響
昼、兵器製作所内。
―――カラカラカラ……
―――すうっ
中庭に面している廊下の窓を開けて、私は外の空気を思い切り吸い込んだ。
『ふぅ~っ』
夜が明けて朝になり、もうお昼になろうとしている。
先ほどクロトさんが来て今の状況を教えてくれた。その話によると、夜明け前に王と数百人の部下がこの地区に到着し、一度、王とラシュナさんで話し合いが行われた。けれど進展しなかったので、時間を置いて、また今晩二人で話すことになったのだという。
交渉が上手くいってもいかなくても、私たちに危害が及ぶことはないって言ってたけど……本当に、ここから出られるのかな……。
イオリさんとユラさんは、今は身体を休めておけって、それ以上のことは何も言わなかった。
ラルフは……
“月みてた”
“いろんなヤツらが見てるんだね”
なにを、考えてるんだろう。
―――チュチュチュンッ
―――チッ、チチッ
『(うん?)』
外から賑やかな鳥の声がした。見ると、木の上で数羽の小鳥が戯れていた。可愛いなあ……。
―――カンッ!
「いいよなあ!あいつらはお気楽でよ!!」
『!』
突然、窓枠の横に小石が飛んできた。下に目を向けると、数人の囚人さんが一階の外廊下を歩いているのが見えた。
その中の一人と目が合う。
「俺達と違って安全だもんなあ、そりゃヘラヘラ笑って過ごせるよなあ!!」
『!!』
その言葉は、敵意を持って私に向けられていた。
―――さっ
背を向けて廊下にしゃがみ込む。
『……ぅっ』
涙がこみ上げてきた。
そうだ。笑ってる場合じゃないんだ。みんな命が懸かってる。みんな辛くて不安なんだ。そんな時に小鳥を見て可愛いと思うなんて……不謹慎だ。
“贅沢だね”
“呼ばれるだけでいいのに”
……分からない。私には誰の気持ちも……
「泣く必要はない」
『……え?』
ふと、静かな女性の声が聞こえた。聞き間違いかと思いながらゆっくり顔を向けると――そこには全く予期していなかった人が立っていた。
―――コツ、コツ
『……ラ……シュナ、さん……?』
「隣に座っていいか」
『は……い……あ!すいません!ラシュナさんじゃなくてっラシュナ姫様っ!!』
お姫様にどう接したらいいのか分からず、思わず声が裏返る。ラシュナさんはそんな私に苦笑しながら柔らかな動作で腰を降ろした。
「呼び方などなんでもよい」
『は、はい……』
「名はなんという?」
『た、田中正子です』
「随分と長いな」
『よ、よく言われます(こっちにきてから)』
「では――マサコ、」
『!』
名前で呼ばれてドキリとする。ドギマギしていると、碧色の瞳が静かに私を見つめた。
「悲しく、つらい思いをしている者を思い遣る心は大事だが……自分まで悲しもうとする必要はない、と私は思う」
―――サァァァ……
窓を通り抜けた風が、オレンジの髪をフワリと揺らした。
「みな、生まれも境遇も違う。それは当たり前のことだ。幸せだろうと不幸だろうと、負い目を感じる必要はない」
……
「やるべき事は、そこでどう生きるかだ」
―――……
―――パタパタパタッ……
遠くで鳥が羽ばたく。私はラシュナさんから目を離せなかった。暫くするとラシュナさんはふっと息を吐き、柔らかく笑った。
「楽しいなら笑え、マサコ。私はお前の笑顔が好きだ」
―――スッ
そう言うとラシュナさんは立ち上がり、確かな足取りで去って行った。
―――サワサワ……
―――……
……静かだ。光が射しこむ白い廊下は、眩しいくらいに輝いてる。
『……ぅうっ』
結局、私は泣いてしまった。
「……出て行かなくて正解だったな、イオリ」
「……ああ」
ラシュナが去った後、扉の前でユラは小さく笑った。
先ほど、外から大声がした後に正子の押し殺した嗚咽が聞こえた。イオリは咄嗟に扉に手を掛けた。が、ラシュナの声を聞き、動きを止めた。それから部屋の中で、ユラと共に二人のやり取りを聞いていたのだ。
「あのような考えを持つ者が王になった国を、見てみたいものだ」
「そう簡単にはいかねえだろうが……気になることは、確かだな」
暗い気配が漂うこの国に、明るい光が見えた気がした。
「……」
ラルフは部屋の隅で、静かに瞳を閉じていた。




