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ライフ  作者: 道野ハル
アメリア国[前篇]
55/162



 翌日、収容所。


『……』

「ふあ~」


 今日のラルフはいつにも増してやる気がない。なんか、ずっと眠そうだ。


『……ね、寝不足?』


 スルーしつづけるのもアレなので、一応聞いてみる。


「まあね。思いなやむことがあzzz……」

『……(もうどう突っ込んでいいか分からない)』



―――ジャラ……ジャラ……



 ふと、聞きなれない音がした。


『!』



――ジャラ……ジャラ……



 見ると、重たそうな鎖を付けた囚人さんが、看守に連れられて廊下を歩いていた。……三十代くらいかな?背中を丸めて歩くその姿は、ひどく年老いて見えた。


「……」

『!!』


 目が合った瞬間、ぞっとした。


 その瞳はあまりにも暗くて、寂しくて……悲しかった。



―――カッ、カッ、カッ



「どうしたのだ」

「看守長!」


 看守のキリッとした声が廊下に響く。ここから姿は見えないけど、きっと看守長が前にいるのだろう。


「この者が脱走を試みたので、今から拷問にかける所存であります!!」

「ほう」

『!』


 ご、拷問……!?


「こやつは、どのようにして脱走しようとしたのだ?」


 看守長の声が僅かに弾む。


「はい!運動場で歩行運動を行ったのち室内に戻るよう命令したのですが、この者だけがその場から動かず塀を眺めておりました故、脱走の思想があると判断いたしました」

『!!』

「なるほど。塀を越えて脱走しようとしたのか」


 な、なにそれ……。それだけで、脱走しようとしたことになるの?どうして……


「そうなのだな?お前は、塀を越えて脱走しようとしたのだな?」

「は……」

「あ、それ俺のせいだ」

「「「『!?』」」」


 気が付くと、さっきまで隣にいたはずのラルフが看守の横に立っていた。な、なにが起きた!?いや、なにが起きようとしてる……?恐怖を感じながらも、私はそっと廊下に近付いた。


「なんだお前はっ!?」


 突然のラルフの出現に看守が驚愕の声を上げる。


「そうじがかり」

「掃除係がなんの用だ!!我々は重要な話を」

「俺がそうじサボったから、きたないままだったんだ」

「は……?」

「あれだけきたないと気になるよね」

「な、なにを言っている……?」


 だから、とラルフはわざとらしく眉根を寄せた。


「ソイツは逃げようとしたんじゃなくて、塀のよごれをみてたんだよ」

『!』

「で、でたらめ言うな!!お前の話はめちゃくちゃ……」

「アンタたちと大差ないよ?」

「「なっ!!」」


 顔を赤くする二人をよそに、ラルフは涼しい顔で懐から何かを取り出した。


 ……あれっ!?


「俺これもってるよ」

「「!!」」


 そう言って、クレハさんから貰った短刀を看守たちの前に掲げた。


 え……いつの間に取られてた?ミアン国での反省から、外出する時は肌身離さずちゃんと持ち歩いてたのに……?


「「……」」


 二人は黙り込んだ。暫くすると、ようやく看守長が口を開いた。


「……その男の鎖を外し、牢屋に戻せ。……掃除係、お前も持ち場に戻れ……」

「はーい」

「……くれぐれも塀の掃除を怠るなよ」

「うん」



―――……カッ、カッ、カッ



 忌々しそうな表情を浮かべて看守長が去って行く。看守もバツが悪そうに鎖を外すと、囚人さんを連れて来た道を戻って行った。



―――ザッ、ザッ、ザッ……



 でも、


『……』

「……」


 鎖を外されても、その人の瞳は変わらなかった。




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