願いの書
人が住む場所から遠く離れた深い森
「あれ、本当にきたんだ」
そう言って 俺たちを見たそいつは
「まいったなあ」
泣きそうな表情で笑ってた
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「つ、ついに……」
「……」
「……zzz」
―――すうっ
「ついに着いたぞー!!」
ついに、私たちは目的地であるオウド国に入国した。入国門で叫ぶユラさんを通りすがりの人々が怪訝な顔で見る。
「落ち着け」
「落ち着いていられるか!ここに来るまで、どれだけ掛かったと思っている!!」
「だからお前のせ」
「やったなタナカ殿!」
『はいっ!』
「聞けやコラ」
オウド国はカタス国と同じくらい大きな国だった。中央に塔があり、それを中心に同じ形をした建物が同心円状に配置されている。行き交う人々の服装は今までの国と大きく異なり、男性も女性も、踝まである白くて長い服を着ていた。
「さ、王の元へ急ぐのだ!」
―――ザッ
ユラさんが勇んで歩き出す。
オウド国の王、か……。
“国王が持つ“奇跡の技”を、皆が恐れてるからだと云われているわ”
“死んだ者を生き返らせる技”
“王自身もその技を自分に使ってると云われているの。現に、彼女の齢は200歳を超えているわ”
なんだかちょっと恐い……。一体どんな人なんだろう?
「おら、起きろラルフ」
「……ん?あ、肉だ」
『まだ言う?』
三人で、寝ぼけてるラルフを引き摺ってお城に向かう。お城は入国門から見えた高い塔だった。白一色でなんの飾りもない。城と言われなければそれと分からないくらいシンプルな建物だけど……空に向かってまっすぐ伸びる姿が、なんだか綺麗だった。
―――バッ!
「カタス国の者だ。王への謁見を頼む!」
「!、お待ちしておりました。王の間までご案内させていただきます」
兵隊さんに案内されて、さっそく入城する。
―――ギィッ
重い扉を抜けると、すぐに長い螺旋階段があった。階段には建物と同じ、白い絨毯が敷かれている。
最上階まで行くと大きな扉があり、中に入ると教会のような神秘的な空間が広がっていた。……ここが王の間らしい。
―――ガチャ
暫く待っていると、奥の扉が開いた。白くて長い服を着た男性が現れる。……男性?
「カタス国のセンコウの皆様、遠路はるばるご苦労様です。あなた方のご厚意に心から感謝いたします」
褐色の肌に青い瞳。黒い髪は短く切り揃えられていて、“高潔”という言葉が似合うような人だ。……でも、オウド国の王って女性なんじゃ……?
「とんでもございません。到着が遅くなり申し訳ありませんでした。友好国であるオウド国のため、誠心誠意尽力させていただきます」
「ありがとう」
青い瞳が細まる。
「エポナ様もあなた方にお会いするのを心待ちにしておられたのですが、体調が優れないため、今は療養されております。何か困りごとがありましたら私――ロレンスまで、なんなりと言ってください」
「ありがとうございます。王のご回復を心よりお祈りしております」
!そうか、この人は王の代理なんだ。
「長旅で疲れているところ申し訳ないのですが、明日の朝、西の森へご同行いただけますか?」
「西の森、ですか?」
「ええ、“願いの書”をお見せしたいのです」
「「!!」」
ユラさんとイオリさんの目が見開かれる。……願いの書?
「エポナ様が、この国を訪れた方に見ていただきたいと強く希望されているのです。明日の朝でしたら私がご案内できますので、是非」
「……ご厚情のほど恐れ入ります。よろしくお願い致します」
「こちらこそ。では、また明日」
そう言って、“ロレンス”さんは微笑みながら去って行った。
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『あの、“願いの書”ってなんですか?』
城を出ると、日干し煉瓦で出来た建物が朱色に染まっていた。大地と一体化したような街の中を歩きながら、イオリさんとユラさんにさっきから気になっていたことを聞いてみた。
「なんで俺にはきかないの?」
『寝てたじゃん』
「まあね」
なに、この無駄なやりとり。
「この世界の言い伝え、覚えてるか?」
『あ、はい!』
ここに来たばかりの時に聞いた、“孤独な神”のことかな?
「あれが書いてあるでけえ岩が、“願いの書”だ」
『えっ、岩なんですか?』
“書”なのに?本じゃなくて岩?
「うむ。誰がつくったのか分からないが、後世に残るよう、岩に文字を掘ったのであろう。紙だと消失してしまう恐れがあるからな」
『なるほど』
ふと、新たな疑問が浮かんた。
『あの、なんで“願いの書”っていう名前なんですか?』
「……」
「……」
あれ、しーんとしちゃった……。な、なんかまずいこと聞いたかな?
「……この星には孤独な神がいる、神は孤独に耐え切れず世界を終焉させんとす、見つけ出せ神を、彼の孤独を癒すのだ」
ユラさんが静かな口調で言った。
「世界の平和を願ってこの文字を掘った。ゆえに、“願いの書”と名付けられたようだ」
『……そうなんですか』
世界の平和を願って……。
「行くのめんどうだな~、パスしていい?」
「さすがにダメだろ。王の命令だぞ」
「イオリの言う通りだ!我々はただでさえ到着が遅れるという失態を犯している。もっと自覚を持って行動し」
「「お前のせいだろ」」
「タナカ殿、他に質問は?」
『ないです』
その後は、夕食や天気のことなど他愛もない話が続いた。もう“願いの書”が会話に出てくることはなかった。
宿はオウド国が用意してくれただけあって、素朴だけど居心地の良い場所だった。美味しい食事、清潔な室内、やわらかいベッド……長旅の疲れを癒すのに申し分のない所だった。
―――ごろんっ
寝る支度をして早速ベッドに転がる。……あー、もうすぐに寝れそ……
―――キィ
『(うん?)』
ふと、どこかの部屋のドアが開く音がした。誰か出かけたのかな?いや、でも今日は月が小さくて、とても暗い夜だった。こんな時に出掛けるわけ……
―――……スッ
なんとなく気になって窓辺に立つ。下の階にある玄関を眺めてると、誰かが表に出てきた。
『……あっ』
金色の髪の少年――ラルフだ。
宿を出てフラリと何処かへ歩いていく。どこに行くんだろう……?




