秘密
夜、バラック。
「タナカ殿、仕事の方はどうであったか?」
ご飯を食べはじめると、正面に座るユラさんが訊ねてきた。
「なんで俺にはきかないの?」
「お前はどうせサボってたんだろ」
「起きてはいたよ」
『ほんと起きてただけったよね』
お蔭で私はクタクタだ。まあ、でも確かに、起きててくれただけマシだった……かな?
「……なんか良いことあったのか?」
『え?』
「うむ、なんだか嬉しそうだ!」
『嬉し……?』
え、そんな顔してる……?
“なんてカオしてんの”
“はやく掃除してよ、見ててあげるから”
いやいやいや。嬉しくない嬉しくない。
っていうか何て質問されたんだっけ?あ、仕事の様子を聞かれたのか。
『あ、あの、仕事は簡単でした。案内してくれた人が、すごく分かりやすく教えてくれて』
「ほう、アメリア軍の者が?」
『あー……なんか軍人さんっぽくなかったんですけど……ねえ、ラル』
「zzz……」
……フォークに肉刺したまま寝てるんですけど。
「どんな奴だったんだ?」
寝ているラルフをスルーして、イオリさんがこちらを向いた。
『えっと、軍服じゃなくて、白い学ランみたいな上着を着てて』
「「……がくらん??」」
『あ、えっと……あの、首まである……詰め襟、でしたっけ?それに黒いズボンを履いてて丸眼鏡で、あと目が紫なんですよ!』
「紫?」
ピクリとユラさんが反応する。
「?どうした」
「ああ……いや、最近ごく間近にその色の目を見たような……」
「『?』」
「まあよい。その者は工員なのか?」
『いや、技術者として雇われてるって』
「「!」」
『よく分からない人でした。でも悪い人じゃなさそうです』
「他になんか言ってたか?」
『え?えーと……』
あと、なに言われたっけ?
『あ……なんか、同情?されました』
「は?」
『私とラルフの年齢聞いてきて、人生いろいろあるもんね、って』
「「……」」
『あ、あと』
「まだあんのか」
『はい。あ、でもこれは冗談で言っただけだど思うんですけど、“悪の組織の情報収集”してるって……』
「……」
「……」
『……』
「……謎だな」
『ですよね』
会話が途切れる。
『あの、イオリさんとユラさんのお仕事は……』
「うむ!施設内とその周辺の巡回が主な任務であった!」
「お前、途中でうたた寝してたろ」
「暇だったのだ!」
暇……。あ、でも、うたた寝するほど暇ってことは、ユラさんたちも、あんまり人に会わなかったのかな?
『あの……あの施設って、どうゆう人が働いてるんですかね?』
「……誰の姿も見なかったか?」
『はい。見たのは眼鏡の――ノベルさんと、廊下を歩いてる軍人さんくらいで、あとはどこの部屋も扉が閉まってて……色んな場所を掃除したけど、働いてる人には誰にも会いませんでした』
「……訳ありの者たちが、働いているのではないだろうか」
『え?』
ユラさんが神妙な口調で言った。
「我々も、働いている者の姿は見なかった。しかし気配は確かにあった。タナカ殿は技術者に同情されたと言っていたな?同情されるような、訳ありの者たちが働く場所なのではないだろうか」
『訳ありの者……』
「姿を見せられねえ奴らってことか」
「うむ」
「やっぱり穏やかじゃねえな……」
「ああ、早めに引き上げたほうがよさそうだ。……タナカ殿も充分気を付けてくれ」
『は、はいっ!』
―――ちらっ
窓の外を見る。
私たちのすぐ近くで一体なにが行われてるんだろう……。知らなくても済む事かもしれないけど、知らないのも恐い気がした。
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翌日。朝からものすごくビックリすることが起こった。
「あっ!!」
「あ」
昨日と同じく、中庭でイオリさんとユラさんと別れようとした時、向こうからノベルさんが歩いてきた。ノベルさんを見た瞬間、ユラさんが声を上げた。
「おぬっ、おぬっ、おぬしっ……!!」
「団子の人?」
「「『団子?』」」
団子ってなに?
「武器商にんんんんっ!!」
「「『!』」」
武器商人って……ユラさんが煙玉を買ったっていう!?
「なななぜお主がこんなところに!?というか煙玉ちょっと高くないか!?」
「たまたま街に出てただけで、こっちが本業です。え、でも優れものでしょ?あれ」
天パるユラさんと比べて、ノベルさんは非常に落ち着いている。
「ちょっと待て。……お前は、街に出られるのか?」
イオリさんの鋭い瞳がノベルさんを捉える。ノベルさんはイオリさんを見ると、僅かに口角を上げた。
「……まあね。でも一応、内緒にしといてください」
「……」
「ところで、」
紫の瞳が私たちを見回す。
「貴方たちは、どうしてここに来たの?」
「「『!』」」
「って、そんな簡単に言わないか」
―――カッ、カッ、カッ
遠くから、誰かが近付いてくる音が聞こえた。
「おっと」
ノベルさんは大袈裟に眉を上げると、私たちに背中を向けた。
「お達者で!」
「「『……』」」
明るい声でそう言うと、軽快な足取りで何処かへ去って行った。




