隙
―――ワォーン!!
―――ザッ
エジャに導かれて、クレハとイオリは森の広場に飛び込んだ。
「「!!」」
そこにはローブを纏った集団とラルフがいた。そして
「マイッ!!」
「……クレハ」
10年ぶりに会う、友の姿があった。
「ラルフ!タナカは!?」
「あそこの上」
「上?」
イオリはラルフが指し示す方を見た。すると
「はあっ!?」
『……』
なぜか、高い木の上に正子がいた。その木の下部には数人の男が群がっている。イオリは瞬時に状況を理解した。
「ちっ……クレハ、ラルフは問題ねえ。こっちに手え貸せ」
「……あ、はい!」
二人で正子がいる木に向かう。
―――ダダッ
「クレハ!武器を!!」
「!、トウヤ!!……よしっ」
持ってきた長槍をトウヤに投げる。トウヤも合流し三人で応戦する。
―――ブンッ
―――キィィンッ
―――ザンッ
『っイオリさん!!』
「!!」
顔を上げると、別方向から登ってきた男が正子に迫っているのが見えた。
「くそっ」
イオリはクレハに借りた長槍を手離した。
「タナカ、飛べ!」
『ととと、飛ぶ!?』
「こっちに飛び降りろ!!」
『えっ、でっ、でもっ』
「俺目掛けて飛び降りろ!信じろ!!」
『!!』
正子は木の幹に摑まり、震える足で立ち上がった。怯えながらイオリを見つめる。
『いっ、いきますっ……!』
「ああ」
―――バッ!
―――ドサッ
イオリは落ちてきた正子を、しっかり腕に抱きとめた。
『……っ』
「……よくやった」
きつく目を閉じたままの正子に、そっと声を掛ける。正子の目がゆっくり開く。
『……ぅ』
「!」
開いた瞳に涙が浮かんだ。
『……ぅっ、ぅぅっ……』
「……」
声を抑えて静かに嗚咽する正子。
イオリは黙って、抱きかかえる手に力を入れた。
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「ラルフくん!加勢するよ!!」
正子をイオリに任せたクレハとトウヤは、追ってくる敵を払いながら、数名を相手に闘うラルフの元に駆けつけた。
―――ザンッ
―――ブンッ
長槍でラルフの背後を守る。
―――シュッ
「あ、さっきごめん」
「え?あ、いえ……」
―――ササッ
相手の攻撃を躱しながらケロリと謝るラルフに面食らうトウヤ。
「さてと」
―――タンッ
「「!」」
ラルフは二人から距離をとった。
―――ダダッ
―――ダダダッ
「あっ」
「!ラルフくんっ」
一人になったラルフの元に男達が走り寄る。ラルフは彼らを迎え入れるように体を開いた。そして
―――ガシッ
「っ!!」
飛び込んできた一人の男の手首を掴んだ。短刀が零れ落ちる。それをすかさず拾い上げると、ラルフは男に向かって斬りかかった。
―――ザシュッ
「!ぐあああっ」
「「!!」」
一瞬で男が倒れる。
「……小僧を殺れ。全員で斬りかかれ」
「「!!なっ」」
男の低い声を皮切りに、マイを除くこの場にいる全員が同時にラルフに斬りかかった。
しかし
―――ザンッ
「ぐあっ」
―――ドスッ
「うっ」
―――ザシュッ
「ああぁぁぁっ」
ラルフは短刀一本で、次々に敵を薙ぎ倒していった。
―――ドッ
―――シュッ
―――ザクッ
一人の少年によってクラーレが簡単に地に伏していく。その光景を、クレハは信じられない思いで見つめていた。
「……ラルフ……くん……」
無意識に言葉が零れる。
「君は一体……何者なんだ……?」
思わず息を呑んだ。
―――ドサッ
―――ドサドサッ
あっという間に、立っている敵はあと一人……指令を出していた男一人となった。
―――サクッ
男がラルフに近付く。ラルフは黙って男を見つめた。一歩、また一歩と二人の距離が縮まっていく。
その時
―――ビュォォォッ
強い風が吹いた。男のローブが捲れ上がる。
「……!」
一瞬、ラルフの呼吸が止まる。
男はそれを見逃さなかった。
―――ザンッ
「「「『!!』」」」
瞬時に避けたものの、刃はラルフの右腕を掠め、彼の衣服を赤く染めた。
「……あちゃ~」
ラルフはすぐに体勢を整えた。そして
―――ザッ
「!!」
男の眼前に迫った。
―――チャキッ
澄み切った刃を、相手の首筋に当てる。
「くっ……」
「……」
黙って男を見上げる。
「……っ……殺るならさっさと殺れ……」
「聞きたいことがある」
「……なに?」
ラルフは静かに息を吸い、低い声で囁いた。
「裏で糸を引いてるのはサラーフか」
「!!貴様、なぜその名を……」
苦笑するラルフ。
「そっかあ」
どこか寂しそうに笑いながら、小さな声で男に言った。
「伝えておいて。ヌヒ族にもナウェ国にも、手を出すなって」
「……」
すっ、と刃を外す。
「さっ、全員つれてかえってくれる?」
「!!、全員……だと?」
男は静かに周りを見回した。
「!」
「うっ……」
「ぐぐっ」
「っあ……」
男達はみな倒れているだけで、息はあった。
……あの状況で、全員の急所を外したというのか。
「……小僧、名は」
「ラルフ」
「…………ラルフ……か」
―――ザッ
男は大きく一歩を踏み出し、ラルフの横を通り過ぎた。
「総員撤退」
―――……スッ
男達が立ち上がり、よろよろと歩き出す。
「!」
「待て……!」
クレハとトウヤは後を追おうとした。しかし
―――サッ
「まって」
「!……ラルフくん?」
ラルフが道を塞いだ。
「たぶん、大丈夫」
「……え?」
「もうこないと思う」
……何を根拠にそう言えるのか。だが、ラルフの声には有無を言わせぬ響きがあった。
―――ザッ……
―――ザッ、ザッ……
一人、また一人と森の中へ消えていく。
「……」
マイは黙ってその様子を見ていたが、暫くすると彼らと同じように、森の中に向かって歩き出した。
―――ザッ
「止まれ」
「……は?」
男が目の前に立ち塞がる。
「お前も弟も必要ない。好きにしろ」
「……」
そう言うと、男は踵を返して森の奥に消えて行った。
―――……
マイだけが、一人残った。




