傷跡
いつの間にか、空は白み始めていた。夜は去り、世界は濃い青色に包まれている。
マイは立ち止まったままだった。
「マイ……」
クレハが静かに声を掛ける。
「マイ、帰ろう」
マイは僅かに顔を上げた。そして
―――サクッ、サクッ……
クレハ達に背を向けて、ナウェ国でも、ローブの男たちが消た方でもない、別の方向へ歩き出した。
「!マイ、どこに行くんだ!?」
彼は歩き続ける。
「……っもういいんだろ!?自由になれたんだろ!?」
歩き続ける。
「マ……」
―――ダッ
トウヤがクレハの横を抜ける。持てる力の全てを使ってマイのもとへ走った。
「マイ!!」
その腕を掴み、歩みを止める。
「……マイ、……あ……あの……」
頭の中がぐるぐるする。何を言えばいいのだろう。マイは今、なにを思ってる?自分のことをどう思ってる?
……いや、そんなことよりも
もっと
もっと自分に言える確かなものを……
「…………マイ、俺……強くなったんだ……」
マイは顔を背けたままでトウヤを見ない。トウヤは構わず続けた。
「……足手まといに、ならないようにって……思って……」
マイの顔が微かに動く。
「……俺は、ずっと、マイに嫌われたんだと、思ってた……でも……もしかしたら、違うのかなって……でも、いいんだ……どっちだって、変わらないんだ……」
ゆっくりと、金色の瞳が重なる。
「俺は、マイが大好きなんだ」
―――すっ
マイの手がトウヤの左目に伸びる。
確かめるように、そこに触れる。
「……嫌いなわけがない……」
「……っ」
「ごめんね、トウヤ」
手が離れる。そして
―――サクッ、サクッ
彼は、トウヤに背を向けて歩き出した。
「……マイ、どうしてっ……どこへ……」
おぼつかない足取りで、追いかけようとするトウヤ。
「帰れない」
「……え?」
「帰れないんだ」
背を向けたまま話すマイの声は弱々しい。しかし、そこには確固たるものがあるようだった。
「いろんなことをした。恨みもないのに奪ったり、傷付けたり……殺すことも……」
「……」
「命令であれなんであれ、僕がやったんだ」
歩き出すマイ。
「……っ」
彼の歩みを止める術は分からない。止めるべきなのかどうかも分からない。でも
「……っマイ!ずっと待ってるから!!」
「……」
「待ってる!俺はマイと一緒にいること、絶対に諦めない!!」
マイの心を本当に分かることなんてできない
それでも
言いたいことはあるのだ
「……」
マイは、振り返らなかった。
―――サァァァ……
水気を含んだ雨上がりの風が吹く。
東の空がほんのりと茜色に染まり始め、マイの長い灰色の髪が光を受けてきらきら輝く。
―――ルウゥゥゥゥ……
「……」
「……」
エジャと、トウヤと、クレハは黙ってそれを見つめていた。
薄明の空に溶けるように、マイの姿は消えていった。




