繋がり
立て籠もり事件から二日後。正子達はオウド国を出て、アメリア国へ向かうことになった。ついに潜入調査が始まる。
「皆様にお願いするのは、あくまで調査です。少しでも危険を感じたら、すぐに退いて下さい」
穏やかな口調を保ちながらも、真剣な眼差しでロレンスは言った。
「お心遣いありがとうございます。有益な情報を取得し、無事に帰って参ります」
「必ず、無事で」
ロレンスに深く頭を下げて、四人は城を後にした。
―――ピチチチッ
―――ピィピィッ
外に出ると、まだ朝の鳥が鳴いていた。
「む?」
道の先に、正子達を待ち構えるように立つ人物がいた。
「『!』」
「あれは、ジミニヤ国の……」
リンだった。四人が目の前にくるや否や、リンはイオリを見据えて言った。
「ちょっといいか」
「?ああ」
先に行っててくれ、というイオリの言葉を受けて正子達は三人で出国門へ向かった。
ラルフだけが、小さく笑っていた。
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三人が去ると、リンは静かに口を開いた。
「……あの夜、あんたの所にも親子がきたか」
「!ああ……立て籠もったやつの、家族か?」
何を言われるのかと思っていたイオリは、少し拍子抜けした。
「そいつらが、どうかしたのか?」
「礼を言われた」
「?」
その為にお前の所に行ったんだろ、と心の中で突っ込んだが、イオリは黙って次の言葉を待った。
「俺は、あんたに言われて動いただけだ。助けようなんて気持ちは微塵もなかった」
「……」
「だが、」
黒い瞳が微かに揺れる。
「礼を言われて、心地良いと思った」
「!」
リンは、その日の光景を思い浮かべた。
「あの夜は、月も星も見えない暗い夜だった。だが、美しいと思った。今まで見てきたどんな空よりも、美しいと感じた」
「……」
「……俺は、常に、自分が強くなる為に必要なものだけを選択してきた。必要ないと思ったものには見向きもしなかった。しかし、あの時、あの親子のために何をすべきか考えたら……息をするのが楽になった」
イオリは思わず、リンの瞳を見つめた。
「自分のことだけ考えていると、自分しか見えない。それは苦しい生き方だ。でも、誰かのことを考えれば、世界が広がる。心地よく生きられる……」
「……」
「あんたの言った通りだった」
「……」
「自分がいて、誰かを感じて生きられれば、それでいい」
ふっ、と初めてリンは笑った。
「ありがとう」
その笑顔があまりにも柔らかかったので、イオリは暫く声を出すことを忘れていた。はっとして我に返る。
「……俺も、お前と同じだった。懸命に生きることに執着して、周りなんかちっとも見てなかった」
「!」
「俺も、教わったんだ」
「……」
「その時から、少しでも、そいつの助けになりてえと思ってる」
「……そうか」
すっ、とリンに手を差し出す。
「またな、リン」
「ああ……イオリ」
―――ぎゅっ
互いの手を、強く握った。
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『!あっ』
出国門について暫くすると、イオリさんがやってきた。
「待たせたな」
「用は済んだのか?」
「ああ」
イオリさんが、チラリとラルフを見る。
「……なに笑ってんだ」
「いや」
「んだよ、はっきり言え」
「イオリも大人になったな、って」
「は?」
眉間に皺を寄せるイオリさんを尻目に、ラルフが楽しそうに笑う。
「アイツになつかれたでしょ」
「!、そんなんじゃねえよ」
「いや、確かにリン殿のイオリを見る目は、我々を見るそれとは違っていたな」
『っていうか、私たちは眼中にない感じでしたよね』
「!タナカ、お前まで……」
私の裏切り(?)に軽くショックを受けるイオリさん。
「……くそっ、とっとと行くぞ」
私たちを振り切るように、一人でズンズン歩き出した。
「はっはっは!まだまだ子供だな!」
『ですね』
「うるせえ!!」
「あははっ」
いつもより幼く見えるイオリさんの背中を笑いながら追いかける。ふと、イオリさんがラルフに顔を向けた。
「うん?」
「……笑いたきゃ、笑え」
言い捨てて、またそっぽを向いてしまった。
―――ザッ、ザッ、ザッ
でもその横顔は、なんだか嬉しそうだった。
オウド国【終】




