違和感
―――ザワザワ
―――ワイワイ
午後、私たちはオウド国に入国した。ここを発ってから10日くらいしか経っていないのにとても久しぶりな感じだ。
街には前と同じく白い服を着た人たちがいて、笑顔で挨拶を交わしていた。
「こんにちは」
「良い天気だねー!」
「今朝うちの子がね、」
みんな穏やかで楽しそうだ。でも……
“オウド国は暗殺集団クラーレと繋がっている”
“オウド国はそのことを知り秘密裏に交渉してきました。生物兵器の技術と引き換えに延命薬の技術を提供しよう、と……クラーレとの繋がりを疑うには充分過ぎる情報だと思いませんか?”
この国特有の白い服を着た人たちも、綺麗だと思った空高くそびえるお城も……10日前とは違って見える。
「タナカ殿、どうかしたのか……?」
『え?あ、いえ!ぼーっとしてました!』
「……気をつけて歩けよ」
『はい!』
わだかまりを振り切るように、私は前を向いた。
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「!お帰りなさいませ、王の間までご案内させていただきます」
ロレンスさんに調査の報告をするため、私たちはオウド城に入った。重い扉を抜けて長い螺旋階段を上る。教会のような王の間で暫く待っていると、奥の扉がゆっくり開いた。
―――ガチャ……
『……え?』
思わず声が出てしまった。現れたのはロレンスさん――ではなく、ひょろりとした男の人だった。イオリさんとユラさんも目を丸くしている。
「……」
ノベルさんは紫の瞳でじっとその人を見ていた。
「皆様、潜入調査ご苦労様でした」
細く、柔らかい声で男の人は言った。20代くらいだろうか?大人しそう……というより、なんだか頼りなさそうな人だ。
「ロレンスは所用で他国に赴いております。あと数日で戻りますが、それまでは私が代わりを務めさせていただきます」
『!』
「……着いたばかりで申し訳ありませんが、早速調査の報告を聞かせていただけますか?」
ロレンスさんの代わりってことは、王の代理ってことだよね?この人で大丈夫なのかな……。
―――スッ
私が失礼なことを考えていると、端にいたノベルさんが前に出た。
「初めまして、モートン国のノベルです。今回、こちらのカタス国の方々と偶然一緒になりまして、合同で調査を行いました」
「……え、どのように合流されたのですか?」
「僕は技術者としてアメリア国内の兵器製作所に潜入していたのですが、そこに四人が清掃と警備の従業員として入ってきました」
「なるほど……」
男の人が頷いたのを確認するとノベルさんは再び口を開いた。
「オウド国が睨んでいたとおり、アメリア国には怪しい動きがありました。ドグリア王は秘密裏に新型爆弾の開発を進めていたのです」
「新型爆弾……!」
「はい。しかし、王の妹・ラシュナ姫の抵抗があり新型爆弾の計画は中止。彼女の強い意志によって開発に関する資料も全て灰になりました」
うん?
「ラシュナ姫は高度の博愛主義者です。今までドグリア王の影に隠れがちでしたが部下と立ち上がり、王に反旗を翻しました。本来であれば製作所にいた人間は簡単に国外に出られないのですが、ラシュナ姫の庇護を受け、僕たちは出国することができたのです」
すらすらと淀みなく語るノベルさん。でも、あの、それ嘘ですよね?王の代理の人にそんな嘘言っちゃっていいの!?
「……これはあくまで僕個人の考えですが、アメリア国がオウド国に攻撃を仕掛けてくることはもうないと思います」
「なぜ、そう思のですか……?」
ノベルさんは顎を引いて真っ直ぐ男の人を見つめた。
「ドグリア王は国外ではなく、国内での出来事に固執していました。外への攻撃も、結局は内での自分の地位を守るためだったんだと思います。もうじき西大陸中の噂になると思いますが、今回の件でラシュナ姫は自らアメリア国を出て行きました。王の一番の脅威が去ったのです。そしてもう新型爆弾を作る手立てもない……残された時間でドグリア王が他国を攻撃するとは、僕には思えません」
―――……
静寂の中、男の人が頼りなげに私たちに顔を向けた。
「あの……カタス国の方々も、同じお考えですか?」
「「『……』」」
―――スッ
一呼吸置いたあと、ユラさんが前に出た。
「はい。我々もノベル殿と同じ考えであります」
「……そうですか」
男の人は一度瞬きをすると、細い声を大きくして私たちに言った。
「危険な任務、本当にご苦労様でした。あなた方の友愛に深く敬意と感謝の意を表します。このことは責任を持ってエポナ様に報告させていただきます。エポナ様もきっとお喜びになることでしょう」
「「「『……』」」」
「エポナ様への報告が終わり、お言葉を頂いたところで皆さまの任務は終了となります。エポナ様の体調次第ですが、きっと明日にはお伝えできると思います。あと、これは、お誘い……というかお願いなのですが、」
「?、ええ」
男の人は言葉を切ると、両手を大きく広げて言った。
「二日後の晩餐会に是非、参加していただきたいのです!!」
「「「『晩餐会?』」」」
先ほどとは打って変わって、その人は興奮した様子で話し始めた。
「私どもは同盟国の皆さまに心から感謝しております、ですから盛大に御もてなしをさせて欲しいのです!!」
―――すっ……
「あの、」
「はい?」
ノベルさんが小さく手を挙げた。
「とても有難く身に余る光栄なのですが、200年目を前にした今、一刻も早く故国に帰りたいというのが正直な気持ちでして」
『!』
また嘘をついた。
男の人は困った顔をして黙り込んだ。けれど、やがて小さく口を開いた。
「……皆さまのお気持ちは、もっともです。こんな時に我が国に来ていただいて、有難いことはもちろん、とても申し訳ないという気持ちもございます……」
「……」
「ですが……」
男の人は顎を引き、芯のある声で言った。
「この晩餐会はエポナ様が強く望まれたものなのです。あまり大きな声では言えないのですがエポナ様の体調は思わしくありません……私は、いや、この国の者はエポナ様に返しきれない程の恩があるのです。ですから、王の望みは何としてでも叶えたいのです」
「……恩、というのは“奇跡の技”のことでしょうか」
「!……他国ではそう言われているようですね。無理もありません、本当に奇跡のような技ですから」
「といいますと……」
「エポナ様は優れた医療技術をお持ちなのです」
「「『!!』」」
「常識で考えたら治癒しないような病をエポナ様は治すことが出来るのです。そしてその技術を惜しみなく、この国に住む全ての者に施してくださるのです」
「王自ら治療するということですか?」
「いえ、薬を施してくださるのです」
「薬……」
「延命薬、とでもいいましょうか……」
『!』
「エポナ王の齢が200を越えるのも、その延命薬を投与されているからでしょうか」
「はい」
「しかし、今は体調がよろしくないと……」
「ええ……」
男の人は沈痛な面持ちで俯いた。
「……すみません、これ以上詳しいことはお話出来ないのですが……とにかく、今の我々があるのはエポナ様のお蔭なのです。そのエポナ様が皆様に感謝の想いを届けたいと強く望まれました。私はどうしても、王の望みを叶えたいのです」
「……」
―――スッ……
「失礼なことを言ってしまい、申し訳ありませんでした」
ノベルさんが深く頭を下げた。
「二日後の晩餐会、是非、参加させてください」
「!」
「……我々カタス国も参加させていただきます」
「!!、ありがとうございます……!」
男の人はとても喜んだ。
晩餐会まではどうぞゆっくりお過ごしください、と告げて、その人は笑顔で去って行った。




