思惑
『……なんか、すごい入りづらくない?』
「そうだね」
収容所に引き返すと、なぜか多くの軍人さんが慌ただしく走り回っていた。厳戒態勢という感じだ。
『や、やっぱり今度でい』
「お前達そこで何をしている!!」
『!』
「あ」
「!!なっ、お前っ!!」
見ると、少し離れた所に看守長が立っていた。看守長はラルフに気が付くと、あからさまに顔を歪めた。
「何故ここにいる!正直に言わぬと……」
『す、すいません!私が控室に忘れ物をして、あの、取りに戻ってきたんです!』
「うん?……お前は、こいつの仲間か?」
『え?あ、はい』
「……ふむ」
私の返事を聞くと、看守長は僅かに口角を上げた。
「まあ、忘れ物なら仕方ない。付いてきなさい」
『え?あ、すいません……』
にこやかな看守長が少し気持ち悪かったけど、黙って付いて行くことにした。
―――ギィッ
ひと気のない裏口のような所から収容所の中に入る。まっすぐ控室に連れて行ってくれるのかと思ってたら――看守長はなぜか、地下への階段を下り始めた。
地下は、独房のような小さな牢屋が並んでいた。でも、どれも空っぽだ。不思議に思いながら通路を歩いていたそのとき
―――ドンッ!!
『わっ!?』
突然、強い力で背中を押された。
―――ガシャァァァン!!
「はっはっはっ!!無様だな!!」
『!!』
気が付くと、私とラルフは独房の中に入れられていて牢には鍵が掛けられていた。え……閉じ込められた……?
「どうゆうこと?」
表情を変えずにラルフが訊ねる。
「ふっ……いけ好かない小僧めっ」
一度舌打ちしすると、看守長はいやらしい笑みを浮かべて言った。
「よく聞くがいい。この収容所は、まもなく爆破されるのだ」
『えっ!?』
ば、爆破!?なんで!?
「王直々の命令だ。今宵、悪魔達を全滅させる。今、軍が爆弾を収容所の至る所に設置している。勿論ここも例外ではない。このままではお前達も、奴らと共に死ぬだろうなあ」
『!!』
「小僧、俺に土下座して謝れ。そうすれば、ここから出してやらないこともないぞ?」
この人は最初から私たちを閉じ込めるつもりだったんだ……!ラルフに仕返しするために……
―――ちらっ
そっとラルフの様子を伺う。ラルフは相変わらず涼しい顔をしてる。
「強気だね。昼間とは大ちがいだ」
「はっはっはっ!!爆破の任務が終われば、俺は特別に昇級することになっている!!お前が持つ短剣など、もう意味は無いの……」
「なるほど」
―――バリーンッ!!バラバラバラ……
「『え?』」
ラルフの拳によって、目の前にあった鉄格子が跡形もなく消え去った。
―――ガシッ
「ひぃっ!!」
いま鉄格子を破壊したのと同じ手で、ラルフが看守長の首を掴む。
「あっ、ああっ……」
看守長は青ざめて、目に涙を浮かべている。
「ぜんぶ話してくれる?」
「えっ!?」
「話してくれたら、手離すよ」
「!!」
看守長の話によれば、収容所の東西南北の棟と中央監視室、そして地下牢の計六ケ所に、アメリア軍が時限爆弾を設置しているらしい。全ての設置が終わると合図があり、約40分後にそれらは同時に爆発するのだという。
「なんで40分後?」
「ぐ、軍がここを離れ、爆破に備えるための時間だ……」
「そっか」
ラルフは少し黙った。そして
「ちょっとここで待ってて」
「え?」
―――がしっ
―――ぽいっ
―――ガシャァァァン!!
『!!』
「なーっ!?」
一瞬の出来事だった。ラルフが看守長の腕を掴んだと思ったら……気付いた時には、看守長は檻の中だった。
「な、なにをする!!出せ!!ここから出せ!!」
「さいごにね」
最後?
「最後とはなんだ!?なにを言って……」
―――スタスタ
喚く看守長に背を向けて、ラルフは来た道を戻り始めた。
「!頼む、待ってくれ!!な、なんでもするから、ここから出してくれ!!」
白い背中が止まる。ラルフは振り返ると牢屋の前に戻ってきて、静かに看守長に目線を合わせた。
「ちゃんと戻ってくるから」
「……え」
……
……意外だ。この人に、こんなふうに声を掛けるんだ。
「なにしてんの?」
『え?』
はっと我に返ると、ラルフが不思議そうな顔で私を見ていた。
「ソラノの鞄」
『!あっ』
色んなことがあり過ぎてすっかり忘れてた……。私が近づくと、ラルフは黙って歩き出した。




