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ライフ  作者: 道野ハル
アメリア国[後篇]
92/162

行先



―――ザクッ、ザクッ、ザクッ……



 長い列が 暗い砂漠を進み続ける

 

 その先に幸福があるのかは分からない


 どこまで進むことが出来るのかも分からない

 

 ただ今は 進む


『……』


 その光景は寂しく悲しいものだった。しかし正子はどこかで希望も感じていた。



―――……



「……総員、撤退。地区内に戻り負傷者の確認をする」

「「「「「!はっ!!」」」」」」

『!!』



―――ザッ



 ドグリアの一声でアメリア軍が動き始める。正子達は固唾を呑んでその様子を見守った。



―――……スッ



 ふと、ドグリアがノベルに視線を向けた。


「!」

「……」



―――……ザクッ、ザクッ



 ドグリアはノベルから目を逸らすと、何も言わずに兵を連れて来た道を戻って行った。



―――……



「「「『はぁ~っ!!』」」」


 正子達は大きく息を吐き出した。


「見逃した、とゆうことか!?」

「ですかね?」

「奇跡だな……」

『よ、よかった!!』

「ふあ~」


 四人は胸を撫で下ろした。


「お前、これからどこ行くつもりだ?」


 ふいにイオリがノベルに訊ねた。


「あ、オウド国です」

「あ?悪の組織がなんとかって言ってたのは嘘か」

「あー……まあ、はい」

「「『?』」」


 珍しく歯切れの悪いノベルに三人は眉を寄せた。


「なにがあるの?」

「え」

「あの国に」


 ラルフが静かにノベルを見つめる。ノベルは黙り込んだ。が、やがて息を吐くと観念したように話し始めた。


「あの国は、アメリア国以上に危険な所かもしれません。だから皆さんも長居しない方がいい」

「!どうゆうことだ」

「西に来てから嫌な噂を耳にしました」

「噂?」

「“オウド国は暗殺集団クラーレと繋がっている”」

「「『!!』」」


 “暗殺集団クラーレ”。


 三人の脳裏にナウェ国での出来事が蘇った。


「なぜ、そんな噂が……」


 ユラの問いにノベルははっきりした口調で答えた。


「クラーレはどこの国にも属さない集団ですが、使用する武器から察するに、背後に大国が付いているのは間違いないと言われてきました」

「武器……?」

「彼らは普段は鋭利な短刀を使いますが、特に重大な任務の時は薬が搭載された武器を使うらしいんです」

「薬だと?」

「はい。詳しいことは分かりませんが、世に出回っていない未知の薬だという話です」

「「……」」

「クラーレは元々は小さな村を襲う盗賊のようなものだった。それがいつしか政治に関わる要人や軍人の暗殺を行うようになった。実際、彼らが暗殺を行った影響で国政が変わった国がいくつもあります」

「なんで、そいつらとオウド国が繋がってるなんて噂が……」

「彼らが暗殺を行うようになった時期と、オウド国が軌道に乗り始めた時期が同じだからです」

「!」

「……しかし、時期が同じというだけで決め付けるのは、いささか早計ではないか?」

「……」


 ノベルは黙った。


「……他にも、何かあるのか」

「……」

「教えてくれ」


 ノベルはイオリの瞳を見返すと閉じていた口をゆっくり開いた。


「……オウド国は神を慕う敬虔な面を持ちながら、世界最先端の技術を隠し持っていると僕は考えています」

「なぜそう思う……」


 彼は顎を引いて四人を見据えた。


「王が使うとされる奇跡の技は人知を越えたものではなく、優れた医薬品だと思うからです」

「「『医薬品……?』」」


 予想外の言葉に三人は戸惑った。


「僕は、東大陸のモートン国出身です」

「!あの医療大国か」

「はい」


 ノベルの口元に自嘲めいた笑みが浮かぶ。


「大国ってのは厄介です。色んな事に傲慢になって、他の国に住む人間が見えなくなる」

「……」


 彼の言葉は乾いていた。


「あ、話逸れちゃいましたね」


 ノベルはすぐに表情を戻すと冷静な口調で続けた。


「モートン国では何年にも渡って、密かに生物兵器の研究が行われています」

「!!」

「生物兵器……!?」

「はい。オウド国はそのことを知り秘密裏に交渉してきました。生物兵器の技術と引き換えに延命薬の技術を提供しよう、と。……クラーレとの繋がりを疑うには充分過ぎる情報だと思いませんか?」

「「『……』」」

「本当に危険なのはアメリア国じゃない。オウド国だと、僕は思っています」



―――……


―――……



「……俺たちは、なんで呼ばれたんだ……」


 重苦しい沈黙の中、イオリが口を開いた。


「200年目のこの時にっ、どうして」


 イオリの拳が小さく震える。ノベルはそれを見つめると、顔を上げて改めて四人を見据えた。


「恐らく、僕らも他国の者たちも、オウド国の計画を遂行させる為に必要なんだと思います」

「……計画、だと?」

「全貌は分かりません。でもきっとオウド国は何かしようとしていて、それには多くの“他国”の人間が必要なんです。きっと大事なのは人数じゃない――“関わる国の数”なんです」

「……確かに、我々もおかしいとは思っていた。少数精鋭を所望しながら、なぜ多くの国の者を呼んだのか……と」

『……』

「……お前は、これからどうするんだ?」


 イオリは再びノベルに訊ねた。


「僕はオウド国の実態を確かめたい。そしてそれが人間の命を脅かすものなら、潰します」

「アンタはさ」

「え?」


 今まで黙っていたラルフがふいに口を開いた。


「なんのために潰したいの?」

「なんのためって……」


 誰も犠牲になってほしくないから――と言おうとしてノベルは口を閉じた。


 誰も犠牲になってほしくない。


 なぜ、そう思うのか。自分は聖人でも善人でもない。どちらかというと汚い方の人間だ。なのになぜ、そんなことをしようとするのか。


 それは……


「……今までの自分が、好きじゃないからだ」


 無知だった自分、世の中を知った自分、それが悪いと思った自分、そして……悪いと思いながらも、見て見ぬふりをすることにした自分。


「……引っ掛かったものをそのままにしたくない。200年目だから……折角だから、なりたい自分になろうと思ったんだ」


 こんなことを他人に打ち明けるのは……むず痒い。しかし、話し終えた自分の口元は小さく笑っていた。


「オウド国どっち?」

「え?」

「とりあえず早くメシ食べたい」

「はい?」

「うむ。ノベル殿、案内を頼む!我々はここが何処であるのか全く分からぬからな!!」

「いばるな」


 三人の反応に戸惑うノベル。


『あ、あの、ノベルさんが戸惑ってますよ?』

「ああ、」


 イオリはノベルに漆黒の瞳を向けた。


「俺たちはカタス国のセンコウだ。神の意思で動く」

「……神の意思?」

「神は、人命を脅かすものを放っておかない」

「……」

「俺たちはそう思ってる」


 妄想だ……とノベルは思ったが、イオリの目は確信に満ちていた。その確信は、こちらまでその気にさせてしまうほど強いものだった。



―――……すっ



 ノベルはゆっくり手を上げて東の方角を指した。


「……こっちです」



―――ザクッ


―――ザクッ、ザクッ、ザクッ



 五人は歩き出した。

 


―――ザクッ、ザクッ



「……むう。今夜は野宿か」

「仕方ねえだろ」

『久しぶりですね、野宿』

「タナカ、いびきは勘弁してね」

「「……」」

『(二人ともフォローしてくれない……)』

「ぷっ」

『ノベルさん!?』

「ごめんごめん!」



―――スッ



 ノベルは空を見上げた。……真っ暗だ。見ていて楽しくなるような空ではない。しかし、彼の心は弾んでいた。


「……ふっ」


 ……また面白い人間に会ってしまった。世界は終わろうとしてるのに、この世はまだまだ面白い。


『?、ノベルさん、どうしたんですか?』

「いや、みんなイカれてるなあって」

「一番はお前だけどな」

「うむ!ノベル殿は変人だ!!な!ラル……」

「zzz……」



 月も星も見えない夜を歩く


 その先に何があるのかは分からない


 でも


 五人は確かにそれぞれの足で 次の場所に向かっていた

  



                        アメリア国・後篇【終】




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