……」
顔面を蒼白にして、皆瀬さんは席を立つ。
鳴るはずのない電話。
バイブレーション機能がまるで唸り声を上げるように、テーブルの上で振動し続けている。
「おい、ルカ、これって……ルカ?」
ルカの様子がさっきからおかしい。
ずっと皆瀬さんのスマートフォンを凝視している。
「嘘……なんてこと……。【アカガミ様】って……そういう意味なの?」
どんな怪異にも冷静に対応してきたルカが……激しく動揺していた。
「なんて……なんてことをしてしまったの、あなたはっ」
「え? え?」
あのルカが、冷や汗をかいている。
それだけでなく感情的に皆瀬さんを責め始める。
こんなルカは珍しい。
いったい何が……。
──ァ……ッ……ゥ……
ふと、皆瀬さんのスマートフォンから通知とは異なる音が漏れ出る。
それは……。
──アッ……アァア……アアアアアアアアアァアアァアア……
この世の者の声ではなかった。
「ひっ!?」
レンが反射的に俺にしがみつく。
「あっ……あぁ、あぁ……」
皆瀬さんも腰を抜かす。
頭を抱え、ガクガクと体を震わせる。
「……やめて……もう、やめて……別れません……別れませんから、お願いします……もう出てこないで!」
切羽詰まった声で、皆瀬さんが叫ぶ。
周りが「何事か?」とこちらを見てくる。
……他の人にはこの声が聞こえていないのか?
皆瀬さんと俺たちには聞こえているのに。
「……話を聞いたから」
「え?」
「【アカガミ様】の話を聞いた。だから私たちにしか聞こえていない」
俺の疑問を見透かしたように、ルカが言う。
「これは……『警告』。……そうでしょ、皆瀬さん?」
ルカの問いに、皆瀬さんが震えながら頷く。
「ハヤトくんが変わってから、『出る』ようになったんです……。ずっと、ずっと、毎日まいにちまいにちまいにち……ハヤトくんと別れることを考えるたびに……私を脅すんです! 『別れるな』って! 『破ったらどうなるかわかってるよな?』って! 窓に貼りつきながら、言ってくるんです!」
恐怖で錯乱した少女は……その名を告げる。
「……【アカガミ様】が、来るんです!」




