決意
夕方。
VQ地区、臨時会議室。
「……」
誰も居なくなった会議室の窓から、ドグリアは沈みゆく夕陽を眺めていた。ラシュナが指定した時刻は刻々と近付いている。
“……”
“……兄上は……今も……”
あの時、ラシュナは何を言おうとしていたのか……。
《ドグリア……》
「!!」
目の前に、黒髪の痩せ細った女が現れた。
ドグリアは彼女を知っている。その姿を最後に見たのはもう何十年も前のことだが、決して忘れることはない。
「……母上……」
幼い頃、心を病んで亡くなった自分の母親だ。
《脅威は、排除せねばなりません》
「……」
《脅威を排除してこそ平安は保たれます。私も、あなたも》
「……」
《そのために貴方は力をつけてきた。そうでしょう》
「……はい」
《今が、その力を使う時です。躊躇ってはならない》
―――スゥ……
風に吹かれた布のように、母の姿は揺らいで消えた。
「……ふっ」
また、幻影を見た……。
初めてではない。昔から、ひどく迷っている時に彼女は現れ、自分を何かしらの方向へ導くのだ。幻影は母の姿をしているが――もしかしたら、自身の心なのかもしれない。
道は決まった。
―――コツ、コツ、コツ
―――ガチャリ
「!王……いかがされました?」
会議室の外で待機していた兵が、恐々と声を掛けてきた。
「狼煙を二本上げてくれ」
「え?」
「製作所からよく見える位置に上げろ」
「は、はい」
兵は急いで駆けて行った。
―――ヒュゥゥゥ……
冷気を含み始めた、砂混じりの風が通り過ぎていく。
「……」
沈みゆく夕陽に頼りなく照らされる製作所を、ドグリアは黙って見つめた。




