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ライフ  作者: 道野ハル
オウド国
43/162

事件



 西の森、入口。



―――サワサワ……


―――チュンチュン……



「おはようございます。ゆっくりお休みになられましたか?」


 青色の瞳を細めて、ロレンスさんが微笑む。


「はい。お陰様で」

「それは良かった」


 ロレンスさんはそう言うと、近くにいるチャイナ服を着た二人組に視線を向けた。


「こちらのお二人は、東大陸のジミニヤ国から救援に来てくださいました。数日前に入国なさったのですが、まだ願いの書へご案内できていなかったので、本日お越しいただきました」

「!東大陸の」


 救援に呼ばれたのって私たちだけじゃなかったんだ……!ユラさんとイオリさんも驚いている。

 

 とりあえず、一人一人自己紹介をした。ジミニヤ国の二人は体が大きくて恐そうだったけど、話してみると明るくて良い人たちだった。


「実は、俺らの国からもう一人来てるんだが……今日はいなくてな」

「む?体調でも崩しているのか?」

「いやあ……」


 ジミニヤ国の人が口籠ると、ロレンスさんが少し寂しそうに笑った。


「ジミニヤ国のリン様はご自身の鍛錬のため、残念ながら本日はいらっしゃれないようです」

「「『えっ』」」


 鍛錬で……欠席?


「王の命令にそむくなんていい度胸だね」

「お前もギリギリだったけどな」


 イオリさんが小声で突っ込む。


「では、参りましょう。こちらです」


 柔らかな物腰でロレンスさんが歩き出す。気を取り直して、私たちも後に続いた。



―――チチッ、チチッ


―――ピィッ、ピィッ



 森は光に満ち溢れていて、鳥の声があちこちから聞こえてきた。とても気持ちの良い場所だ……。暫くすると、少し開けた所に出た。


「あちらにあるのが、願いの書です」

『!』


 広場の中央に、草花に囲まれた岩があった。


 岩は見上げるほど大きかった。例の言い伝えが四行にわたって掘られてる……みたいだけど、私には読めない。


「これは……文字なのですか?」

『(えっ)』


 ジミニヤ国の人が訊ねる。あれ?読めないの私だけじゃない……?


「この文字は、現在は使われていないものです。研究の結果、今から700年以上前の古代文字だということが分かりました」

「700年……!」

「はい。ですから願いの書は、少なくとも700年前から存在していたことになります」


 なるほど、そうゆうことか!



―――スッ


 

 私は改めて目の前の岩を見上げた。


 ……700年以上前に誰かが残したものが、今もちゃんとここにある。なんか、すごいな。


「見にこれて良かったな!」

「ああ!」


 ジミニヤ国の人たちが興奮した様子で話している。


「そう言っていただけて何よりです。本当はこうして雨ざらしにするのではなく、何処かに保存しておいた方が良いのですが……エポナ様が多くの方にみていただきたい、そして自然の中に願いの書を置いておきたいと仰ったので、こうして森のなかに安置することにいたしました」

「いやはや、素晴らしいお考えです!」

「我々は、オウド国の友好国であることを誇りに思います!カタス国もそうだろう?」

「はい、感動いたしました。本日は貴重な機会を与えていただき、誠にありがとうございました」


 ユラさんが深々とお辞儀をしたので、私とイオリさんも頭を下げた。どうせラルフはまた寝てるか、欠伸でもして……


『!』

「……」


 ……どちらでもなかった。


 ラルフは岩に背を向けて、どこか遠くを眺めていた。



--------



 ロレンスさんたちと別れて、私たちは街に出た。ユラさんは買い出しの為に市場へ向かったので(ラルフは既にいなかった)私はイオリさんと二人で、宿に戻ることになった。

 


「お前は、なんか買わなくていいのか?」

『!あ、大丈夫です』

「そうか」



―――ざわざわっ


―――わいわいっ



 お昼前の街は賑やかだった。いたる所に露店があって、色とりどりの布や陶器が売られている。



―――ブンッ、ブンッ



「『ん?』」


 お店を眺めながら歩いてると、何処かから風を斬るような音がした。見ると、小さな空き地で、木刀で素振りしてる人がいた。ふと、目が合う。


「……」

「『……』」


 黒い長髪を結い上げた美形の青年――私と同い年くらいかな?黒いチャイナ服に白いズボンを履いてる……ん?チャイナ服?



―――ブンッ、ブンッ、ブンッ



 青年は私たちを一瞥すると、すぐに視線を外した。そして二度とこちらを見ることはなかった。


『……イオリさん、あの服さっきの……』

「……ジミニヤ国の連中と同じだな」

『ということは、あの人が……』

「……」


 命令に背いて西の森に来なかった……鍛錬の人だ。


「『……』」


 私たちは、黙ってその場を後にした。




 暫く歩くと、少し静かな通りに入った。私はふと、以前から気になってたことをイオリさんに聞いてみようと思った。


『あの、イオリさんは、ユラさんとラルフと何処で知り合ったんですか?』

「ああ……。あいつらとは、センコウの試験で会ったんだ」

『え、じゃあ、もともと知り合いだったわけじゃないんですか?』

「会ってから一年くらいだな……」

『そうなんですか』


 一年か。意外だ。


 なんか三人の間には特別なものがあるというか……言葉にしなくても、相手が何を考えてるのか分かってるっていうか……いや、違うな……お互いのすることを信じてる、っていうのかな?だから、とにかくもっと長い付き合いなのかと思ってた。


「珍しいな。お前から聞いてくるの」

『え!あっ、そうですか!?』

「ああ」


 イオリさんが微かに笑う。


『あ、あの、初めて会った時って、どんな感じだったんですか?』

「そうだな。ユラは、無口でいけ好かない野郎だった。ラルフは……」


 ふと、視線が落ちる。


「……笑ってた。今と変わらねえ、何考えてんのか分からねえ、生意気なガキだった」


 ……


 ……そう言うイオリさんの横顔は、どこか寂しそうだった。



―――バタバタバタッ



「カタス国の御二方―っ!!」

「あ?」

『え?』


 振り返ると、兵隊さんが慌てた様子で走ってくるのが見えた。兵隊さんは私たちの前で足を止めると、肩で息をしながら深刻な顔で言った。


「お休みのところ申し訳ありませんっ、実は非常事態が起こりまして……っ、城までご足労を願いますっ!!」

「『!』」


 一体何が起こったんだろう……?不安を抱きながら、私たちはオウド城に向かった。



--------



「イオリ、タナカ殿!」


 王の間に入ると、ユラさんとラルフがいた。


『(あっ)』


 ジミニヤ国の人たちと……鍛錬の人も、そこにいた。



―――ガチャ



「皆様、お騒がせして申し訳ありません」


 ロレンスさんが入ってきた。


「実はつい先ほど、街の外れで立て籠もりが起きまして」

「立て籠もりですと?」

「ええ……」


 ロレンスさんは、少し言いにくそうに口を開いた。


「立て籠もっているのはオウド国の国民なのですが、その者たちの要求が……外部勢力を排除せよ、というもので……」

「「「「「『!』」」」」」


 外部勢力って……私たちのこと?


「今、軍を派遣しております。このような事態を招いてしまい本当に申し訳ありません。鎮圧するまで、念のため皆様にはここに留まっていただい」

「その必要はない」


 スッ、と鍛錬の人が立ち上がった。


「そいつらは俺たちを排除したいのだろう?ならば俺が行ってけりをつける。軍を動かす必要もない」

「……リン様、お気持ちはとても有難いのですが、あなた方は我が国にとって大切な存在です。万が一、何かあったら」

「それは俺たちを信用してないということか」

「そうゆうことでは」



―――コン、コン



「ロレンス様、ご報告が」

「……入りなさい」

「はっ」


 気まずい雰囲気のなか、一人の兵隊さんが神妙な顔つきで王の間に入ってきた。


「どうした?」

「はい。立て籠もっている者の大体の身元が分かったのですが……全員が、リジニ族の者でした」

「!」


 リジニ族……?


「何か問題があるのか」


 鍛錬のひ……“リン”さんが、鋭い瞳をロレンスさんに向ける。


「……リジニ族は古くからこの土地に住む者たちで、独自の言語を持っているのです。それは、我々には解読が難しいもので」

「仲間内でそれを使われたら厄介だな」

「……ええ」

「おい、女」

『へっ!?』


 突然、リンさんが私を見た。


「お前は何故ここにいる?」

『え?』

「「!!」」


 な、なぜって……


「どう見ても闘えるようにはみえない。所持品からして医者でもない。となると――言語研究者の類ではないか」

『え』

 


“聞かされていないのかね?異星人はどんな言語でも解し、話すことができると”



 ……ってことは、言語研究者ってことでも……いいのかな……?


「いや、タナカ殿は……」

『はいっ』

「「!?」」

『(えっ!?)』


 あれ、違った!?はい、って言っちゃダメだった!?


「なら、お前が来い」

『えっ?』


 え?うん?どうゆうこと??


 戸惑う私に構うことなく、リンさんは切長の瞳を再びロレンスさんに向けた。


「俺とこの女で立て籠もってる奴らの所へ行く。遣いを」

「待てよ」

『!』


 イオリさんが、静かにリンさんを制した。


「お前一人で勝手に決めんな」

「なぜだ?大人数で決めた方が正解が出るのか」

「そうゆうことを言ってるんじゃ……」

「能無しが集まって何になる。お前らはここで、黙って危険が過ぎるのを待ってろ」



―――ブチッ



 あ……イオリさんの何かが切れた。


「……俺が行く」

『!?』

「断る。足手纏いだ」

「だから、てめえが決めんな……」

「三人でいけば?」

「「は?」」


 しれっとラルフが割って入った。


「三人だったら何とかなるんじゃない?ねえ」

「え?いや、あの……」


 話を振られたロレンスさんは戸惑っている。


「ラルフ!行くのは俺だけでいいだろ、タナカは」

「タナカもいたほうがいいよ」

「いや、いくらなんでも危な」

「いまのイオリなら大丈夫だよ」

「……」

「たぶん」

「……」

「きまりだね」


 ね?と改めてロレンスさんを見るラルフ。


「……」


 ロレンスさんは複雑な表情で私たちを見た。が、やがて観念したように口を開いた。


「……ありがとうございます、あなた方の勇敢な心に深く感謝いたします……ただし、我が軍も近くで待機させていただきます、それだけはご容赦ください」

「「『……』」」


 こうして私はイオリさんとリンさんと共に、立て籠もりの現場に向かうことになった……。




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