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ライフ  作者: 道野ハル
アメリア国[後篇]
82/162

離隔



 VQ地区、入場門。



―――トッ



「……」


 馬車から降りたドグリアの目に入ってきた光景は、灰色の薄明の空を背景に聳え立つ、ラシュナを支持する者達に囲まれた自国最大の兵器製作所だった。


「王!!」


 この地区を取り仕切っている軍人が彼の元に走り寄る。その表情は青ざめ、窮地に追い込まれているようだった。軍人が近くにくるや否やドグリアは低い声で問い質した。


「……状況は」

「は、はい!昨晩、武装したラシュナ姫とその部下数十名がVQ地区になだれ込んで参りました、奴らは一直線に製作所を目指し、東西南北それぞれの門から敷地内に侵入、そして悪魔たちと技術者一名、従業員四名を人質にとり、現在も製作所内に立て籠もっております……」

「例のものは」


 ギョロリとした目が軍人を睨む。軍人は息が止まりそうになった。


「……実は、その技術者に、管理を任せておりまして……」

「!!」

「新型爆弾は、製作所内の地下倉庫に保管してあります、倉庫の鍵は私も持っていますが……技術者も持っています……」

「……その技術者は信頼できる者なのか」

「腕は確かです!知識も技術もずば抜けてい……」

「ラシュナに寝返る可能性はあるのかと聞いている」

「……わかりません、なにしろ他国の者で……」

「他国の者?」

「はい、我が国の兵器製作に興味を持ち、遠方からやってきたと……」

「……」


 状況はドグリアが想像した以上に厄介なものだった。


「ラシュナは何か言ってきたか」

「はい、王と二人で話がしたいと……」

「……」


 また話か、とドグリアは心の中で毒づいた。


「いいだろう」





―――ザクッ、ザクッ


―――ザクッ、ザクッ、ザクッ



 ドグリアは数名の部下を連れ、製作所へ向かって歩き出した。入口近くまで来ると、門番をしているラシュナ派の軍人が丁寧に頭を下げた。


「そちらでお待ちください」


 門まであと数メートルの所で待ったをかけられた。言われた通り立ち止まると、鎧を纏ったラシュナが門の奥から現れた。



―――カシャン



「お越し頂きありがとうございます。恐縮ですが兄上のみ、そこから前進していただきたい。私も部下を置いてそちらに向かいますので」

「ああ」


 部下に目配せをし、ドグリアは一歩を踏み出した。それを見たラシュナも、彼の元へゆっくり歩き始めた。


「……」

「……」


 張り詰めた緊張感の中、一歩、また一歩と両者の距離が縮まっていく。



―――ザクッ、ザクッ……


―――カシャン、カシャン……



 あと数十センチの所で、二人は足を止めた。


「……」


 ドグリアは黙ってラシュナの言葉を待った。ラシュナはそれを察すると、静かに口を開いた。


「以前お伝えした通り、私の願いは、囚人たちと共にこの国を出て行くことです」

「……」

「受け入れられない場合、兵器製作所を破壊します」

「お前がやっていることは反逆だぞ」

「はい」

「なぜ、そこまでする」

「彼らの不幸を見過ごすことが出来ないからです」


 ラシュナはドグリアの両目を見つめた。


「この国には幸せに暮らす者が大勢います。でも、そうでない者もいる。その者達を放って置くわけにはいきません」

「……」

「誰もが幸福になるのは、難しいことです。しかし、だからと言って何もしないのは」

「お前が行動を起こすことで、俺は不幸になる」

「!」

「お前は悪魔達の釈放という自分の望みを叶えるために、俺を不幸にしようとしている」

「……」

「違うか?」


 ラシュナは言葉が出なかった。


「……兄上は……今も……」

「……?」


 彼女らしからぬ小さな声に、ドグリアは思わずラシュナを見つめた。しかし、彼女はすぐに瞼を上げると、いつもと変わらぬ強い瞳で言った。


「兄上のお考え、よく分かりました。私の想いも今お伝えした通りです。どうでしょう、互いにもう一度考えた上で、今晩再び話し合うというのは?」

「これ以上話すことなど」

「最後の話し合いにしましょう」

「……」

「よろしいでしょうか」

「……いいだろう」

「ありがとうございます。では今晩、再びこの場所で」



―――……ザクッ、ザクッ


―――……カシャン、カシャン



 二つの足音が離れて行く。


 王派と姫派の両軍は、固唾を呑んでそれを見守った。





―――カシャン、カシャン



「……姫様」


 ラシュナが門を通り過ぎる時、部下の一人――クロトが静かに声を掛けた。


「すまないが、暫く一人で考えさせてくれ」

「畏まりました」


 足を止めることなく、ラシュナは製作所の中へ姿を消した。




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