狼煙
「クロト隊長、あれは!!」
「!……」
部下の声に顔を向けると、王派の陣地から二本の狼煙が上がっているのが見えた。
「あれは、どうゆうことでしょう?敵に何か動きが……」
「姫に伝えてきてくれ。私は他の者に伝えにゆく」
「はい!」
クロトは部下の後ろ姿を見送ると、南の棟へ足を向けた。
―――コツ、コツ
「!隊長、お疲れ様です」
「お疲れ様です!」
「ああ」
各部屋の前に立つ軍人たちが、少し驚いた表情でクロトに敬礼する。
「あれっ?クロトさん?」
「ノベルさん。……少し、お話が」
「あ、はい」
クロトが踵を返すと、ノベルは何食わぬ顔で付いて来た。棟を離れ、人気のない場所に向かう。
「クロトさんがあいつらの所に来るなんて、よっぽどのことなんでしょうね」
辺りに誰もいなくなった頃、ノベルがふいに口にした。
―――コツ
「どういう意味ですか」
「なんか苦手そうだったので」
「否定はしません」
「素直ですねー!」
紫の瞳が愉快げに笑う。
「で、お話とは?」
「ええ……。先ほど、王の陣地から狼煙が上がるのが見えました。こちらの心を乱す為の作戦かもしれません。しかし、何らかの動きがある可能性も否めません」
「……」
「倉庫の鍵を、こちらに預けて頂けますか」
「僕のことが信用できないと」
「出会って数か月の貴方を完全に信用するのは難しい」
「まあ、そうですよね」
ノベルは笑いながらポケットから箱を出すと、蓋を開け、中に入っている鍵をクロトに差し出した。
「じゃ、お願いします!」
「ありがとうございます」
「いえいえ、ちゃんと守ってくださいねっ」
「はい」
深く頭を下げ、クロトは去って行った。
「……やっぱり合流するか」
そう呟くと、ノベルはクロトとは違う、別の方向に向かって歩き出した。




