消えゆく陽
兵器製作所。最上階。
「……」
沈む夕陽が放つ最後の光が弱々しく室内を照らす。ラシュナは一人椅子に腰かけ、クロトたち数名の部下を待っていた。彼らと最後の会議をしたのち、ドグリアと対面する。
―――コンコン
「入れ」
―――ガチャ
「どうも」
「……は?」
そこに現れたのはクロトたち……ではなく金髪の少年だった。
「お前、何をしている……?」
一体どうやってここまで来たのか。クロトが許可を出したのか――いや、彼が何の相談も無しにそんなことをする筈がない。
「メガネからの伝言」
「メガネ……ノベルのことか?」
「うん」
状況が理解できないがとりあえず耳を傾ける。
「王との交渉は諦めて、囚人を連れてここを離れろって」
「なに?」
「早くしなよ。今がチャンスだよ」
「どうゆうことだ」
「みんなパイプ壊れて大騒ぎしてるから」
「!!」
この地区と施設に張り巡らされている何百本ものパイプ。そこには新型爆弾の開発に不可欠な特殊な気体が流れている。その気体は空気に触れると数十分で爆発を起こす。規模は小さいが、同時に多発すれば大きな被害になりうる危険なものだ。
―――ガタッ
ラシュナは立ち上がると、部屋の出口に足を向けた。
「どこいくの?」
「パイプが破損した場所だ。案内してくれ」
「こわしたの俺だよ?」
「え……は?」
足を止め、少年を見つめる。
「……どうゆうことだ?」
「騒ぎおこして、その隙にアンタに逃げてほしいみたい」
「誰かの指示なのか」
「メガネ」
「……なぜ、」
「アンタに死んで欲しくないんだって」
「え」
再び、少年の茶色い瞳を見つめる。
「アンタだってわかってんでしょ?」
「なにを……」
言いかけて、ラシュナは黙った。彼の目の奥に得体の知れない何かが潜んでいるように見えたからだ。
「願いは叶わない」
「……」
「それでもいいから行動したい」
「……」
「アンタが不幸になることで、不幸になる人間もいるよ」
知らない場所をトンと突かれたような気がした。
―――スッ
少年が横を通り過ぎる。
「……」
ラシュナは動けなかった。部屋を照らすオレンジの光は色を失いつつある。暖かったはずの部屋が冷たいものへ変わっていく。
「あ、」
薄暗いドアの前で、少年がくるりと振り返る。
「アイツは倉庫に立てこもってるよ」
―――バタン
ドアは何の感情もなく閉じられた。
「……」
弱々しい光は、あと僅かで消えようとしていた。




