穏やかな朝Ⅲ
「いや~、タナカに二度も夜這いかけられるなん」
『違うっつってんじゃん』
最悪だ。ちゃんと前回の反省をふまえた上で慎重に行動したのに全く同じ結果になってる。
「ラ、ラルフ!タナカ殿が起こしてくれなければ、お前は朝飯を食べ損ねていたのだぞっ!もっとこう、感謝した方がいいぞ!!」
ユラさんが珍しくまともなフォローをしてくれた。
「俺も一回起こしたんだが、また寝てたとは……悪いな」
「いいよー」
「『いや、お前に言ってないから』」
「そうなの?」
あはは、と笑いながらご飯を頬張るラルフ。あー、イライラする……
“アシア……?”
誰だろあれ……。
「……タ、タナカ殿?」
『え?』
ユラさんが遠慮がちに私を見る。
「……なんか、あったのか?」
『はい?』
イオリさんが怯えた(?)様子で聞いてきた。
―――ずいっ
「タナカ」
『へっ!?』
ラルフの顔が目の前に……え、ちょっ、近……
「ブサイクに輪をかけてブサイクだよ?」
―――ブチッ
『うっさいわぁぁぁぁぁっっっっ!!』
「「!!」」
あーっ、めっちゃイライラするーっ!!
『何様ですかはぁ!?慈悲の心で起こそうとしたのにンだその言い草はっ!!顔がイイからって調子乗んなぁぁ!!そして私を何処ぞの女と間違えるなぁぁぁ!!』
「おんな?」
茶色い目を丸くするラルフ。見る人が見れば可愛いかもしれないその表情も、今はイライラの燃料にしかならない。
『とぼけても無駄ですぅ、裏はとれてるんですぅ、なんなら今ここで名前公開しましょうかぁ!?』
「いいよ」
『!!』
クソッ、余裕ぶって……!言っちゃうよ、言っちゃうからね!!
―――すぅっ
『ア・シ・ア!!』
「「!!」」
「……」
『間違いないでしょ?私バッチリ聞きましたからっ!!』
胸を張ってラルフを見下ろす。どうだ。ぐうの音も出ないでしょう!!
「……おい、タナカ」
『はい?』
イオリさんが小さな声で私を呼んだ。見ると、何だか気まずそうな、申し訳なさそうな表情をしてる。
……なんで?
「ラルフが、お前に向かって、“アシア”って言ったのか?」
『?そうです』
一つ一つ、確かめるように訊ねる。
「……タナカ殿……非常に言いにくいのだが……」
『え?』
ユラさんが顔を歪める。……え、なにこれなにこれ。
「“アシア”というのは……雑草の名前だ……」
『……』
「「……」」
『……え?』
ざ っ そ う ? ?
サァーと血が引いていくような気がした。先ほどの優越感が一瞬で後悔に変わる。
「なるほどね」
隣に座る金髪が弾んだ声で喋る。
「タナカは雑草におこってたんだ」
『……』
「かわってるねえ」
『(……くっ!!)』
屈辱だ!!
「ま、まあ仕方なかろう!タナカ殿は異星からやってきたのだから、な!!」
『……はぃ』
「おら座れ、水飲んで落ち着け」
『……はぃ』
こうゆう時に優しくされると……泣きたくなる。私は力なく椅子に腰を下ろ
「これからタナカのこと雑草ってよぼ」
『……』
「「ラルフ」」
「あははは」
最悪だ……最悪の朝だ。
―――コツッ、コツッ
「「『!』」」
ふと、廊下の方から足音が聞こえた。
―――コツッ
「お食事中、失礼致します」
「「『!!』」」
食堂の入口に、どこか見覚えのある人が立っていた。
「あなたは、昨晩の……?」
「はい。ラシュナ王女の警衛に当たっております。クロトと申します」
『!』
そうだ、あの鎧の人だ!私服だったから分からなかった……。灰色の髪に灰色の瞳。40代くらいかな?昨日と同じく、落ち着いた雰囲気を纏っている。
「早速ですが、皆様に職を紹介しに参りました」
「!」
「選択肢は二つございます。お好きな方をお選び下さい」
“クロト”さんは、独特の静かな口調で話し始めた。
「一つは、ラシュナ様が関わっていらっしゃる南の森の開拓。力仕事になりますが皆様でしたら問題ありません。賃金は牢屋清掃より少し高い程度です」
もう一つは……と、クロトさんは少し低い声で言った。
「軍が管轄する施設での就労。仕事内容は清掃、調理、警備など、お好きなものをお選びいただけます。ただし、こちらは行動が制限されます。施設近辺の滞在が義務付けられ、一定の地域から出ることが禁止されます」
一定の地域から出られない……?
「……クロト殿、宿を手配していただいたうえに職まで紹介していただき有難い限りですが……我々はこの国に長期滞在するつもりはなく、ある程度稼げたら次の国に移動しようと思っているもので……」
「どのくらい、アメリアに滞在するご予定ですか」
「長くても一週間くらいと……」
「それならば問題ありません。どちらの仕事を選んでいただいても結構です」
「……そうですか……」
話を聞き終えると、ユラさんは私たち三人に向き直った。
「どうしたものかな……」
『……』
「zzz……」
「まあ、森の開拓でいいんじゃ」
「ちなみに後者は軍の管轄のため、賃金は開拓の5倍に」
「後者にいたそうっっ!!」
「『!?』」
ユラさんが勢いよく拳を突き上げた。
「クロト殿、後者でお願い致します」
「おい!ユ」
「金には代えられぬ!!な!タナカ殿!!」
『え!?ええっと……』
「ラルフ!!お前もよいな!?」
「zzz……」
「よい返事だ!!」
『(ええ~っ)』
いいの!?それでいいの!?
「……では、後者で進めさせていただいてよろしいですか」
「はい!よろしくお願い致します!!」
「畏まりました。早速で申し訳ないのですが、本日の昼過ぎにこちらにお迎えに上がります。それまでにご準備のほど、よろしくお願い致します」
そう言うとクロトさんは頭を下げて、食堂を出て行った。
『……』
「zzz……」
「よしっ!早速準備に取り掛からねば!!」
「おい」
イオリさんがとてつもなく低い声を出した。
「なにかな?」
ユラさんが不自然な明るさで答える。
「……どうゆうことだ」
「なにが?」
「金がねえのか」
「まあな」
―――ピクッ
イオリさんのこめかみが動いた。
「オウド国から、資金はもらってんだろ」
「ああ」
「それがもうねえのか」
「うむ!」
―――ピクピクッ
イオリさんのこめかみが(以下略)
「……なんでねえんだ」
「使ったからだ!」
「宿と食料にしか使ってねえだろ」
「いや?」
「ああ?」
―――ピクピクピクッ
「……なにに使った」
「煙玉だ」
「は?あれは交換したって」
「一個はな!二つ目からは武器商人が渋ったゆえ、仕方なく金を払ったのだ!!」
―――ブチッ
「ざけんなぁぁぁぁ!!」
『!!イ、イオリさ』
「ふざけてなどいない!俺はいつでも本気だ!!」
『ちょっ、黙った方が』
「zzz……」
『この状況でまだ寝る!?』
カオス!!超カオス!!
怒り狂うイオリさんと逃げ続けるユラさんの攻防は、その後一時間くらい続いた。……ああ、朝起きた時は平和を噛みしめていたのに。なんだかどっと疲れたのだった。




