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ライフ  作者: 道野ハル
アメリア国[後篇]
68/162

穏やかな朝Ⅱ



--------

----



「ここにいる者たちの命は全て私が預かる。何人たりとも手を出すことは許さない」



―――ザワッ


―――ザワザワザワッ



 息を詰めるようにラシュナさんの言葉を聞いていた人々が、一斉に騒めき出した。


「……」

「……」


 イオリさんとユラさんは黙り続けている。ラルフも黙ってラシュナさんの方を見ていた。


「――――――」

「――」

「――、―」

「――――」


 渦中の人――ラシュナさんは、一緒にやってきた鎧の人たちと小声で何か話している。


「ラ、ラシュナ様!!一体どうゆうことでしょうかっ!?詳しくご説明をっ!!」

 

 “隊長”と呼ばれていた人が声を裏返して叫ぶ。鎧の人たちと比べて、軍服を着た人たちはかなり混乱してるみたいだ……。


「いま行く」


 鎧の人たちから離れて、ラシュナさんは一人で軍服の人たちの所に歩いて行った。



―――カシャン、カシャン



「「『!!』」」


 ラシュナさんが去って暫くすると、鎧の人が一人、こちらに向かって歩いてきた。その人は私たちの前で足を止めると鉄兜を取り、静かな口調で訊ねた。


「あなた方は、この少年とどのようなご関係ですか」


 灰色の髪の、落ち着いた雰囲気の男性だった。



―――スッ……



 ユラさんが前に出る。


「我々は、彼と共に旅をしている者です」


 返答を聞くと、男の人は改めて私たち四人を見回した。


「あなた方も収容所で仕事を?」

「いえ、我々二人は悪魔狩りに参加しております。そちらの方が賃金が高いので」

「この国には出稼ぎに?」

「はい」

「そうですか」


 その人は少し黙った後、穏やかな口調で言った。


「今回の件はラシュナ様のご意向で行われた――ということになるので、あなた方のことが我々以外のアメリア軍に知られることはないと思いますが……万が一、ということもあります。出来る限り早く、この国を出たほうが賢明でしょう」

「……はい」

「しかし、」


 一旦言葉を切ると、その人は私たち全員を見て言った。


「お望みであれば、我々の方で、安全な場所と仕事を提供することも可能です」

「「『!!』」」

「いかかでしょうか?」


 予想外の提案に、ユラさんもイオリさんも驚きを隠せない。


「そうしようよ」

「「!」」


 ラルフが飄々と答える。男の人はラルフを一瞥すると、私たち三人を静かに見つめた。


「……では、お願い致します」

『!』


 ユラさんが深く頭を下げる。


「畏まりました」


 こうして私たちは夜の間に今までいた宿を離れて、別の場所に移動したのだった。



----

--------



 紹介された宿は街から離れた森の中にあった。ラシュナさんを支持する人が経営してるそうだ。


『(……はっ!!)』


 ゆっくりしてる場合じゃなかった……!



―――バタバタッ



 急いで顔を洗う。早く行かないと、朝ご飯を食べ損ねてしま……



―――ガターンッ!!



『!?』


 部屋を出ようとしたその時、壁の向こうから大きな音がした。え、なに?なんか落ちた?隣の部屋って……ラルフだったっけ?


 とりあえず廊下に出る。ラルフの部屋のドアは閉まっていた。……もう何の音もしない……あんなに大きな音がしたのに静かなのが逆に恐い。


 なんかあったのかな?ノックしてみる?いや、でも前回部屋に入ったら散々な目に遭ったしな……。


 ……


 ……ノックだけ、してみるか。



―――コン、コン


―――……



 反応なし。あ、もしかしたら居ないのかな?さっきのは、風で大きな物が落ちたとか、そんなところなのかもしれない。


 ……


 ……一応、確認だけしておこう。



―――ギィッ……



「zzz……zzz……」


 ドアを開けると、ラルフが死体のように床で寝ていた。……なるほど。あれはラルフがベッドから落ちた音だったのか。


 起こしたほうがいい……よね?ご飯食べ損ねちゃうし(食べ損ねたら機嫌悪くなりそうだし)。


『ラルフ、朝ご飯だよー……』

「zzz……zzz……」


 ぜんぜん起きない。……しかたない。



―――……ひたっ、ひたっ



 気を引き締めて部屋の中に入る。なるべく音を立てないように忍び足で歩く。とにかく起こせばいいんだ。起こすだけ起こしてダッシュして部屋を出れば、きっと前みたいに食べられそうになることは回避できるはず……。


 一歩、また一歩と、うつ伏せのラルフに近付いて行く。



―――ひたっ……ひたっ



 あと一メートルくらいのところで足を止める。


『ラルフ、ご飯だよ』

「zzz……zzz……」


 まだ起きない。



―――すうっ



『ラルフっ!朝ご飯なくなるよっっっ!!』

「zzz……zzz……」


 ピクリともしない。


 嘘でしょ……?これで起きないとか意味わかんないんですけど。


 ああ、こうしてる間にも時は過ぎ、きっとイオリさんは食堂でイライラを募らせてる。……放っておこうかな。いや、でも、そしたらこれまでの私の努力(?)が無駄になる。ここまできたら何としてでも起こしたい。



―――すっ……



 ラルフの肩に手を伸ばす。そして



―――バシバシ!



『ラルフ!起きて!!』


 思い切り叩いた。どうせちょっとやそっとじゃ起きないんだから、これくらいしたって大丈夫だろう(たぶん)。


「う~ん……」

『!』


 起きる!?起きる!?


 ラルフがこちらを向きそうになったので瞬時に走る体勢をとる。よーい!ド……


「アシア……?」

『え?』


 “アシア”?


 聞きなれない名に、思わず振り返る。


『……』

「……」


 ラルフは床に転がったまま、とろんとした瞳で私を見ていた。……小さな子供みたいだ。


「……」

『……あの』

「……肉?」

『!!』


 危険を察知した時は、もう手遅れだった。


『ぎぃやぁぁぁぁぁ!!』



―――ダダダダッ


―――バンッ



「なんだ!?どうし……またかっ!!」

「タナカ殿っ!!」

『すいません助けてくださいっ!!』

「にーくー」


 デジャブだ……。前と同じように、慌てて駆け付けたイオリさんとユラさんによって、私はなんとか救出されたのだった。




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