銃声
―――ドドドドドォォォォォンンンンンッ!!!
最初の爆発から数分が経ったころ、建物に設置された全ての爆弾が爆発した。
「「『……』」」
街とは反対側にある山の麓で、私たちは数百人の囚人さんと燃え盛る収容所を眺めていた。
―――ザワザワッ……
「本当に危なかったんだな俺たち……」
「命拾いしたな……!」
「軍はこんな危険な実験を収容所でしてたのか……」
真実を知らない人々が、思い思いに呟く。
―――……ザッ
「……行くぞ」
『え?』
イオリさんが静かに歩き出す。行く……って?私が立ち尽くしているとユラさんが耳元で囁いた。
「……我々がしたことは、反逆的行為にあたる。アメリア軍に見つかる前に、この国を出なければならぬ」
『!』
今さら、ことの重大さに気が付いた……。全員逃がして無事に脱出することだけを考えてたけど……この国の王が殲滅しようとした囚人さんたちを、私たちは助けたんだ。
あの人たちを助けたのが悪いことだなんて思わない。でもこの事がばれたら、絶対に、ただじゃすまない……。
「ラルフ、行くぞ」
「先いってて」
―――すとんっ
ラルフが涼しい顔で腰を下ろす。え……なんで?早く行かないとアメリア軍に……
―――ザッ、ザッ……グイッ
イオリさんが戻ってきて、珍しく、乱暴にラルフを立ち上がらせた。
「来い」
「……」
「今、俺たちと一緒に来い」
ラルフが口を開きかけたその時
―――パカラッ、パカラッ
「「『!!』」」
燃え盛る収容所を背に、全身を鎧で覆った人たちが馬に乗ってこちらにやってくるのが見えた。
武装してるうえに街の方からやって来たということは――間違いなく、アメリア軍だ。
―――……スッ
『!』
イオリさんとユラさんが、黙って私の前に立った。
「……」
「……」
……私は二人の間から、そっと前の様子を伺った。
―――ヒヒィィィンッ
あと数メートル、というところで一団は止まった。全員が頭まで鎧を被っているので、今、どんな表情をしてるのか全く分からない。
暫くすると、先頭に立つ一人が鉄兜に手を掛けた。
―――カチャッ……
『え……』
「「「「「!!」」」」」
「……これは、一体どうゆうことだ?」
そう言ってその――美しい女の人は、不可解な顔で辺りを見回した。オレンジの髪に碧色の瞳……まるで、どこかのお姫様のような……
―――ザワザワッ
―――ヒソヒソッ
「ど、どうゆうことだ!?」
「なぜ、ここにラシュナ様が!?」
「武装されているぞ!!」
“ラシュナ様”……?
その人は周囲をひとしきり見渡すと、私たちの傍にいる人物に声を掛けた。
「……お前が避難させたのか?」
「えっ!?」
看守長だった。看守長は青ざめた顔で、両手を大きく振った。
「と、とんでもございません!!私はただ脅されて……」
「脅された?誰に」
「俺だよ」
「「『!!』」」
「は……」
ラルフを見て、“ラシュナ”さんは目を瞬かせた。
「俺がおじさんを牢屋に閉じこめて、いろいろ聞き出したの」
「……」
―――……パカッ、パカッ……
ラシュナさんの乗る馬が、ゆっくりラルフに近付いて行く。
「姫様っ!若者といえど危険です!!お戻りくださ」
「そこで待っていてくれ」
静かに部下を制して、一歩一歩ラルフに近付く。
―――……パカッ
―――ザッ
ラシュナさんは馬から降りると、正面からラルフを見据えた。
「お前の名は」
「ラルフ」
「この国の者か?」
「ちがうよ」
彼女は一つ一つ探るようにラルフに問い始めた。
「看守長を脅したというのは誠か」
「うん」
「お前一人で、か」
「そう」
軽々と答えるラルフに、ラシュナさんが眉を顰める。
「なぜ、脅した?」
「仕事がなくなるから」
「「「『は?』」」」
私だけでなく、その場にいた全員がポカンと口を開けた。
「ここのヤツらがいなくなったら、仕事なくなるから」
「仕事?」
「ろうやそうじ」
『(ええ~……)』
「「……」」
その理由は無理があるんじゃ……イオリさんとユラさんも複雑な顔をしてる。ど、どうなるんだこれ……
「……それが、真の理由なのか?」
「うん」
「誰かの指示があったのでは」
「俺がしたいからそうした」
「……」
碧色の瞳をラルフに向けたまま、ラシュナさんは黙り込んでしまった。
―――バタバタバタッ
「なっ!!なぜ悪魔達が生きている!?」
『!!』
遠くから聞こえた声に目を向けると、鎧の人たちの後ろから赤茶色の軍服を着た人たちが走ってくるのが見えた。手に……長い銃を持っている。
「「!!」」
イオリさんとユラさんの背中に緊張が走った。
―――ザワザワザワッ
「あいつら何言ってんだ……?」
「銃を持ってるぞっ!」
「どうゆうことだ!?」
みんな混乱してる。私も分からない。これから、どうなるんだろう……。黒く光る銃が嫌でも目に入ってくる。
「タナカ殿」
『!』
ふと、柔らかい声が降ってきた。
「心配すんな」
『……』
ユラさんとイオリさんが、静かな眼差しで私を見ていた。
“もう大丈夫だ。恐がることは何もない……”
“タナカ、俺から離れずに歩け”
……私、助けてもらってばっかりだ。こんな状況で、ユラさんもイオリさんも、きっと不安なはずなのに……。
―――ザワザワッ
「た、隊長!いかがなさいますか!?」
「これだけの悪魔達が生きていたとなると……」
「王になんとお伝えすれば!?」
―――ザワザワッ
「なんだ、どうゆうことだ!?」
「軍の実験じゃなかったのか!?」
「俺達を……殺す気か!?」
―――ザワザワッ
「姫様、ここは」
「一旦引いて計画を……」
様々な声が渦巻く。混乱が目に見えて大きくなっていったその時
―――パーンッ
一発の銃声が夜空に響き渡った。
―――……
―――……
丘の上が静まり返る。
―――ゴォォォォ……
―――パチパチッ、パチパチッ……
建物の燃える音だけが、他人事のように聞こえてくる。誰も何も喋らない。銃声を発した人を見て、皆、動けなくなった。
―――ゴォォ……
「皆の者、よく聞け」
空に向けて銃を撃った――ラシュナさんは、よく通る声で、この場にいる全員に向かって言った。
「囚人たちは私が避難させた」
誰にも入る隙を与えず、彼女は話し続ける。
「よって、ここにいる者たちの命は全て私が預かる。何人たりとも手を出すことは許さない」
アメリア国・前篇【終】




