小さな背中
「ここで大人しくしていろ」
―――ガシャンッ
今、私は生まれて初めて牢屋というものに入れられた。手錠をかけられたのも初めてだ。
「……ごめん……」
タンジくんが、私とラルフさんに頭を下げた。
「俺、あの人たちと友だちになろうと思って、あの人たちが乗ってた馬車を止めたんだ。そしたら、俺のこと捕まえるって、追っかけてきて……」
『……』
「なんか恐くなって、タナカに隠れちゃったんだ……」
『……そっか』
なんか責められないなあ……。
『あの、あの人って、何者なの?』
「えっ!?」
タンジくんがお化けでも見たような顔で私を見る。それを見たラルフさんが、あははと笑い声を上げた。
「ほ、ほ、ほんきで言ってんのか!?」
『えっ、えっ?』
「タナカは見た目どおりド田舎からきたんだ。なんもしらないから教えてあげて」
見た目通りってなんだ。
「そ、そうか……」
タンジくんから憐れむような視線を送られる。
「えっと、あの人はアメリア国っていう国の軍人で、この国で戦う準備をしてるんだ」
『!』
あの人がアメリア国の……!!だから、ユラさんもイオリさんも下手に動けなかったんだ。
……ん?あれ?じゃあ、なんでラルフさんは自分から出てきたんだ?アメリア国の軍人だって知ってたんだよね……?
「なに」
『あ、いや……なに考えてんのかなって』
「早くメシ食べたいなって」
『そうですか』
わからん。
「ところでさ」
ラルフさんがタンジくんに向き直る。
「なんで友だちほしいの?」
「えっ」
ラルフさんの瞳が、ボサボサの髪の間から覗くタンジくんの瞳を捉える。タンジくんは一瞬ビクついたけど、小さな声で話し始めた。
「友だちだったらさ……友だちのこと大事にするだろ?……だから、みんなと友だちになりたいんだ……」
「そっか」
ラルフさんは、それ以上何も聞かなかった。そして
―――くるっ
「なんかおもしろい話して」
『は!?』
私に無茶振りしてきた。
「タナカの田舎は、人がいっぱい入る四角いのりものが走ってるんだって」
……え。地球の話しろってこと?っていうかよく覚えてるなその話。
「へー!すごいな!!」
『えっ』
キラキラした瞳で私を見つめるタンジくん。な、なんかもう話さざるを得ない状況だ……。え―……でも、何話そう?面白いもの、面白いもの……あっ!
『わ、私の住んでる所にはね、携帯電話っていう便利な機械があるんだよ~』
「「けいたいでんわ?」」
タンジくんと一緒にラルフさんも食いついてきた。
『これくらいの小さい機械なんだけど、電話も出来てメー』
「「でんわって?」」
『え』
あ、そうか!ここには電話も無いんだ……!
『……え~と、お互いにそれを持ってれば、どこにいてもその人とお話ができるっていう……。あ、でも電波がないとダ』
「えーっ!すごっ!!」
「なにそれどうなってんの?」
『え?えっと~……』
当たり前にある物をゼロから説明するのって難しい……。
牢屋の中でなにやってるんだろうと思いながらも、目の前のキラキラした瞳に応えるため、私は頭をフル回転させた。
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二人が捕らえられた後、イオリとユラは宿に戻り、クレハの短刀を捜した。
「!、あったぞ」
短刀は、王女から貰った布に巻かれて、正子のベッドの下に隠してあった。イオリの声にユラが振り向く。
「さすがタナカ殿。なんとも分かりやすい場所に隠したものだ」
「隠そうと思っただけ成長だな」
苦笑しながら荷物をまとめ、宿を出る支度をする。収容所に向かい、その足でこの国を出る手筈だ。アメリア軍に目を付けられた以上、少しでも早く出た方がいい。
「イオリ、あの童子をどう思う?」
「変わってるが、ただのガキだ」
「そうか……。停戦中とはいえ、緊張状態は続いているのだな」
「ああ」
「……」
「……」
「……イオリ」
ふと、ユラが手を止めた。
「先ほどの、タナカ殿の夢は……」
イオリが手を止める。
「……聞いた通りだったな」
「……」
「……こんな所で足止めくらってる場合じゃねえ」
「……そうだな」
二人は足早に玄関に向かった。
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―――カチャッ
「出ろ、釈放だ」
電話の説明を終えて口の中がカラカラになった頃、私たちは釈放された。ユラさんとイオリさんが短刀を持ってきてくれて、怪しい者ではないことを証明してくれたのだ。
「手荒な真似をしてすまなかった」
そう言うと、私たちを捕まえた軍人さんは頭を下げた。
「しかし小僧、今後は軍の馬車を止めるなんて危険な行為はするんじゃないぞ」
「うん。ごめんなさい……でさ、俺と友だちになってくれる?」
「まだそんなことを言うか」
「ねえ、いいだろ!?ねえ!!」
「わかったわかった、友だちだ」
ぱぁぁと顔を輝かすタンジくん。
「俺はタンジ!あんたは!?」
「デミングだ」
苦笑しながら名乗る軍人さん。……最初は恐かったけど、悪い人ではないのかもしれない。軍人・デミングさんにお辞儀をして、私たちは収容所を出た。
外に出ると太陽が真上にあり、朝から昼になっていた。
「じゃ、俺こっちだから!」
タンジくんが私たちと逆の方向を指す。
「助けてくれてありがとう!!」
満面の笑みを浮かべながら、タンジくんは土煙が舞う街へ走って行った。
“友だちだったらさ……友だちのこと大事にするだろ?……だから、みんなと友だちになりたいんだ……”
小さくなっていく後ろ姿から、なんとなく目が離せなかった。
「タナカ殿、大丈夫だったか?」
『!あ、はい、全然大丈夫でした!』
「俺のしんぱいは?」
「お前は自分で捕まりに行ったようなもんだろ」
「まあね」
『……』
「さあ、出国門へ向かおうぞ!」
そう言うとユラさんとイオリさんは、いつもよりも早いペースで歩き始めた。




