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ライフ  作者: 道野ハル
アメリア国[後篇]
72/162

王の演説



 アメリア城、正午。


 建国記念日にふさわしい晴れ渡った空の下、城の周辺には多くの国民が集まっていた。毎年王の演説を聴く為に皆集まるが、今年は例年以上に多くの者が足を運んでいるようだった。


「昨日の爆発は何だったんだ?」

「軍人は慌てていたけど、ラシュナ様は落ち着いていらっしゃったわ」

「なにか手違いがあったんじゃないか」


 皆、昨晩の出来事が何であったのか知りたいのだ。


 日が沈む頃に突如街に現れた大勢のアメリア軍。何の前触れもなく街から丘までの道を封鎖したかと思えば、その数刻後に収容所が爆発した。収容所が爆発したという事はそこに居る悪魔達も……と思ったのも束の間、今度はラシュナ姫が多くの囚人を連れて丘を下り、街を抜け、そのままアメリア城へと去って行ったのだ。


 軍も相当混乱していたようで、国民に何の説明もせず引き上げて行った。そのため、街は朝からこの話で持ちきりだった。



―――パンパカパーンッ、パンパンパンパーン



「ドグリア王の御成りー!」

「「「「「!」」」」」


 バッと全員の視線がバルコニーに集中する。



―――カツン、カツン


―――コツ、コツ



 伝統的な黄金の衣装を纏ったドグリア王とラシュナ姫が、国民の前に姿を現した。



―――カツン



 ドグリアはラシュナの一歩前に出て聴衆を見回すと、黒い髭で覆われた口をゆっくり開いた。


「今年は、200年目である」


 城の前の広場が、水を打ったような静寂に包まれる。


「この重大な時、おそらく史上最も運命的な時、私は国民一人一人の手を握りこう言いたい。“冷静に結束し、この困難を乗り越えよう”と」

「……」


 ラシュナは後ろから兄の横顔を見つめた。


「諸君の協力のお陰で、近年は多くの悪魔と思しき者を捕らえることができている。しかし、真相を確かめるべく裁判にかけるものの、どの者もなかなか口を開かない。時だけが過ぎ不安は募るばかりだ。こうしてる間にも憎き悪魔は生き続け、世界を終焉に導こうとしているかもしれぬ」

「「「「「……」」」」」

「そこで」


 ドグリアは一層太い声で言った。


「私は昨晩、収容所ごと悪魔を殲滅する作戦を決行した」

「「「「「!!」」」」」」



―――ザワザワザワッ



 ざわめく国民に構わずドグリアは続ける。


「200年目は迫っている。猶予はない。我々を脅かす不安要素は即刻排除するべきだと思い決断した」



―――ザワザワッ



「しかし」


 ドグリアは聴衆が静まるのを待った。聴衆もそれを察し、暫くして口をつぐんだ。場が静まったことを確認すると、ドグリアは後ろに立つラシュナに目を向けた。


「!」


 兄の視線に身構えるラシュナ。ドグリアは大袈裟に眉を下げると、無念そうな表情で再び国民を見た。


「ラシュナ姫と意見が食い違い、その作戦は失敗に終わった……」

「!!」

「「「「「!!」」」」」


 兄はこれから何を言おうというのか……ラシュナは固唾を呑んだ。


「目撃した者も多いと思うが、昨晩、姫は収容所から悪魔を避難させ、このアメリア城に連れてきたのだ」

「……」

「私と姫は話し合った。この国の為に今我々がとるべき行動は何なのかということを、夜が明けるまで話し合った。そして……和解したのだ」

「……」

「姫の同意を得て、今朝、悪魔達をアメリア城にて処刑した」

「!!」



―――ザワザワザワッ



 驚きや失望の声が至る所で上がった。


 ラシュナは必死に頭を働かせた。兄は何をしようとしている?昨晩の作戦の意義と失敗を国民に告げ、自分の同意を得て悪魔達を処刑したと嘘をつく。自分を悪として扱うのではなく協力者として扱った。その先は……



―――グイッ



「!」


 強い力で手を引かれ、兄の隣に立たされる。


「この建国記念の日に宣言する!我々兄妹は力を合わせ、この世に悪魔が存在する可能性がある限り、諸君のために怯まず闘い続けると!!」

「!!」



 “悪魔たちは一旦別の場所に移動させる。奴らの処遇もお前次第だ”



「……」


 ラシュナは黙って前を見据えた。国民の思い思いの視線が刺さる。落胆、怒り、諦め……悪魔狩りを支持する者はきっと笑っている。


 不甲斐ない。情けない。でも……このまま進むしかない。


 ラシュナは誰にも気付かれぬように、唇を噛みしめた。




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