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憧れ
―――コツッ、コツッ、コツッ
王の間を出た男は興奮していた。自分の想いが彼らに通じ、晩餐会に参加してもらえることになったからだ。
「あ!」
階段を降りきったところでこちらに近付いてくる人影を捉えた。男は咄嗟に壁に寄り、深く頭を下げた。
―――コツ、コツ……コツ
足音が止まる。同時に苦笑交じりの吐息が聞こえた。
「顔を上げろ。お前は今、王の代理なのだぞ」
「!あ、はい!!」
慌てて頭を上げる。目の前の人物の目元が笑っていることを確認し、男は安堵した。目の前の――宰相は、独特の低く深い声で男に話し掛けてきた。
「彼らの報告はどうだ」
「あ、はい!素晴らしい情報を手に入れました!!一刻も早くエポナ様にっ」
「落ち着きなさい……。わかった、これからゆっくり話を聞こう」
「はいっ!」
静かに笑いながら宰相は歩き出した。
―――コツ、コツ
男はその後ろ姿をぼんやりと眺めた。
「……」
寡黙で鋭い瞳を持つ宰相は周囲から恐れられている。自分もそうだった。でも、今は違う。宰相は広くて優しい目で物事を見ている。こうやって笑うこともある。いつしか自分の憧れになっていた。
「いつまでそこに立っているつもりだ、置いて行くぞ」
「!あっ」
―――タタッ
慌てて駆け出し、その背中に呼びかける。
「待ってください、ゴデチア宰相っ!」




