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ライフ  作者: 道野ハル
ナウェ国
27/162

意味のないもの



 長い時間が経った。ラルフとマイは一進一退の攻防を繰り返している。


「……」

「……っはぁっ」



―――ザザザザッ


―――ザンッ、ザンッ



 未だに涼しい顔をしているラルフと、肩で息をするマイ。しかしマイの動きが衰えるということはなかった。決着の行方は未だに見えない。


「……」


 ふと、ラルフがトウヤを見た。



―――ダンッ



 ラルフは地を蹴って大きく飛び跳ねると、トウヤの後ろに回り込んだ。そして



―――ギリギリッ



「っつ!!」

「!」


 その手首を捻り上げた。


「……っうっ……」


 痛みに顔を歪めるトウヤ。マイの動きが止まる。


「……どうゆうつもりかな?」

「気がかわった」


 ラルフは涼しい顔をして言った。


「トウヤをころすよ」



――――サアアア……



 冷たい夜風が通り過ぎる。


「なぜだい?」

「望みどおりにしてあげようと思って」

「誰の」

「アンタの」

「僕?」

「うん」



―――ギリリッ



「……っあ!……」

「消してほしいんでしょ」

「……」


 マイは口を結んだ。



―――……スッ



 周りで見ていた者達が、静かに剣を抜く。


「待て」

「「「「「!」」」」」」


 一人の者がそれを制す。


「……見届けようではないか、マイがどう出るか」


 男は暗い瞳をマイに向けた。



―――……フッ



 マイが短刀を持つ手を下げる。


「どうぞご自由に」

「!!」


 その言葉は、トウヤの胸に深く刺さった。


「そう?」



―――すっ



 ラルフの手が自分の首に回るのを、トウヤは他人事のように眺めていた。



―――グッ



 気道が圧迫される。



―――グググッ



「……っか……」


 苦しい


 頭がぼーっとする


 分からなくなってくる



 今、自分は何をするためにここにいるのか


 なぜ、ここにきたのか……



 遠ざかる意識のなかで、マイと目が合った



「…………マ……イ……」

「……」



“やめてくれよ、足手まといだ”


“嫌いだよ、君のこと。昔から大嫌い”



「……マ……イ………」

「……」


 金色の瞳は動かない。


「………っ……」


 あの日、精一杯掴んだ袖


 でも


「……っぅ……っ……」


 遠く


 遠く


 離れてしまった


「……マイ……マイ……っ……」


 目頭が熱くなり涙が溢れた。


「……ごめ……ん……ごめんな……さ……い……」



―――ビュンッ


―――カッ



 短刀が、ラルフの背後の木に刺さった。


「……離せ」

「……」

「トウヤを離せ」



―――ドサッ……



 ラルフはその手を解いた。




--------

----




 10年前。


 あの日は、薄紅色の花びらが舞っていたように思う。


 僕は王に他国での任務を言いつけられたため、朝早くからナウェ国を出ることになっていた。幼いトウヤを残して。


 気掛かりだった。


 ここ数日、何者かに監視されている。最初は気のせいかと思ったけれど、夜、目を凝らして森を見やると何人かの人間がじっと自分たちの家を視てるのが見えた。


 ……なにか、起こるかもしれない。


 僕は任務に赴いたふりをして身を隠し、様子を見ることにした。



―――ザッ、ザッ、ザッ



「……?」


 昼過ぎごろ、軽装の男が三人やってきた。この辺りの者か?いや、違う。見たことのない顔だ。男たちは僕たちの家の下で足を止めた。そして


「!!」


 音も出さず、勢いよく梯子を駆け上がり始めた。


「……っ」



―――ブンッ


―――カッ



「「「!?」」」


 咄嗟に投げた長槍が梯子の最上段に命中した。男の動きが止まる。



―――ザッ



「うちに何の用?」

「「「!!」」」


 自分の姿を見た男たちが目を見開く。ちらりと周りを見る。真っ昼間だというのに人の気配が無い……仕組まれてる?


「この国の王が、お前の弟を我らに売ったのだ」


 冷静さを取り戻した男が淡々と告げた。


 王が、トウヤを、売った


「……それは、弟の目が欲しいからか」

「そうだ」

「……」

「我々の背後には大国がついている。貴様が抗ったところで何にもならぬ。ここで大人しくしていろ」


 男が再び動き出す。


「ねえ、僕を連れて行ってくれない?」

「……なに?」


 男達が僕を見る。


「もうこんな狭い国にはうんざりなんだ。退屈なんだよ。どんなかたちでもいい、外で自分の力を試したいんだ」

「……人を殺めることになっても、か?」

「ああ」



―――カタッ……



「……マイ?」

「!」


 昼寝から起きたのか、寝ぼけたトウヤが戸から顔を出した。反射的に顔を背ける。


「マイ、帰ってきたの?その人たちだれ?」

「なんでもないよ」


 歩き出す。男たちもトウヤに背を向けて歩き出した。


「……待って!」


 何か感じたのか、トウヤが慌てて梯子を降りて追いかけてきた。手には槍を持っている。


「お前たち誰だ!マイをどこに連れていくんだ!!」


 連れて行かれてるように見えてるのか。……ああ、情けないなあ。


「返せ!マイを返せ!!」


 訓練し始めたばかりの槍を力いっぱい振り回す。もちろん当たるわけがない。すると、男の一人がすっとトウヤに近付いた。


「お前も、一緒にくるか?」

「!!」


 冗談じゃない。


 この先、この目を使って色んなことをさせられるだろう。潜入、強奪、人殺し。トウヤにそんなことをさせるわけにはいかない。自分一人がやればいい。


「やめてくれよ、足手まといだ」

「え」


 トウヤが僕を見る。自分と同じ色の大きな瞳が僕を見ている。


 動揺も、迷いも、後悔も、悲しみも、


 全てを押し込めて笑ってやった。


「嫌いだよ、君のこと。昔から大嫌い」

「…………マ……イ……」


 いうだけ言って背を向ける。再び歩き出す。


「……いゃだよぉ……マイ……いゃだよぉ!!」



―――ダッ



 トウヤは追いかけてきた。僕の袖を力いっぱい掴む。


「ごめんなさぃ、ごめんなさぃ!!なんでもするからっ、いうことなんでも聞くからっ、いっ、いっ、いなくならないっでっ……!!」


 違うんだよトウヤ


 トウヤはなにも悪くないんだよ


 僕はトウヤが大好きなんだよ


 だから、


 だから、



―――ザンッ



「っあ」


 トウヤの手から槍を奪い、左目に傷をつけた。


「っあああああ!!」


 目を抑え、蹲るトウヤ。


「さあ、行こうよ」

「「「……」」」


 立ちつくす男たちに声を掛けて歩き出す。


 もう振り返らない


 振り返れない


 どうか


 どうか幸せになってくれ




----

--------




「げほっ、げほっ、……はぁっ、はぁっ」


 崩れ落ちるトウヤを、僕はぼんやり眺めていた。


「あーあ……」


 誰に言うでもなく、ぽつりと呟く。


「無駄なことはしたくないんだけどな……」

「それ、なんなの?」

「……は?」


 突然、少年が話し掛けてきた。彼は薄ら笑いを浮かべている。


「そう思うことが、むだじゃない?」

「……なぜだい?」

「だって」


 すっ、と表情が消える。


「意味のあるものなんて何ひとつないよ」

 


―――サアッ


―――サワサワ……



 風が木々を揺らす。その風は自分の髪も、少年の金色の髪も揺らした。


「 “たまたま”なんだよ。たまたま、ここに在るだけ」

「……」

「意味なんてないよ」

「……」

「したいなら、すればいい」


 っていうかさ、と彼は小さく笑って言った。


「だから、一人できたんでしょ」

「……」

「……?」


 トウヤが朧げに僕を見る。


 ……


 ……


 ……ああ、そうだよ。


 数日前、背後についている国の命令でトウヤもクラーレに引き入れることになった。200年目を前に、権力者たちは焦っている。トウヤの入団もその影響だ。


 トウヤを逃がすことはできない。でも誰かに売られたり、無理やり連れてこられたり、そんな目に遭わせるのは嫌だった。自分一人で連れて来ることができれば……


「……はっ」


 諦めた方がいいのに、諦めた方がいいと思ってるはずなのに


「……ははっ……」


 矛盾してる


 僕は矛盾している


「……殺れ」



―――ザザザッ



 男の言葉を皮切りに、連中が少年に襲い掛かる。



―――ザッ



『!!』


 女がいる木にも何人か登り始めた。


「……っ!」



―――ダッ

 


 トウヤは一瞬思案した後、女がいる木に向かった。


 僕は、


 僕はどこにも動けなかった。



―――ワォーン!!



 どこかで、エジャの鳴く声が聞こえた。




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