同類
―――タタッ
「クロト隊長っ」
「どうした」
いつも冷静な部下が、どこか慌てた様子で走り寄って来た。
「ノベルが、新型爆弾の倉庫内に、人質をとって立て籠りました……」
「……なんだと?」
一体何が起こったのか。
“いえいえ”
“ちゃんと守ってくださいねっ”
……ノベルが自分に渡した鍵は偽物だったのだ。彼はもともと立て籠もるつもりで鍵を渡さなかった。人質は……姫派の誰かだろう。自分たちの仲間であれば、易々と捕らわれることはない。
「このことを他に知る者は?」
「自分と、一緒に見回りをしていた者だけです」
知っているのは王派のみ――。
「私がノベルと交渉しよう。誰も倉庫に近付けるな」
「はっ」
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―――コツ、コツ、コツ
「あ!その音はクロトさん!?」
倉庫がある地下へ降りると、扉の向こうから明るい声が聞こえた。
「ノベルさん」
「すいませんね。偽物渡して」
ノベルの姿は見えないが、声を聞く限りいつもと変わらない印象を受ける。
「そちらには誰か一緒にいるのですか」
『……あ、わ、わたしですー……』
「!」
驚いた。人質は軍人ではなく、金髪の少年の仲間だった。
「タナカさん……ご無事ですか」
『え、あ、はい!なんとか!』
他の仲間と離れた隙をついて、彼女を攫ったのだろうか。
「ノベルさん、目的はなんですか」
「姫の暗殺計画の阻止」
一瞬、思考が止まる。
「……暗殺計画?」
「はい。クロトさんたちがやろうとしてるやつです」
どこから漏れた。
「さっき狼煙が上がったのが見えたでしょう?」
「ええ」
「狼煙は二本だった。でも貴方は“狼煙が上がるのが見えました”と言った。おかしいなって思ったんです。僕の知ってる貴方なら“狼煙が二本上がるのが見えました”って言うと思います。狼煙が上がることを知らない貴方だったら」
「……」
「貴方は知ってたんだ。狼煙が上がるとしたら、二本だということを」
「……」
「それで色々謎が解けました!ずっと不思議だったんです。ドグリア王主導で運営されているこの地区に僕や彼女たち……つまり姫が選んだ者たちが、なんで簡単に入り込めるんだろうって。貴方が優秀だからかなって思ったこともあったけど、そうじゃない。貴方が王の手下だからだ」
「……なぜ、私が姫を暗殺すると思うのですか」
「聞いちゃったからです」
「なにを」
「貴方が中庭で部下と交わした、特殊な言語を使った会話を」
「!!」
馬鹿な。あれは王派の数名で決めた自分たちにしか分からない暗号だ。他人が聞いて分かるものでは……。
「はっきり言います!僕は異星人です」
『!?』
「なに……?」
「僕は異星人です。貴方たちでいうところの悪魔の使い?だからどんな言語でも分かるんです」
「真実でも偽りでも、この国でその発言をすることが何を意味するのか分かって仰っているのですか」
「はい」
分からない。嘘か本当か。そして本当にこの計画を知っているのかどうか。
「……」
慎重に言葉を選ばなければならない。しかし、ゆっくりしている時間はない。
「ねえ、クロトさん」
「はい」
「姫のことどう思います?」
「どうとは」
「クロトさんが思う姫ですよ」
「心が清らかで真っすぐな御方だと思います」
「ですよね」
「……」
「でも馬鹿ですよね」
「そうでしょうか」
「そうですよ」
扉の向こうから皮肉交じりの笑いが聞こえた。
「まず簡単に人を信じ過ぎる。僕も、他国からきた四人組も、ホントはどんな奴かなんてすぐに分かるわけないじゃないですか。でも、すぐに信じて近くにおく。町娘ならまだしも一国の姫がですよ?そんなことしてたら、国は滅びますよ。世の中善人ばかりじゃないんだから」
自分の思いを吐露しているように聞こえる。が、その言葉は別の誰かに向けられているようにも聞こえた。
「あとは真っ直ぐなくせに、肝心なところは臆病だ。いや、避けてるのかな?本人に自覚があるかどうか分からないけど」
「……」
「馬鹿ですよね」
「……」
「だから、誰かが手伝ってあげればいいのに」
「……」
「ね、クロトさん」
何か言わなければいけない。でも言葉が出てこない。
「……」
ふと、昨晩のことを思い出した。
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―――カーン、カーン、カーン、カーン!!
「動くな」
「うん?」
VQ地区に侵入した数分後、慌てふためく王派を遠目に眺める奇妙な人間を見つけた。……あの、金髪の少年だ。
―――カチャリ
振り向い彼の額に小型の銃を突きつける。
囚人たちの命を救った少年と仲間を姫は信頼しているようだが、自分は違う。この者達を連れてくるよう命じられたが、彼らがこの状況で素直に付いて来るとは思えない。時間が無い今、力づくで連れて行った方が早い。
「君の仲間の元に案内してくれ」
「案内してどうするの?」
顔色一つ変えずに訊ねてくる。やはり只者ではない。
「……今からあの建物に移動してもらう。抵抗しなければ危害は加えない」
「じゃあコレ見えないようにしてくれる?」
「なに?」
少年は茶色い瞳を上に向けた。
「恐がるヤツがいるから」
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―――ダダダッ
「クロト隊長!施設内のパイプに破損が!!」
人払いを任せていた部下の一人が慌てて地下に降りてきた。
「……破損の場所は?」
「東棟で九ヶ所、西棟で十ヶ所、北棟で七ヶ所、南ではまだ確認されておりませんがっ」
「分かった。悪魔の監視をしている者以外、全て修復に向かわせろ」
「はっ」
部下がちらりと、扉に顔を向けた。
「心配するな。時間の問題だ」
「はい」
自分の返事を聞くと、部下は踵を返して階段を上がって行った。
―――……
「これもあなたの仕業ですか」
「はい」
「……」
「姫の暗殺、やめてくれます?」
「それは不可能です」
扉の向こうが静まり返る。
「もう、ことは動き出している。貴方が私をここで引き止め、この場をどんなに危険な状況にしても、時がくれば実行される」
「いいんですか。それで」
「いいも悪いもありません。そう命じられたのですから」
「ふーん」
「……」
「クソですね」
「……」
「まあ、僕もですけど」
そう言って軽く笑った彼の声は、どこか寂しそうだった。




