怠惰
正子達は兵に案内されて、街外れの教会にやってきた。この中に十数人の国民が立て籠もっているのだという。彼らの目的は、友好国の者をオウド国から追放すること。要望が受け入れられるまでは、梃子でも動かないと宣言しているらしい。
―――タタッ
教会の周りで待機していた兵が、深刻な面持ちで正子達に近付いてきた。
「失礼致します……確かではないのですが、犯人が特殊な武器を所持しているという情報が入っております。こちらから動くのは危険かと……」
「だからと言って何もしないのでは、ここに来た意味がない」
冷たく言い放ち、リンは教会の入口へ歩き出した。
「タナカ、俺から離れずに歩け」
『は、はい……』
イオリと正子も後に続く。
「止まれ!!」
入口から聞こえた大声に、三人は足を止めた。
「貴様ら、何者だ?」
相手の姿は見えないが、向こうからは見えているらしい。リンは表情を変えず、質問に淡々と答えた。
「東大陸の、ジミニヤ国とカタス国から来た者だ。お前たちは俺たちに用があるんだろう?中に入らせてもらう」
リンは再び歩き出した。相手は了承したのか、それ以上なにも言ってこなかった。正子達もリンに続いて入口に向かう。扉の前まで来ると、再び声がした。
「所持してる武器を、全てそこに置け」
「いいだろう」
リンは腰に差していた長刀を地に置いた。
「……おい、お前たちも置け」
動かないイオリと正子を見て、リンが眉を顰める。
「持ってない」
「持ってない?」
「カタス国のセンコウってのは武器を持たねえんだ」
「……よほど自信があるようだな」
リンは嘲笑うように口角を上げた。
―――ギイ……
「入れ」
「「『……』」」
中に入ると、白い布で目以外の部分を覆った者たちが一定の間隔で並んでいた。皆、手に短刀を握っている。そのうちの一人が三人に近付いていきた。
「ボスの所へ案内する。ついてこい」
入口を背にして真っすぐ進む。祭壇までくると左側に廊下があった。その短い廊下を進み、三階まで上る。上りきると目の前に大きな扉が現れた。
「※○◆♯*§∥▽」
「◎§±▲※」
―――ガチャ
扉が開く。
普段は客室として使われているのか、その部屋には机やソファが置いてあった。室内には男たちが数人立っていたが、一人だけ椅子に腰掛けてる者がいた。彼も他の者と同様に、目以外を白い布で覆っている。
「お前たちは、東大陸の者か」
「そうだ」
リンが答えると男は立ち上がり、声を荒げた。
「今すぐにオウド国から出てゆけ!!」
「なぜだ?こちらはオウド国の要請で来たのだぞ」
「……っ王はなにも分かっておらんっ!!」
男は強く拳を握った。
「異国と深く関わりを持てばいずれ面倒なことになる、それゆえ建国以来自分たちの力で国を造ってきたというのに!!最近のエポナ様はどうかしているのだっ!!」
「言いたいことはそれだけか」
「なにっ?」
―――メリッ
「『!』」
男の顔面に、リンの足が減り込んだ。
「うっ、くぅっ……」
呻き声をあげて男が床に倒れる。
「きっ、貴様……っ」
男は痛みに耐えながら立ち上がろうとした。しかし
―――ガンッ
「ぐあっ」
その頭を、リンはブーツで踏みつけた。
無表情でギリギリと踵を押し付ける。その冷酷さに周りの者たちは怯え、短刀を手にするも、その場を動けずにいた。
―――ザッ
「その辺にしとけ」
イオリが前に出る。リンはイオリに氷のような眼差しを向けた。
「こいつは俺たちを追放しようとした。俺はそれに反抗した。何が悪い?」
強く男の頭を踏みつける。足元で苦しむ男を冷たく見下ろしながら、リンは口を開いた。
「俺はお前みたいな輩が嫌いだ。他人と群れ、自分一人の力では何も出来ない。己を戒めることもせず、努力もせず、ただのうのうと日々を生きる……」
言葉を切り、より低い声で囁いた。
「お前、生きてる意味あるのか?」
「!!」
男の目が怒りで血走る。
「∴×●◎!!」
「▽※*!」
「▲|+#◆!!」
男が周りの仲間と何かを言い合った直後、
―――ドォォォンッ!!
「「『!?』」」
床の下から、激しい爆発音がした。
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「ボタンを押せ!!」
「し、しかし」
「いいから押せ!!」
―――ドォォォンッ!!
「「『!?』」」
立て籠もり犯たちが言い合った直後、床の下から大きな爆発音が聞こえた。
「……なにをした」
リンさんがギロリと男を睨む。
「教会の至る所に仕掛けた爆弾を今、爆発させた ……やがて、ここにも火の手が迫るだろう……」
「……」
「っ俺たちはっ、自らの死と引き換えにしてでもっ、この国にっ、王に訴える!!」
―――スッ……コツ、コツ、コツ
リンさんは男の頭から足を退けると、黙って窓の方へ歩き出した。
「おい」
イオリさんが声を掛ける。リンさんは窓の近くで止まると、私たちに背を向けたまま言った。
「付き合いきれない」
「……」
「死と引き換えに訴える?大層なことを言っているようだが、要は自分が弱いからだろ?弱くてどうしようもないから、その選択しか出来ないのだ。己の怠惰が招いた結果だ」
窓を開け、縁に足をかける。黒い艶やかな髪がサラリと風になびいた。
「勝手にやってろ、俺は抜ける」
ふわりと飛び降りようとした、その時
―――ガシッ
「……なんの真似だ」
「こっちこい」
―――グイッ
イオリさんはリンさんの手首を掴むと、強引に部屋の中へ引き戻した。そして顔を近付けて、低い声で言った。
「ここにいる奴らを、全員生かして捕らえる」
「……」
「協力しろ」




