歯車
―――コツ、コツ、
暗く、長い廊下。
光は届かず、朝も昼も夜もない。
何度来ても気が滅入る場所……しかし、あの御方はここにいる。
―――コツ
「エポナ様」
闇の向こうに話し掛ける。
「ふふっ」
掠れた笑い声が聞こえた。
「お前がしくじるとは、珍しいこともあるものだな。ゴデチア」
「申し訳ありません」
「責めているのではない、言葉の通りだ」
「……」
「ヌヒ族の目は失ったが、あれが完成した。すぐに実戦で使えるようにしよう」
「ありがとうございます」
「で……なにがあった」
声が止まる。こちらの気配を探っている。
「……任務遂行中、奇妙な者に遭遇しました」
「ほう」
「その者は一人の団員から剣を奪い、その剣一つで十数名を、急所を外して薙ぎ倒しました。最後に残ったのは私一人となりましたが、腕を見た瞬間……その者は動きを止めました」
「腕?」
「はい。彼はエポナ様を知っているようで、言付けを預かりました。ヌヒ族にもナウェ国にも、手を出すな――と」
「……」
「エポナ様の、昔の名前も知っておりました」
―――フッ
空気が止まる。
深く息を吸い、言葉が揺れぬように続けた。
「金色の髪、茶色の双眸、齢は二十に満たない少年、名を……ラルフ、といいます」
……
……
……止まった。
あの御方の全てが止まったのだ。
そして
「…………あ……ああっ……あああ……」
「……」
動き出す
幾年も幾年も消えなかったそれは
貴方を
俺を
そして
やがて世界をも、変えてしまうのだろう




