足掻き
―――パタン
―――……
「……今更ですけど、ラルフくんて何者です?」
静かになった部屋でノベルさんが口を開いた。
―――スッ
イオリさんが窓の外に目を向ける。イオリさんはそのままノベルさんを見ないで答えた。
「俺たちはセンコウの試験会場で会ったんだ。それ以前のことは分からねえ」
「ラルフくんの出身は?」
「知らねえ」
「あ、やっぱりカタス国じゃないんですね。東であの髪の色って見ないですもんね」
『え?』
「?どうしたタナカ」
『あ、いや……』
思わず聞き返してしまった。金髪って珍しいの?
『……あの、私のところでは金色の髪って珍しくないんで……あ、私の国では金髪で生まれてくる人はそう居ないんですけど外国にはたくさん居るんで……なんか、意外でした』
「……そうか」
イオリさんがそっと視線を外す。……なんかまずいこと言っちゃったかな。
―――ザッ!!
「というかノベル殿!貴殿こそ何者なのだ!!」
「え?」
「『確かに』」
勢いよく立ち上がったユラさんに激しく同意する。そうだ。なんとなく聞いちゃいけないのかなって思ってたけどノベルさんだって謎だらけだ。
「武器商人、技術者、新型爆弾開発の責任者、そして実はモートン国出身で極秘情報を知っていて悪の組織を潰そうとしているという……謎だらけだぁぁぁ!!」
うがぁー、とユラさんが床を叩く。全くもってその通りだ。ノベルさんは、あはは、と他人事のように笑っている。
「確かに信用ならないですよね。うん。僕が皆さんでしたら絶対一緒に行動したくないですもん」
「「『……』」」
「そんな目で見ないで下さいよ」
……胡散臭い。ここにきてノベルさんがものすごく胡散臭い人に見えてきた。え、まずくない?私たちとても危険な人とタッグを組んでしまったのでは……?
うーん、と顎に手を当てて考え事をしているノベルさん。あ、ダメだ。なんかこの姿も全てが胡散臭く……
「王子です」
王子ってあれか、プリンスだ。ディズ○ー映画とかに出てくるイケメンの……
『……うん?』
「え?」
「は?」
「僕はモートン国の第三王子です」
「「『……』」」
だ い さ ん お う じ ?
「……おいおい、滅多なこと言うんじゃねぇよ。そんなこと言ったら胡散臭さに拍車が」
「これ家宝です」
―――すっ
そう言ってノベルさんは懐から何かを取り出した。
「「『……』」」
大きなペンダントだ。細かく美しい装飾が施されていて真ん中に紫色の宝石がはめ込んである。ノベルさんの目と同じ色だ。
見入っていると、ユラさんが小さく口を開いた。
「……モートン国では……昔、紫色の珍しい石が掘れたと……聞いたことがある……」
「『?』」
「はい」
「しかし今は発掘できず、もう一つしか残っていないと……」
「『??』」
「ええ」
「そのため……代々、王家の……優秀な者一人が、その石を持つことを許されるという……」
「『……』」
「そうですそうです」
「そういえば……今、その石を所持している王子は……石と同じ瞳の色をしていると噂で聞いたような……」
「当たりです!」
ほら!と自分の瞳を指さすノベルさん。わーホントだー同じ色だーすごー……
……
……
―――ズザザザァァァァッ
「「『えええええええっ!!』」」
私たちは部屋の隅まで後退った。
『えっ、えっ、お、おうっ!?』
「なんでだよ!なんで王子がここにいんだよ!!」
「ノ、ノベル殿、いやノベル王子っ、あの、数々の無礼はイオリが身を以ってつぐな」
「ざけんなァァァ!!」
パニック!パニックだ!!
「いや、というか、あれだ、なんで王子がオウド国に派遣されてんだ!!おかしいだろ!!」
「『!!』」
イオリさんの必死の突っ込みにハッと我に返る。そうだ!なんで王子がこんな危険な場所にいらっしゃるんだ!!え、やっぱり嘘なのかな?いや、でもあの家宝は……
「僕が希望したんです」
「え?」
「最初は反対されたんですけど強く希望したら行かせてくれました。融通が利く第三王子で良かったですよ」
「な、なぜ、そんなに行きたかったのだ?」
「気持ち悪かったから?」
「え?」
ノベルさんがへらっと笑う。
「僕は生まれつき頭が良かったから、王子という特権もあって、王室お抱えの医者や技術者が集まる研究室に自由に出入りすることが出来たんです。そこで、あの国が何をしようとしているのかを知りました」
「「『!』」」
“モートン国では何年にも渡って、密かに生物兵器の研究が行われています”
「知った時は恐ろしかった。自国を守るためとはいえ、人間が人間を殺そうと真剣に研究をしている。しかもそれを指示しているのは王家……自分の家族だ。毎日笑いながら食卓を囲んでいる家族が、どこかの誰かを殺そうとしてる……気持ち悪かった。吐き気がした。でも何も言えなかった、だから」
ノベルさんはふっと床に視線を落とした。
「見て見ぬふりをして、慣れてしまった……」
『……』
「オウド国が生物兵器の技術を欲しがってきたのは、二年前です。そして三か月前、それとは別に敵国調査の依頼がきた」
「……」
「……」
「僕は“神”がどんな者なのか分からないけど運命というか、行け、と言われてるような気がして……いや、」
言葉を切り、ちがうな、と小さく呟いた。
「神とか運命とかそんなんじゃなくて、僕が行きたかったんだ」
紫色の瞳に光が宿る。
「国を出た時も、オウド国に着いた時も、自分が何をしたいのかよく分かっていなかった。でもアメリア国に入国した日、国民の前で話すラシュナ姫を見た時に……なんか気付かされたんです」
“何処にいるのか分からない悪魔を捜すよりも、一人でも多くの者を幸せにするために時間を割くべきだ”
「涙が出た。どれだけの勇気と覚悟を持ってあの場所に立っているんだろう、って……」
ノベルさんが空を見つめる。紫の瞳が揺れている……。まるで、その時の光景が見えてるみたいだった。
「それから、すぐに姫に会いに行きました。身の上は細かく話さなかったけど、自分に出来ることを言って、何か手伝える事はないかと聞いたら、兵器製作所に潜伏して欲しいと言われた。近いうちに、その場所を利用して囚われた者たちの解放を兄に乞うかもしれないから……って」
呆れたようにノベルさんは笑った。
「僕から訪ねて行っといてなんだけど、そんな簡単に信じちゃうんだ!って思いましたよ。ああ、この人馬鹿なんだって……でも、嬉しかった」
『……』
「あとは皆さんもご存知の通り!姫に感化された僕は、終わりが来る前に自分のモヤモヤを解消しようと、悪の組織を潰すことを決意したのでしたっ」
ちゃんちゃん、と明るく指を振ってノベルさんは話を終えた。
「……ありがとな」
「へ?」
ぽつりとお礼を言ったイオリさんを、ノベルさんはきょとんと見つめた。
「何て言えばいいか分からねえが……ここで会ったのがお前で、良かった」
「うむ。ノベ……王子殿、」
「ノベルでいいです」
「あ、そう」
『……』
「……僕からも、一つ聞いていいですか」
「うむ?」
一度口を結んでから、ノベルさんは真面目な顔で訊ねた。
「皆さんは、どうしてここにいるんですか?」
どうして……?
それは三人がカタス国のセンコウで、キヨズミさんに行けって命じられたからで……任務は終わって、本当だったら帰るんだけどオウド国が危険なことを行おうとしてるかもしれないからそれを阻止するためにここにいる……んだよね?
それはノベルさんも分かってるはずだ。何で今更そんなこと……。
「……タナカは、この星で最初に会った俺たちを信頼して付いて来てくれてる」
『!』
そうだ。私は皆と離れるのが嫌で、それが理由で付いてきた。その気持ちは今も変わらない。
「俺とユラは……」
「……」
イオリさんとユラさんの視線が静かに交わる。
「……最初は、他人に言われて、仕方なくラルフと一緒にいた。だが……今は違う。あいつといたいから、俺たちはここにいる」
『……』
「それが理由だ」
「……そうですか」
ありがとうございます、とノベルさんは小さく頭を下げた。




