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ライフ  作者: 道野ハル
ミアン国
35/162

理由



 ミアン国、チナ地区。


「父ちゃんただいま!」

「タンジ、お帰り」


 タンジの家は、街外れの荒れた土地にあった。石でできた粗末な家に父と二人で暮らしている。


「足の具合、どう?」


 包帯と木の枝で固定された父の足を覗き込む。


「今日はだいぶ調子がいいんだ。歩けるようになる日も近いかもしれないな」

「ほんと!?良かったね!!」

「ああ。タンジが父ちゃんの替わりになんでもやってくれるお陰だ。ありがとうな」


 大きな手がボサボサの髪を撫でる。


「へへっ。あのね父ちゃん、さっきね、昨日友だちになったラルフとタナカが、俺のこと助けてくれたんだ」

「助ける……?なんだ、なにか危ない目にあったのか?」

「あ、いや!全然大したことじゃないんだ!そ、それでね、そのお陰でデミングっていう新しい友だちができたんだ!」

「そうか」


 少し間をおいてから、タンジは静かに口を開いた。


「……デミングはね、アメリア国の軍人だよ」

「!」

「だからさ、もう大丈夫だよ。誰も父ちゃんのこと虐めないよ」

「……ああ」


 父は力なく笑い、もう一度タンジの頭をそっと撫でた。良い報告をしたはずなのに、タンジは何故か悲しい気持ちになった。


「お、俺、仕事行ってくる!今日は休む人がいるから早めに来いって言われてんだ!」

「……そうか。気をつけてな」

「うん!行ってきます!」


 父の手を抜けて、逃げるように家を出た。



--------



「おーいタンジ、こっちだ!」

「おーう!」


 タンジの仕事は井戸を掘ることだった。僅かな金にしかならないが父が動けない今、ここで貰える給料はとても有難いものだった。仕事場に着くと、自分と歳の近い者たちが既に作業を始めていた。急いでそこに加わる。


「はあ~。いつになったら水出てくるんだろうな~」

「出てこなかったりして」

「なんだそれ最悪じゃねえか!」


 作業は決して楽ではないが、仲間と働くのは楽しかった。




―――カツンッ



「……ん?なんだこれ?」


 いつものように土を掘っていたら、スコップの先端が固いものに当たった。


「タンジどうした?」

「いや、なんかここに埋まってるみたいなんだけど」

「掘ってみようぜ!」


 掘り出すと、それは顔くらいの大きさの玉だった。


「ゴミか?」

「でもなんか綺麗だぜ?」

「あ、音がする!」


 耳を近づけると確かに時計のような音がした。


「持って帰ろっかな」

「ダメだろ、何か見つかったら絶対報告しろって親方が言ってただろ!」

「しょうがないなあ、俺が行ってくるよ」


 年長の少年が玉を持って出て行く。


「あれ売ったら金になったんじゃない?」

「だからお前さあ」

「勿体ないことしたな~」

「ったく。ほら!作業続けるぞ」

「へ~い……」



―――ドォォォォン!!



「「!?」」


 突然、外から轟音が聞こえた。


「な、なんだ!?」


 慌てて地上に出ると、



―――ゴォォォッ



「…………なん、だ……これ……」


 うつ伏せに倒れている仲間と、赤く燃え上がる炎が見えた。



--------



 ミアン国を出た私たちは、旅の目的地であるオウド国に向かって歩いていた。気が付くと、真上にあった太陽は少し西に傾いていた。


「昼メシまだ?」

「まだだ!というか……」

『?』


 ユラさんがドーンと胸を張る。


「今日は、オウド国に入国するまで飯はとらぬ!!」

「は?」

『!』

「……」


 いつも飄々としてるラルフさんが珍しく目を丸くした。


「なんで?」

「一刻も早く入国したいからである」

「ユラのせいで旅がおくれたんだよね?」

「……そんなこともあったな」

「だよね」

「……」

「あーお腹すい」

「よし飯にしよう」


 ユラさんが即行で白旗を上げた。その時



―――ドォォォォン!!



「「「『!!』」」」


 後ろから……ミアン国から、爆発音が聞こえた。たちまち黒い煙が上がる。



―――タッ



「!おい、ラル」

「さきいってて」


 それだけ言うと、ラルフさんは来た道を戻って行った。


「……」

「……」

『……』


 イオリさんが、はあ、と溜息をついた。


「……ったく。戻るぞ」

『!』

「せっかくミアン国から離れたというのにな」


 イオリさんとユラさんが踵を返す。


「タナカ殿、残念ながら昼飯はおあずけだ」

『!は、はい、大丈夫です』


 私もそれに続く。


 ……ラルフさんは、もしかしてタンジくんのことが気になって戻ったのかな?なんも言わないから分かんないけど……。


「?、タナカ?」

『え?』

「どうしたのだ?眉間に皺を寄せて……」

『え……』


 また、そんな顔しちゃてたのか……。


「やはり空腹で」

『違います』

「……」

『いや、あの……なんで、ラルフさん戻ったんだろうなって……っていうかなんで何も言わないんだろうなって……思って……』

「「……」」


 私がもごもご喋っていると、二人が小さく笑った。


「うむ、ラルフは勝手だからな。我々も何度振り回されたことか。なあイオリ」

「ああ。そのくせいつも涼しい顔で飄々としてやがる。気に食わねえ奴だ」

『……』

「だが、」


 イオリさんの黒い瞳が細まる。


「あいつがしたことを、間違いだと思ったことはねえ」


 ……


 ……そう言うイオリさんが、私はなんだか羨ましかった。


「と、いうわけだタナカ殿!面倒なこともあるかもしれぬが、まあなんとかなるであろう!」

『!、はいっ』

「走るぞ」

『はいっ』


 ラルフさんが何を考えて何をしようとしてるのか、私には分からない。


 ミアン国に戻れば、ちょっとは分かることがあるのかな……。




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