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ライフ  作者: 道野ハル
アメリア国[後篇]
73/162



 お昼を過ぎた頃、赤茶色の軍服を着たクロトさんが私たちを迎えにきた。


「お待たせ致しました。こちらにお乗りください」

「「「あ」」」」

『……』

「?どうかいたしましたか」


 三人の視線が私に注がれる。……そこにはアレがあったのだ。



―――ヒヒィィィン



 馬車だ。


「なにか問題が……」

「い、いえ!ちょっと馬車に慣れていない者がおりまして、あ、でも乗れないという程では……な!タナカ殿!!」

『ダイジョウブデス』

「片言になってんぞ」

「おもしろーい」


 仕方ない。耐えるしかない。……ああ、こんなことならお昼ご飯あんまり食べるんじゃなかった。


 大きな不安と後悔を胸に、私は馬車に乗り込んだ。




―――カタカタッ


―――カタカタッ



「……」

「……」

「……」

『……』


 宿を出て暫く経った。


「……」

「……」

「……」

『……』

「……タナカ殿」

『はい』


 ユラさんが恐る恐る私の顔を見る。


「大丈夫……なのか?」

『……はい!!』

「「!!」」

「なーんだ」


 誰だ、今つまんなそうに言ったやつ(一人しかいない)。まあ、いいや……そう!なんか大丈夫だった!!


「それは良かった!!軍が用意した馬車ゆえ、今までの粗悪なものと違って揺れが少ないのであろう!!」

『今までは粗悪だったんですか』

「よかったよかった!!」

『(スルーされた)』


 でも、そうか。確かにこの馬車は居心地が良い。私は外に目をやった。



―――パカッ、パカッ、パカッ



 車でも電車でもない速度で、景色が通り過ぎていく。頬にあたる風は優しい……気持ちいいなあ。


『……馬車って、いいですね』

「「!!」」

「zzz……」


 イオリさんとユラさんが目を見開く。


「たいした進歩だな」

「感無量だ……」

「zzz……」

『今までご迷惑お掛けしました』

「はっはっはっ!よいのだよいのだ!」


 和やかな空気が流れる。


「皆様、ここから先は軍事機密のため、申し訳ありませんが帳を降ろさせていただきます」


 馬車を操縦するクロトさんが背を向けたまま静かに言った。


「また、目的地まで険しい道が続きます。くれぐれもお気を付けください……」

『?』


 なんだか最後の方が申し訳なさそうに聞こえたのは、気のせいだろうか。



―――パサリ



 外の景色が見えなくなった。


 そして



――――ガタカタガタッ



「「『!』」」

「zzz……」


 今までとは違う大きな揺れが車内を襲った。慌てて木の枠に捕まる。



―――ガタガタッ、ガタタタッ



「……」

「……」

「zzz……」

『……』

「……」

「……」

「zzz……」

『……ぅっ』

「「!!」」


 や、やっぱりダメだ……!


 馬車の外に吐こうと、私は帳に手を伸ばした。



―――ガシィッ!!



「待てタナカ!!」

『えっ』


 イオリさんに肩を掴まれた。な、なにごと!?


「タナカ殿、外に吐くことは許されぬ……軍事機密だからだ……」

『あ』


 そ、そうだった……!!


「だからってここで吐かないでよ。俺臭いのやだよ」

『!』


 いつの間にか目覚めたラルフが心底嫌そうな顔で私を見る。こ、この鬼畜……!!


「おら、」

『え?』


 イオリさんが羽織を脱いで私の前に差し出した。


「吐きたくなったら袋代わりにしろ」

『えっ』


 イオリさんの羽織に吐けと!?いやいやそんな勿体ないこと……!!


「タナカ殿、これもあるぞ!」

『!』


 ユラさんがポシェットを空にして掲げる。そ、そんな……!!なんなんだもう、皆いい人過ぎ……


「俺は自分のものがゲロ臭くなるなんてイヤだな」


 ……お前に吐きつけてやろうか。


『……ぅっ!!』

「「!!」」


 油断した隙に吐き気はやってくる。



―――グッ



『ふぅー、ふぅー……』

「「……」」


 身体を揺らすな。丹田に力を込めろ。そしてなにか違うことを考えるんだ。ここで吐くわけにはいかない……。


『ふぅー、ふぅー……』


 二人の優しさに報いるため、私は込み上げる吐き気と必死に闘った。



--------



「ご苦労様です。到着しまし」

『おぇぇぇぇぇ!!』

「「……」」

「ふぁ~……くさっ」


 帳が上がった瞬間、馬車の外に思いきり吐き出した。


「大丈夫ですか……?」

『!あっ、はい……』


 クロトさんが申し訳なさそうな顔をしている。クロトさんが悪いわけではないのに……なんかこっちが申し訳ない。


「変わったところだね」


 私に一切興味のないラルフが辺りを見回して言った。その声につられて顔を上げると……なるほど、確かに不思議な光景だ。


 私たちが今立ってる場所は土の上だけど、数歩先には広大な砂漠が広がっている。砂漠には沢山のパイプが敷かれていて、それは灰色の大きな工場のような建物に繋がっていた。


 手前には白いテントやバラックが並んでいて……人の姿は疎らで、軍服や白衣を着た人がポツポツ歩いてるだけだった。


「では、皆さまの仮住まいへご案内いたします」



―――ザクッ



 クロトさんが砂漠に足を踏み入れる。



―――ザッ……



 私たちも後に続く。



―――……ザクッ、ズボッ、ザクッ、ズボッ



 ……歩きづらい。そして車酔いからの砂漠はキツイ。上手くバランスがとれなくて、何かまだグラグラしてる気がする。



―――スッ



「捕まれ」

『え?』


 顔を上げると、目の前にイオリさんの手があった。……や、やさしい。


『すいません……ありがとうござ』

「やっぱり体重重いからズボスボはまるの?」


 温まった心が一瞬で冷めた。っていうか何でこうゆう時だけ起きてるの?いつもみたいに歩きながら寝てればいいのに。


「た、体重が重いということは、よく食べるということだ!よく食べるということは、あの、アレだ、戦で生き残る確率がグンと上がるぞ!?」

「何が言いたいんだお前は」


 やはりユラさんのまともなフォローは、あの一回きりだったようだ。




―――……ザクッ



「こちらです」


 案内されたのは比較的新しそうなバラックだった。中に入るとダイニングのようなものがあり、奥には部屋が二つあった。


「今日はゆっくり休んでいただき、明日から、皆様もご覧になったあの正面の建物で働いていただきたいと思います」


 クロトさんが静かな口調で話す。


「外出は自由です。少ないですが商店もございます、どうぞご利用下さい。ただし、この区域から出ることは禁止されております」

「区域、というのは柵の内側ということでしょうか?」

『!』

「はい」


 そういえばここに来る時、遠くにフェンスみたいなのが見えたな……。


「こちらが業務内容です。お好きなものをお選び下さい。それでは、また明日の朝お迎えに上がります」


 そう言って机の上に資料らしきものを置くと、クロトさんはお辞儀をしてバラックを出て行った。




「……きな臭え」


 クロトさんが出て行くや否や、イオリさんが眉を顰めた。


「柵で囲まれた外出禁止の区域、バカでかい建物……一体ここで何してんだ」

「うむ……図らずも、我々は本来の目的に大きく近付いたのかもしれぬな……」


 本来の目的……



“停戦中の敵国に怪しい動きがあるので、調査に協力して欲しい”

 


「なにする?」

『え?』


 緊張感のない声に振り返ると、ラルフがクロトさんが置いていった冊子をパラパラ捲っていた。


「どれどれ……」


 私たちもラルフの背後から資料を覗く。


「ふむ。警備、運搬、調理、清掃、か」

「警備にするか」

「俺とタナカは清掃かな」

『え゛』

「なに?」

『また私に仕事押し付ける気じゃ……』

「そうだよ」


 ……殴りたい。でも今朝のことがあるから何となく強気に出られない。


「こ、こらラルフ!お前もしっかり働……」

「なんで金ないんだっけ」

「タナカ殿ガンバレ!!」

『……』

「……まあ、頑張れ」


 もういいや……なんか疲れたし。ご飯食べたらすぐ寝よう。そう決めて、私はイライラに蓋をした。




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