鎖
翌日、収容所。
『……』
「ふあ~」
今日のラルフはいつにも増してやる気がない。なんか、ずっと眠そうだ。
『……ね、寝不足?』
スルーしつづけるのもアレなので、一応聞いてみる。
「まあね。思いなやむことがあzzz……」
『……(もうどう突っ込んでいいか分からない)』
―――ジャラ……ジャラ……
ふと、聞きなれない音がした。
『!』
――ジャラ……ジャラ……
見ると、重たそうな鎖を付けた囚人さんが、看守に連れられて廊下を歩いていた。……三十代くらいかな?背中を丸めて歩くその姿は、ひどく年老いて見えた。
「……」
『!!』
目が合った瞬間、ぞっとした。
その瞳はあまりにも暗くて、寂しくて……悲しかった。
―――カッ、カッ、カッ
「どうしたのだ」
「看守長!」
看守のキリッとした声が廊下に響く。ここから姿は見えないけど、きっと看守長が前にいるのだろう。
「この者が脱走を試みたので、今から拷問にかける所存であります!!」
「ほう」
『!』
ご、拷問……!?
「こやつは、どのようにして脱走しようとしたのだ?」
看守長の声が僅かに弾む。
「はい!運動場で歩行運動を行ったのち室内に戻るよう命令したのですが、この者だけがその場から動かず塀を眺めておりました故、脱走の思想があると判断いたしました」
『!!』
「なるほど。塀を越えて脱走しようとしたのか」
な、なにそれ……。それだけで、脱走しようとしたことになるの?どうして……
「そうなのだな?お前は、塀を越えて脱走しようとしたのだな?」
「は……」
「あ、それ俺のせいだ」
「「「『!?』」」」
気が付くと、さっきまで隣にいたはずのラルフが看守の横に立っていた。な、なにが起きた!?いや、なにが起きようとしてる……?恐怖を感じながらも、私はそっと廊下に近付いた。
「なんだお前はっ!?」
突然のラルフの出現に看守が驚愕の声を上げる。
「そうじがかり」
「掃除係がなんの用だ!!我々は重要な話を」
「俺がそうじサボったから、きたないままだったんだ」
「は……?」
「あれだけきたないと気になるよね」
「な、なにを言っている……?」
だから、とラルフはわざとらしく眉根を寄せた。
「ソイツは逃げようとしたんじゃなくて、塀のよごれをみてたんだよ」
『!』
「で、でたらめ言うな!!お前の話はめちゃくちゃ……」
「アンタたちと大差ないよ?」
「「なっ!!」」
顔を赤くする二人をよそに、ラルフは涼しい顔で懐から何かを取り出した。
……あれっ!?
「俺これもってるよ」
「「!!」」
そう言って、クレハさんから貰った短刀を看守たちの前に掲げた。
え……いつの間に取られてた?ミアン国での反省から、外出する時は肌身離さずちゃんと持ち歩いてたのに……?
「「……」」
二人は黙り込んだ。暫くすると、ようやく看守長が口を開いた。
「……その男の鎖を外し、牢屋に戻せ。……掃除係、お前も持ち場に戻れ……」
「はーい」
「……くれぐれも塀の掃除を怠るなよ」
「うん」
―――……カッ、カッ、カッ
忌々しそうな表情を浮かべて看守長が去って行く。看守もバツが悪そうに鎖を外すと、囚人さんを連れて来た道を戻って行った。
―――ザッ、ザッ、ザッ……
でも、
『……』
「……」
鎖を外されても、その人の瞳は変わらなかった。




