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ライフ  作者: 道野ハル
ナウェ国
30/162

嵐のあとに



 夜明けと共に、私たちはナウェ国に戻った。


「!!」

「タナカ殿!トウヤ殿!」



―――タタッ



 遠くから、ユラさんとナツキくんが心配そうな表情で駆け寄って来た。


「二人とも怪我はないか?……む?」

『え?』


 ユラさんが私の頭を見て眉根を寄せる。……え?なんかあります?


「タナカ殿、髪に葉がたくさんついているぞ?ジャングルにでも行っていたのか?」


 とんだおてんば娘だな!と言いながら、ユラさんは私の髪を整えてくれた。


「ユラ、俺のしんぱいは?」

「はっはっは、何をいう!お前は鉄の雨が降ってきたとて無傷……」


 ピタッ、とユラさんの動きが止まる。ユラさんはラルフさんの右腕を穴が空くほど凝視した。


「けけけけけけけ、けがだと!?ラルフが!?」

「うるせえな」

「イイイイイイオリ!!お前その場にいたのであろう!?そんなものすごい敵だったのか!?」

「いや、そうでもねえが……」


 イオリさんはチラリとラルフさんを見た。


「ぼーっとしちゃったんだよね」

「……」

「つぎから気をつけるよ」

「……そ、そうか……」


 ユラさんは、それ以上何も聞かなかった。


「……トウヤ、」

『!』


 ナツキくんが遠慮がちにトウヤくんに声を掛ける。


「……」

「……」


 トウヤくんは俯いて、小さな声で話し始めた。


「……マイに、会ったんだ」

「……」

「また行ってしまったけど」

「……」

「でも、俺はここでマイを待ってるって決めたんだ」

「!!」


 トウヤくんは泣きそうになりながらも、強い瞳で笑った。


「……ようやく笑ったな」

「え?」

「お前、あの日から泣くこともなかったけど、本気で笑うこともなかったもんな」

「……」

「これでこっちも張り合いが出るぜー!」


 よっしゃー!と言いながら大きく伸びをするナツキくん。満面の笑みだ。


「……さてと」

『えっ?』


 二人を眺めてたら、イオリさんが急に私の前に立ちはだかった。


「で、お前はなんで巻き込まれたんだ?」

『え』


 ……怒ってる。青筋を立てて怒ってる。イオリさんは明らかに私に落ち度があると思ってるようだ。いや、その通りなんだけども……


『え~っと……ですね……』


 なるべく穏便にすむことを願いながら、私は恐る恐る口を開いた。



-------- 



 控えめにこちらの様子を伺うクレハさんたちを先に返して、私の取り調べ(二回目)がナウェ国の片隅で始まった。


 目の前にイオリさん。その後ろにはユラさんとラルフさん(半分寝てる)が立っている。


『……あの、夜中に突然トイレに行きたくなりまして』

「おう」

『一人で行くのは怖いと思いまして、で、誰か起きてないかなって様子を見たんですけど誰も起きてなかったので、さすがに自分のトイレのために寝てる人を起こすのもなあと思って……一人でトイレに行きました』

「……で?」


 あ、いま怒った。


『ででで、で、無事にトイレに行けて無事に帰路についたんですけど……クレハさんの家がどこだか分からなくなっちゃって……』

「……」


 呆然としている。


『あ、あの、家の形がどれも同じじゃないですか……!』

「続けろ」

『(ひいっ!)で、その、どこだっけなって思ってたら、一軒だけ戸が開いてる家があって、あ、もしかして私、家を出る時に戸を閉めなかったかもなって、じゃああれがクレハさんの家だなって、思って、その家に行ったら……マイさんがいました』

「……」


 空気が、空気がどんよりしてる。……まだ、話し続けた方がいい?


『……で、あの、マイさんに捕まりまして……ここで殺されるのと、トウヤくんと一緒についてくるのとどっちがいい?って言われて……ついていく方でって、言い、まし、た……』



―――……



 しーん。いや、ずーん……?とにかく私は喋り終えた。もう言えることは何もありません。


「……タナカ、わりい」

『へ?』



―――ベシッ!!



『……っいった』

「バカだろ。お前バカだろ」

「イオリ、こうゆうのはバカではなく間抜けというのではないか?」


 前回と同じようにイオリさんに叩かれ、ユラさんによーしよしと頭を撫でられる。……痛い。手加減してくれてるんだろうけど、それでもイオリさんの力はつよ……


『!』


 ふと、ラルフさんの右腕が目に入った。白い半袖の一部が赤黒く染まってる……


 ……


 ……


『……ユラさん、すいません、ありがとうございます……』

「タナカ殿?」


 軽く頭を下げて、ユラさんの手を抜ける。


『……迷惑かけて、本当にすいませんでした!!』

「「!!」」


 そして……


『ラルフさん、ごめんなさい……』

「……」


 一番謝らなければいけない人……。私を追ってきたせいで怪我をした。……痛いだろう。痛かっただろう……


「バカは死ななきゃなおらないからね」

『……』

「まあ頑張りなよ、バカなりに」

『……はい』


 棘のある言葉だけど、なぜか痛さは感じなかった。


「……よしっ!クレハ殿の家に戻り、ひと眠りしようではないか。睡眠不足は肌に悪い!!」

「お前、ほとんど肌見えねえじゃねえか」

「ふっ、これだから野蛮人は……。見えないところにも気を遣うのが真の紳士というもの!なあ、ラル……」

「zzz……」

「なあ、タナカ殿!」

『え、あ、はいっ』


 朝日が昇る。


 ようやく眠くなってきた目をこすりながら、私たちはクレハさんの家に向かった。



--------



 少しだけ寝て、昼前にナウェ国を出ることにした。ただでさえ遅れてる旅なので、ゆっくりしてはいられない。


「では、行きましょうか」


 森の出口までクレハさんが案内してくれることになった。一足先に、トウヤくんとナツキくんに別れを告げる。


「トウヤ殿、ナツキ殿、達者でな!」

「元気でな」

「うん。……みんな、本当にありがとう」


 ナツキくんはそう言うと、私たちに大きく頭を下げた。


「ラルフさん、タナカさん、すみませんでした……」

『え!あ、ううん……』


 心底申し訳なさそうに私たちを見るトウヤくん。


「気にしなくていいよ。悪いのはタナカだから」


 なんもいえない……。


 私が凹んでると、ラルフさんが、そうそう、と思い出したようにトウヤくんに言った。


「アイツ、ずっとアンタのこと見てたよ」

「え?」

「こんど会ったらいっといてよ。見張るんなら、もっと遠くからにしなって」

「……」


 トウヤくんは泣きそうな表情をした。けれどすぐに笑って、光を宿した瞳で言った。


「ラルフさん、ありがとう」

「うん」


 それだけ言うとラルフさんは踵を返し、一人で森に入って行った。


「あ、ラルフくん!」

「……ったく。相変わらず自由だな」

「我々も行くとするか」

『あ、はいっ』


 ラルフさんに続いて私たちも歩き出した。



―――ザッ、ザッ……



 暫くしてから後ろを振り返ると、トウヤくんとナツキくんが、まだ入口に立っているのが見えた。


『……ま、またね!』

「!、はい!」

「またなーっ!!」


 彼らに大きく手を振って、ナウェ国を後にした。



--------



 クレハさんのお陰で、私たちはすぐに森を出ることができた。


「クレハ殿、恩にきる!まさかこんなに早く抜けられるとは」

「いえ、少しでもお役に立てて良かったです」


 胡桃色の瞳が優しく笑う。


「あと……よかったら、これを持って行ってください」


 そう言ってクレハさんは美しい装飾が施された短刀を差し出した。


「「!」」


 イオリさんとユラさんが、はっと息を止める。


「……俺たちはアメリア国に依頼されて、わずかですが武器を生成してるんです。これは、感謝の意として王家から贈られた短刀です。きっと、役に立つと思います」


 ユラさんがそっと短刀を受け取る。


「……かたじけない」

「なにを言ってるんですか」


 クレハさんは私たちを見て、いたずらっぽく笑って言った。


「俺も“友が大事”なんです」




「タナカ、短刀はお前が持ってろ」

『え?』


 クレハさんと別れた後、突然イオリさんが言い出した。


「うむ!それが一番良いかもしれぬな」

「ユラは落とすかもしれねえからな」

「はい、タナカ殿」

「無視かコラ」


 半ば強引に、ユラさんから短刀を渡される。


『……あの、この刀は、なんか特別な物なんですか?』

「!ああ、」


 言ってなかったか、とイオリさんが口を開く。


「その短刀の贈り主――アメリア国ってのが、オウド国の敵国だ。“神”を“悪魔”だと呼んでる国でもある」

『えっ!』

「まさかナウェ国がアメリア国と関わりを持っていたとは……。危険はどこに潜んでいるか分からぬ。タナカ殿、くれぐれも慎重に……」

「お前が言うな」


 ユラさんが耳を閉じる。


「この西大陸で、俺たちの正体がバレるのは危険ってことだ。クレハはそれを案じてアメリア国の贈り物を渡した。いざという時に、身を守ってくれるだろうってな」

『……なるほど』

「バカのアンタが持ってろってことだよ」

『……』

「もうケガしたくないし」

『……すいません』


 ……ん?


 あれ?


「なに?」

『え?いや、え?』

「なんなの」

『や、ちょっといいですか』


 恐れながらもラルフさんに近付いてピラっと右の袖をめくる。


『……あれ』

「……」

『傷は?』

「なおった」


 え。


 えええっ、えーっ!?


 早くない?早すぎない!?だって袖が赤くなるほど出血してたし、なのにもう傷跡もなにも残ってないなんて……


「なに?まだケガしてて欲しかったの?」

『いやいやいや、そんなことは!』

「おらラルフ、その辺にしとけ」


 ラルフさんのチクチク攻撃をイオリさんが止めてくれた。……なんだろう。あれかな、異常に回復力が早い種族とかなのかな?いや、そもそも違う星の人だから地球人の私とは治癒力が違うとか……?


「タナカ、ちゃんと仕舞っとけよ」

『!あ、はいっ』


 イオリさんに言われて、私は短刀をソラノさんが持たせてくれた斜め掛けバッグにしまった。


「さ、今日は天気が良いからどんどん進むぞ!」

『!はいっ』

「まだ腕いたいなー」

『……』

「ラルフ」

「はっはっはっ!元気そうでなによりだ!」


 申し訳ない気持ちや、気になることは色々あるけど……考えてもしょうがないか……。


『(よしっ!)』


 気持ちを切り替えて空を見上げる。


 嵐の後のちぎれた雲が、西に向かって流れていた。




                ナウェ国【完】




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