本音
「はい、今日はここまでー!」
青年の掛け声に手を止めて、机の上を片付ける。
―――ガタ
―――ガタガタッ
片付け終わった者から各々部屋の出口に向かう。
ここにきて二日目になるが相変わらず説明はない。この部屋で朝から夜まで、指示された通りに何かを作り続けている。
一体、これは何なのだろう……。
「おいっ!ここを通るな!!裏から出ろ!!」
「!」
部屋の外から聞こえた怒鳴り声に目を向ける。見ると、軍人が出入口を塞ぐように仁王立ちで立っていた。
「汚らわしい悪魔めっ、我々と同じ道を通るな!同じ建物に居るだけで吐き気がするというの」
「すいません軍曹―!裏から出すこと忘れてましたー!」
自分たちを指揮するノベル、という青年が割って入った。
「!ノベル……囚人たちのことは、お前に任せてあるのだ。こやつらの失態は全てお前の責任になるからな」
「はい、すみません」
「よく躾ておけ」
「はい!」
―――カッ、カッ、カッ
自分たちを睨みつけると、軍人は忌々しそうに去って行った。
「「「「「……」」」」」
嫌な空気が流れる。
「裏から出るのもいいけど、あと10分くらいしたら、そこから出ても大丈夫だよ」
明るい声で青年が言った。
「裏からだと時間掛かるからね。もうここらの人間は引き上げてるはずだから……軍曹が来てたのは想定外だったけど……たぶん誰とも会わずに出られるよ」
―――コツ、コツ……ガタッ
そう言うと自分の席に戻り、青年は何かの作業を再開した。
「……やってられるか……」
「……ん?」
「やってられるかよ!!」
―――ガターンッ!!
突然、一人の男が大声を上げて近くにあった椅子を蹴り飛ばした。
「どいつもこいつも馬鹿にしやがって!!なんでこんな目に遭わなくちゃならねえんだ!!」
「あの、そんな大声出したらまだ軍曹が……」
「うるせえ!!」
―――ガチャーン!!
机の上の道具箱が落とされる。
「ちょっと!」
―――ダダダッ
男は止まらない。今度は自分たちが作り続けている、何種類もの粉が入ったガラス瓶が並ぶ棚に向かって走り出した。
「!」
―――ダッ
青年が目の色を変えて男の元へ走る。
「こんなものっ」
男は無造作に瓶を掴んだ。
「割るな!!」
「「「「「!!」」」」」」
聞いたこともない青年の怒号が響く。
「なっ……」
男は動きを止めた。しかし、その拍子に瓶は手から滑り落ちた。
「っ!」
―――グイッ
―――ドォォォン!!
「「「「「!?」」」」」
瓶が床に落ちたと思った瞬間、爆発が起こった。
「奥からバケツと布持ってきて!早く!」
間一髪のところで男の腕を引いた青年が指示をとばす。何人かの者が、戸惑いながら水の入ったバケツと大判の布を運んできた。
「布をバケツに突っ込んで、充分濡らして」
青年が冷静な口調で指示をする。
「……な、なんだよ……これ……」
「……」
男の問いに、青年は答えなかった。
―――バタバタバタッ
「何事だ!!」
先ほどの軍人が血相を変えて戻ってきた。部屋に入るや否や辺りを見回し、煙が上がる箇所とそこに座り込む男を見つけた。
「!、貴様っ!!」
「!」
男の元へ憤怒の形相で走り寄る。
「何をしてくれたんだっ!!」
―――ドカッ
「うっ!!」
軍人が男の頭を蹴り飛ばした。男が床に倒れ込む。
「貴重な兵器を無駄にしおって!!これはお前らの命よりも重要な」
「黙れ」
「……あ?」
一瞬、誰がその言葉を発したのか分からなかった。しかし部屋を見渡す限り、その言葉を発したであろう人物は一人だった。
「命より大切な兵器があってたまるか」
青年だった。
丸眼鏡越しの紫の瞳に怒りの色が浮かぶ。その気迫に押されて、軍人は動けない。
「……まあ許してください、事故なんで。悪気があったわけじゃない」
ね?と、いつもの気の抜けた調子で倒れた男に問いかける。男は黙って首を縦に振った。
「……このことは、上層部に報告させてもらう」
「わかりました、すみませんでした」
丁寧に頭を下げる青年。その姿を一瞥し大きく舌打ちすると、軍人は荒々しく部屋を出て行った。
―――……
静まり返る室内。遠ざかる軍人の足音だけが聞こえる。
「……ごめん!謝るの忘れてた」
「え?」
床に座ったままの男に、青年は手を合わせた。
「解散のタイミングが悪かった……みんなも、すみませんでした!」
「「「「「……」」」」」
―――……
「あ、あの……」
「はい?」
一人の男が、おずおずと手を挙げた。
「俺たちは……なにを作っているのでしょうか……?」
「「「「「!」」」」」
「あ~」
誰もが聞きたかったことだった。みな固唾を呑み、伏し目がちに青年を見つめている。青年は顎に手を当てて上を向いた。が、すぐに顔を正面に戻し、はっきりと言った。
「新型爆弾」
「え……」
「作業効率が低下するから言うなっていわれてたんだけど、無理があるよね。やっぱり危ないよ」
腕を組み、うんうんと頷く。
「貴方たちが作っているのはその一部なんだ。一部だけど、さっきみたいに瓶が割れて中の粉が空気に触れると、軽い爆発が起こる」
「「「「「!!」」」」」」
―――ザワッ
―――ザワザワッ
「しーっ!しーっ!」
人指し指を口の前に立てながら、注目しろと言わんばかりに青年が大きく片手を振る。
―――……
ざわめきが治まる。みなの視線が再び青年に注がれる。
「……とても危険な仕事だ。もうやりたくないでしょう?でもね」
眼鏡の奥の、紫の瞳がきらりと光る。
「あと数日耐えて下さい。きっと状況が変わります」




