理由
ミアン国、チナ地区。
「父ちゃんただいま!」
「タンジ、お帰り」
タンジの家は、街外れの荒れた土地にあった。石でできた粗末な家に父と二人で暮らしている。
「足の具合、どう?」
包帯と木の枝で固定された父の足を覗き込む。
「今日はだいぶ調子がいいんだ。歩けるようになる日も近いかもしれないな」
「ほんと!?良かったね!!」
「ああ。タンジが父ちゃんの替わりになんでもやってくれるお陰だ。ありがとうな」
大きな手がボサボサの髪を撫でる。
「へへっ。あのね父ちゃん、さっきね、昨日友だちになったラルフとタナカが、俺のこと助けてくれたんだ」
「助ける……?なんだ、なにか危ない目にあったのか?」
「あ、いや!全然大したことじゃないんだ!そ、それでね、そのお陰でデミングっていう新しい友だちができたんだ!」
「そうか」
少し間をおいてから、タンジは静かに口を開いた。
「……デミングはね、アメリア国の軍人だよ」
「!」
「だからさ、もう大丈夫だよ。誰も父ちゃんのこと虐めないよ」
「……ああ」
父は力なく笑い、もう一度タンジの頭をそっと撫でた。良い報告をしたはずなのに、タンジは何故か悲しい気持ちになった。
「お、俺、仕事行ってくる!今日は休む人がいるから早めに来いって言われてんだ!」
「……そうか。気をつけてな」
「うん!行ってきます!」
父の手を抜けて、逃げるように家を出た。
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「おーいタンジ、こっちだ!」
「おーう!」
タンジの仕事は井戸を掘ることだった。僅かな金にしかならないが父が動けない今、ここで貰える給料はとても有難いものだった。仕事場に着くと、自分と歳の近い者たちが既に作業を始めていた。急いでそこに加わる。
「はあ~。いつになったら水出てくるんだろうな~」
「出てこなかったりして」
「なんだそれ最悪じゃねえか!」
作業は決して楽ではないが、仲間と働くのは楽しかった。
―――カツンッ
「……ん?なんだこれ?」
いつものように土を掘っていたら、スコップの先端が固いものに当たった。
「タンジどうした?」
「いや、なんかここに埋まってるみたいなんだけど」
「掘ってみようぜ!」
掘り出すと、それは顔くらいの大きさの玉だった。
「ゴミか?」
「でもなんか綺麗だぜ?」
「あ、音がする!」
耳を近づけると確かに時計のような音がした。
「持って帰ろっかな」
「ダメだろ、何か見つかったら絶対報告しろって親方が言ってただろ!」
「しょうがないなあ、俺が行ってくるよ」
年長の少年が玉を持って出て行く。
「あれ売ったら金になったんじゃない?」
「だからお前さあ」
「勿体ないことしたな~」
「ったく。ほら!作業続けるぞ」
「へ~い……」
―――ドォォォォン!!
「「!?」」
突然、外から轟音が聞こえた。
「な、なんだ!?」
慌てて地上に出ると、
―――ゴォォォッ
「…………なん、だ……これ……」
うつ伏せに倒れている仲間と、赤く燃え上がる炎が見えた。
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ミアン国を出た私たちは、旅の目的地であるオウド国に向かって歩いていた。気が付くと、真上にあった太陽は少し西に傾いていた。
「昼メシまだ?」
「まだだ!というか……」
『?』
ユラさんがドーンと胸を張る。
「今日は、オウド国に入国するまで飯はとらぬ!!」
「は?」
『!』
「……」
いつも飄々としてるラルフさんが珍しく目を丸くした。
「なんで?」
「一刻も早く入国したいからである」
「ユラのせいで旅がおくれたんだよね?」
「……そんなこともあったな」
「だよね」
「……」
「あーお腹すい」
「よし飯にしよう」
ユラさんが即行で白旗を上げた。その時
―――ドォォォォン!!
「「「『!!』」」」
後ろから……ミアン国から、爆発音が聞こえた。たちまち黒い煙が上がる。
―――タッ
「!おい、ラル」
「さきいってて」
それだけ言うと、ラルフさんは来た道を戻って行った。
「……」
「……」
『……』
イオリさんが、はあ、と溜息をついた。
「……ったく。戻るぞ」
『!』
「せっかくミアン国から離れたというのにな」
イオリさんとユラさんが踵を返す。
「タナカ殿、残念ながら昼飯はおあずけだ」
『!は、はい、大丈夫です』
私もそれに続く。
……ラルフさんは、もしかしてタンジくんのことが気になって戻ったのかな?なんも言わないから分かんないけど……。
「?、タナカ?」
『え?』
「どうしたのだ?眉間に皺を寄せて……」
『え……』
また、そんな顔しちゃてたのか……。
「やはり空腹で」
『違います』
「……」
『いや、あの……なんで、ラルフさん戻ったんだろうなって……っていうかなんで何も言わないんだろうなって……思って……』
「「……」」
私がもごもご喋っていると、二人が小さく笑った。
「うむ、ラルフは勝手だからな。我々も何度振り回されたことか。なあイオリ」
「ああ。そのくせいつも涼しい顔で飄々としてやがる。気に食わねえ奴だ」
『……』
「だが、」
イオリさんの黒い瞳が細まる。
「あいつがしたことを、間違いだと思ったことはねえ」
……
……そう言うイオリさんが、私はなんだか羨ましかった。
「と、いうわけだタナカ殿!面倒なこともあるかもしれぬが、まあなんとかなるであろう!」
『!、はいっ』
「走るぞ」
『はいっ』
ラルフさんが何を考えて何をしようとしてるのか、私には分からない。
ミアン国に戻れば、ちょっとは分かることがあるのかな……。




