友だち
『……ぉえっ……』
「よ~しよし」
私たちは“ミアン国”に入国した。今日この国に泊まって、明日にはオウド国に入国する。長かった旅も終わりに近付いている。
『ぅ……うっぷ』
「ほらほら、我慢せず全部吐いてしまうのだ」
『……ぅっ』
旅の遅れを取り戻すため、一つ前の国から馬車に乗ってここまできた。朝から夕方まで揺れっぱなしだった。……地獄だった。
「イオリ、タナカ殿を頼む!俺は宿を探してくる」
「はいよ」
ユラさんに替わって、イオリさんが私の隣にしゃがみ込んで背中をさすってくれた。
『……すいません』
「気にすんな。悪いのは金落としたユラだ」
確かに。
「晩メシなにかなあ」
……人が吐いてる横で、夕飯の話?
「吐いたらその分いっぱい食べられるの?」
『……え、いや、そんなことないと思いますけど……』
「吐き損じゃん」
黙っててくれないかな……。
「おーい!!」
『?』
ふと、遠くから男の子の声がした。
―――ダダダダッ
10歳くらいの男の子が走ってくる。汚れた麻の上下を着ていて、足元は草鞋。男の子は私たちの前で足を止めると、大きな声で言った。
「俺と友だちになろう!!」
『え?』
「は?」
……なんだ?
「俺はタンジ!あんた達は!?」
『え?た、田中正子で』
「おいガキ、なんだいきなり」
イオリさんの瞳が鋭くなる。
「あんた達と友だちになりたいんだよ!いいだろ!?」
「なに言って」
「俺、ラルフ」
「『!?』」
一番友達にならなそうな人が名乗った……!
「ゲロ吐いてるのがタナカ、目つき悪いのがイオリだよ」
「おい」
「ラルフ、タナカ、イオリ……」
“タンジ”くんは土で汚れた顔をぱぁぁと輝かせた。
「よろしくなっ!!」
そう言うと、手を振りながら笑顔で去って行った。
「……なんだあのガキは」
変わった子だな……。
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夜。宿の食堂。
「色々聞いて回ったが……やはり、この国は安全とは言えないようだ」
ユラさんは箸を置くと、神妙な面持ちで言った。
「ミアン国は、オウド国とアメリア国の中間地点にあたる。そのためアメリア軍が街の一角に拠点を置き、オウド国と開戦になった時のために備えているそうだ」
「……アメリア軍に遭遇したら面倒だな」
「左様。長居は無用だ。明日の朝、必要な物だけ揃えたら、速やかに出ることにしよう」
「ああ」
『はい』
「(もぐもぐ)」
明日の集合時間を決めて、私たちは早々に解散した。
―――ガチャッ……ボスンッ
部屋に戻ってベッドに転がる。
……戦争、か。教科書とか映画で見たことはあるけど、体験したことは勿論ない。そんなものが、こんな近くにあるなんて……。
“俺と友だちになろう!!”
タンジくん、っていったっけ。あんな子が、こんな危ない所にいるんだ。ちょっと変わってるけど普通の男の子だった。なんだか信じられな……
『……z……zz』
不安な気持ちはあったけど、馬車に揺られて疲れたせいか、瞼が重くなってきた。……あ、もう駄目だ、起きれない……お風呂、明日の朝にしよ……
私はすぐに眠りにおちた。




