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ライフ  作者: 道野ハル
アメリア国[前篇]
59/162

明日も、明後日も



 無事に鞄を回収した私たちは、入口に向かって歩いていた。一階には誰も居ない。もうこの辺りは、爆弾が設置されたってことなのかな……?


「ちょっと待ってもらっていい?」

『え?』


 突然ラルフが立ち止まった。そこは各舎房の渡り廊下を見通せる、中央監視室の前だった。


 待つって……ここで?爆弾があるかもしれないこの場所で?いや、こんな危ない所早く出たほうが……



“さいごにね”


“ちゃんと戻ってくるから”



 ……ラルフは、何を考えてる……?


「タナカの知り合いも、なまえ長いの?」

『へっ?』


 え?いきなり何の話??


「タナカ、なまえ長いじゃん」

『え、あ、本名が?』

「ほんみょう?」

『あ、えっと、本名っていうのは、本当の名前のことで……』

「へえ?」


 あれ?なんでこんな話してるんだ?今って非常事態だよね?


『ラ、ラルフは、ただのラルフなの?』

「は?」


 よく分からないまま、質問し返してしまった。


『いや……えっと、ラルフの前とか後に、なんかつかないの?』

「なんで?」

『えっ』


 なんで……?


『え、えっと……名字とか、ないの?』

「みょうじ?」


 そこからかー!


『えっと、名前は自分の名前で……名字は……か、家族の名前?』

「かぞくの名前?」

『うん(たぶん)』

「なんで、かぞくに名前つけるの?」

『え』


 そんなこと、考えたこともない。


『……あ、あれじゃないかな、それがあれば、その人が誰の子供なのか分かりやすいから……とか?』

「ああ」

『え、いやわかんない!違ったらごめん!』

「贅沢だね」

『え?』


 言葉の意味が分からなくて、思わずラルフを見つめた。


「呼ばれるだけでいいのに」

『……』


 抑揚のない声だった。表情も何もない。



“ラルフって友だちとか家族に虐められてたの?”


“……笑ってた。今と変わらねえ、何考えてんのか分からねえ、生意気なガキだった”



 ……これまで、他人のことなんて分からなくてもいいと思って生きてきた。それで問題なかったし、これからもそれでいいと思ってた。


 でも、もしも、私が誰かのことを分かろうとしてたら……ここで、ラルフに声を掛けられたのかな。



―――ザッ、ザッ


―――コツ、コツ



『!』


 ふと、二つの足音が聞こえた。もしかして、アメリア軍……?


「おーいっ」

『!?』


 ラルフが大きく手を上げる。ちょっ、何やってんの!?どうゆうつもり……



―――……ザッ


―――……コツ



 足音が止まった。


「……なにやってんだ、お前らは」

『!!』

「二人とも無事なのだな?」

『イオリさん!ユラさん!』


 暗闇からイオリさんとユラさんが現れた。


「あー、よかった」

「ラルフ、」


 飄々と笑うラルフに、イオリさんが鋭い瞳を向ける。


「どうゆうことだ」

「イオリ顔こわい」

「ラルフ、説明してくれ」


 ユラさんが珍しく、咎めるような口調で言った。ラルフは横目でユラさんを見ると、いつもの涼しい顔で答えた。


「タナカと一緒に宿にもどってて」

「……」

「……」


 ラルフの言葉に、イオリさんとユラさんは口を結んだ。静寂の中に張り詰めた緊張感が漂う。


 なんだろうこの空気……。二人は、怒ってる?いや違う……悲しんでる、のかな。でも、なにを……?


 黙って様子を伺っていると、ユラさんが静かに口を開いた。


「……ラルフ。お前は、明日が来ると思うか?」

「え?」


 ユラさんの声に、ラルフは顔を向けた。


「明日が来るのかどうか、それは誰にも分からぬ。いや、明日どころじゃない。次の瞬間に何が起きるのかさえ、俺たちには分からない」

「……」

「未来を思い描くことは、無意味なのかもしれぬ。だが、思うことは自由だろう?考えて、心が弾む。その気持ちは嘘ではない」

「……」

「俺たちは、お前と旅を続ける。明日も明後日もだ。だから、話してくれ。お前は何をしようとしてる?」



―――スッ



 ラルフがユラさんから視線を外す。ユラさんとイオリさんは、じっとラルフを見ていた。


「……」

「……」


 暫くして、ラルフが口を開いた。


「もうすぐ、ここで爆発が起こる」


 ラルフは目を合わせないまま、抑揚のない声で言った。


「その前に、全員にがす」

「……そうか」

「うん」


 ユラさんとイオリさんは顔を見合わせた。そして、どこか嬉しそうな表情でラルフに告げた。


「「協力させろ」」

『……』

「ホント馬鹿だね、アンタたち」


 そう言って、ラルフは息を吐いた。




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