同じ月を見ている
明日なんて望まない
永遠なんて吐き気がする
空は 美しいものじゃない
風は 優しくなんかない
「……そっか」
そうだ
わからない
同じように見られない 同じように感じられない
だからずっと
一人だ
*****
―――ぱちっ
ふと目が覚めた。また、あの夢だ。
―――……
窓に目を向けると外はまだ夜だった。あんまり時間経ってないのかな……。
周りを見回す。当たり前だけど誰もいない。そんなに大きくないはずの部屋が、やけに広く感じた。
―――すっ……
靴に手を伸ばす。少し震える手でそれを履く。とにかく、外に出たいと思った。
―――ガチャ……
大きな音が出ないようにそっとドアを開ける。すると……
『え……』
「なに?」
ドアの脇に、壁にもたれて座るラルフがいた。
『……何してるの?』
「月みてた」
『え?』
「もう見えないけど」
『そ、そうなんだ……』
「なにしてんの」
『え……き、気分転換?』
「ふーん」
会話が途切れる。ラルフは相変わらず壁にもたれたまま、窓の外を見ていた。
―――……すとん
少し戸惑いながら、ラルフの隣に腰を下ろす。
「タナカのすんでるとこでも、月みえる?」
ラルフは普通に話し掛けてきた。
『!あっ、うん、見える……』
「へえ。いろんなヤツらが見てるんだね」
『そ、そうだね』
私も、何か話さなければ……。
『ラ、ラルフって月好きだったんだ』
「?べつに」
『え』
「なんで?」
『だ、だって、好きだから見てたんでしょ?』
「ううん」
『え……あ、そう』
―――……
―――……
「けっきょく危ない所にきてるよね」
『え?』
ラルフは窓に目を向けたまま、無表情で言った。
「“危ない所には行きたくない、死にたくない”」
『!!』
“……危ない所には、行きたくない……死にたくない……”
“……でも……みんなと、離れたくないっ……”
カタス国で、皆について行くかどうかを決めなければいけなかった時の話だ。
改めて聞くと、とても自分勝手なことを言ってて、かなり恥ずかしい……。ってゆうか、ラルフよく覚えてるな。
「後悔してる?」
『え?』
意外な言葉に思わずラルフの顔を見る。ラルフは先ほどと変わらず、何を考えてるのか分からない表情で外を見ていた。
……“後悔”?
皆についてきたことを後悔してるか、ってこと?
“タナカ殿、仕事の方はどうであったか?”
“珍しいな。お前から聞いてくるの”
“晩メシで肉でたら、俺にちょうだいね”
後悔……
後悔なんて……
『ぜんっぜんしてないっ!!』
「!」
ラルフが弾かれたようにこちらを向いた。
『確かに馬車とか嫌だしヨシワのバイトきつかったしマイさんに攫われた時怖かったし、あ、私のせいだけども!牢屋にいれられたのもショックだったし、教会で火に囲まれた時も死ぬかと思ったしイオリさん死んじゃったかと思ったし、丘の上でアメリア軍に挟まれた時も生きて帰れないと思ったし今この状況も助けてくれ!って思うけど!!っていうか私ものすごい死線を越えてきてるね!?』
「そうだね」
『でも!後悔はしていない!!』
「……」
『だからっ』
―――ガシッ!!
―――グイッ!!
ラルフの両肩を掴み、無理やり自分の方に向かせた。
『人と話す時はちゃんと相手の目を見なさいっ!!』
「……」
『そうじゃないとほらっ!なんかっ!あのっ!もやっとするからっっ!!』
「……」
『……ね?……』
「……」
『……』
「……」
『……あの、』
「ブサイク面みてると気が滅入るか」
『一生こっち見んな』
「あははっ」
―――ガチャッ
「お前ら煩せえぞ」
「うむ。すっかり目が覚めてしまった」
『!』
隣の部屋からイオリさんとユラさんが出てきた。二人は当たり前のように、私たちの横に腰を下ろした。
『お、起こしちゃいました!?す、すいませ』
「なんか面白ぇ話したら許してやる」
『!そんなラルフみたいなっ』
「頑張れ、タナカ殿!」
『いや助けて下さいよ』
「ふぁ~zzz……」
それから、しばらく四人(一人就寝中)で何でもない話をした。
多くの不安も、寂しい気持ちも、夜のどこかへ溶けていった。




