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ライフ  作者: 道野ハル
ミアン国
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真夜中の詩



「お腹すいた」


 食堂に行くと、ラルフさんが既に着席していた。


「いただきまーす」

「「『……』」」


 ラルフさんは食べられなかった昼ごはんの分を摂取するかの如く、いつもより更に食べた。そして私たちが突っ込む間もなく食事を終えると、おやすみ、と言って食堂を後にした。


「……我々も早く休もう。明日こそは、オウド国に入国しなければならぬからな」

「ああ」

『はい』


 二人と別れて部屋に戻り、お風呂に入ってから(重要)ベッドに入った。今日も色んなことがあって疲れていたので、私はすぐに眠りにおちた。


 しかし



―――ぱちっ



 ふと、夜中に目が覚めてしまった。外はまだ暗く、朝がくる気配はない。明日はたくさん歩くはずだから、もっと寝ておかなければ……。

 

 私は再び目を瞑った。


 ……


 ……



―――バサアッ



 駄目だ。完全に覚醒してしまった……!ぜんぜん寝れる気がしない。ふいに喉の渇きを覚える。とりあえずベッドから降りて洗面台に向かう。



―――キュッ


―――……


―――……



 あれ?水が出ない。



―――キュッ、キュッ、キュキュキュッ



 何度か回してみたけど出る気配がない。寝る前までは普通に使えたのに……。我慢する?……でも一度喉が渇いたと思ったら気になって眠れなくなる気がする。


 !そうだ、食堂に行こう。あそこには水道があった。



―――ガチャ……



 静かにドアを開ける。月明りのお陰で廊下はそこまで暗くなかった。みんなを起こさないように、そろりそろりと歩く。


『(あれ?)』


 隣の部屋のドアが少し開いてる……。確か、ラルフさんの部屋だ……



“ラルフが言ってたんだ。“友だちでも家族でも、ひどいことをするときはあるよ”っって”


“なんでそんなことするんだよって聞いたら、“さみしいって気持ちがあるせいじゃないかな”って……悲しそうな顔で言ったんだ……”



 ……いつものラルフさんからは、想像できない話だった。



―――……スッ



 隙間から、そっと中を覗く。


 荷物のない殺風景な部屋。ベッドだけが白く盛り上がっていて、そこにラルフさんが寝てることがかろうじて分かった。ラルフさんは頭まで毛布を被り、こちらに背を向けて、蹲るように眠っていた。


 ……とりあえず扉を閉めておこう。そう思って、ドアノブに手を伸ばしたその時



「…………っ……ぅっ……」


 ベッドから、呻き声のようなものが聞こえた。


「……ぅっ…………ぁ……っ」


 聞いたことのないラルフさんの苦しそうな声。


 何かが起こってる。

 


―――タッ



 気が付くと、足はベッドに向かっていた。


「……っ……はっ……」


 ラルフさんは毛布を握り締めて、小さく体を縮めていた。白い布が荒い呼吸で上下に大きく動いている。


『……ラルフさん、』


 毛布越しに背中に触れる。


「……っぅ……あぁ……っ」

 

 全く気付かない。ラルフさんは苦しみ続けてる。


『ラルフさん、大丈夫ですか、ラルフさんっ』


 背中を叩く。


『ラルフさん、ラルフさ…………ラルフさんっ!!』


 肩を掴み、思いきりこちらに引っ張って毛布を剥がした。


『!』

「……」


 虚ろな瞳。


 汗で、金色の髪が、額や首に張り付いている。


『ラル』



―――グイッ



『えっ』


 突然ラルフさんに手を引っ張られ



―――ぎゅぅっ



 抱きしめられた


 ……



 私の首筋に顔を埋めて、痛いくらいにぎゅっと抱きついてくる。


 その腕の力がなんだか切なくて……嫌だとか離してとか、そんなことは思わなかった。


 そっと金色の髪に触れる。


 出来る限りやさしく、やさしく撫でた。


 ふっ、と身体から力が抜ける。暫くすると、ラルフさんの頭が、首筋からゆっくり離れた。


「……」

『……』


 ぼーっとした瞳で私を見る。


『……あの』

「……肉だ」

『はっ?』

「いだだきま―」

『ちょ、待っ……ぎぃやぁぁぁぁぁ!!』



―――ダダダダッ


―――バンッ



「なんだ!?どうし……はあ!?」

「タナカ殿!?」

『た、助けてくだっ』

「にーくー」


 寝ぼけたラルフさんに襲わ……いや、食われそうになった私は、イオリさんとユラさんに助けてもらって何とか窮地を逃れることができた。


 そしてラルフさんは何事もなかったように、またすやすやと眠りについた。



--------



―――チュンチュン


―――チチチ……



「いや~まさかタナカに夜這いかけられるなん」

『だから違うって』


 朝。宿の食堂にて深夜の騒動を蒸し返すラルフさ……いや、もうラルフでいい。なんで“さん”付けなきゃいけないんだ。いいじゃん年下なんだから。


『何回も言ってますけどあなたの部屋のドアが開いてたから閉めようと思ったんです。そしたらなんか唸ってるから大丈夫かなって思って近づいたんです。文句ありますか』


 イオリさん騒動の反省から、抱きしめられたことは伏せておくことにした。……本人覚えてなさそうだし。


「……」

「……」


 慇懃無礼な態度をとる私にイオリさんとユラさんは戸惑っているようだ。空気を悪くして申し訳ないと思うけど、隣に座って飄々と話すこの金髪に私は今とてもイラついてい……


「タナカって処女なの?」

『ぶはっっっ!!』

「ラルフ!!」


 イオリさんが咎めるように割って入る。


「いい加減にしろ!さすがに言っていいことと悪いこ」

『そうですけどなにか?』

「「「!!」」」


 私は立ち上がり、大きく息を吸った。


『年齢=彼氏いない歴ですけどなんか問題ありますか?ラルフさ……いやもう面倒臭いんでラルフって呼びますけど、ラルフは自分でもご存知の通りイケメンだから経験豊富なんでしょうけれどもこちとらこうゆう顔面なんで未だに処女でございますよ、え?でもそれがなんスか、え?文句あるなら親に言えやぁぁぁぁぁ!!』



―――バンッ!!



「……」

「……」

「……」


 机を叩いた手がじんじんした。


「……あはっ」

『……』

「ごめんごめん、言いすぎた」

『……ええ』


 立ち上がった拍子に倒れた椅子をラルフが元に戻した。


「ほら、すわりなよ」


 ……なんか気まずいけど、とりあえず座る。


「食べなよ。食べないともっとブサイクに」

『黙れ』

「あはははっ」


 ……くそう、なんなんだ。なんで私はこんなにイライラしてるんだ。


「タ、タナカ殿、そういえば部屋の水道はもう直ったのか?」

『あ……はい。朝には出るようになってました』

「それは良かった!み、水は生命の源だからな!」

「なんの話だよ」


 ユラさんとイオリさんが気を遣って話題を変えてくれた……申し訳ない。私も、もう気にしてない振りをして、なるべく普通に会話するようにした。


「あ~食べた……zz……」


 お前はもうちょっと気にしろ、と心の中で言ってみる。



―――ぶんっ



 昨晩のことを消し去るように、私は大きく頭を振った。




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