真実
―――ウォーン、ウォーン……
「……エジャ?」
真夜中。エジャの遠吠えでクレハは目を覚ました。
「んあ?」
「……なんだ?」
「遠吠え……?」
同じ部屋で寝ていたナツキ、イオリ、ユラも身を起こす。
「起こしてしまってすみません、ちょっと見てきます」
クレハは外套を羽織って外に出た。
―――ビュォォォッ
―――ウォーン、ウォーン……
外はまだ、強い雨と風が吹いていた。エジャは数十メートル離れたトウヤの家の下で鳴いている。
―――タッ
その様子に妙な胸騒ぎを覚えたクレハは急いでエジャのもとまで走った。
「……エジャ、どうしたんだ?」
優しく頭を撫でる。エジャはクゥンと小さく鳴いた。
「なにかあったのか……ん?」
ふと、牙に何かが引っ掛かっていることに気が付いた。よく見るとそれは千切れた布だった。
「!!」
その色に、クレハは見覚えがあった。
「……っ……トウヤッ、トウヤッ!!」
―――ダッ
無我夢中でトウヤの家の梯子を駆け上がる。一刻も早く辿り着きたい。しかし近付くにつれ恐怖は増幅する。
戸は、開かれていた。嫌な予感を無理矢理頭から追い払い、クレハは勢いよく中に足を踏み入れた。
―――ダンッ
―――……
―――……
誰もいない。争ったような跡もない。
「……?」
一枚の薄い布が、入口近くに落ちていた。
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家に戻ると、ラルフと正子が居なくなっていた。そしてクレハが持ち帰った布は正子の所持品だということが分かった。
「……どうゆうことだ?」
イオリが眉根を寄せる。ユラとナツキも怪訝な顔で考え込んでいる。
クレハは、小さく口を開いた。
「……俺は、エジャを連れてこの周辺をみてきます。見当たらないようだったら森も……」
腰を上げ、三人に背を向けて歩き出そうとしたその時
「クレハ!……なんか隠してない?」
振り向くと、ナツキの大きな瞳がクレハを真っすぐ見つめていた。
「何か起こったとき、いつもだったら俺やトウヤを見回りに行かせて、クレハは残るって言うだろ?……なんで今日は違うんだよ?」
思わず目を逸らした。
「……クレハ殿、貴殿にも事情があるのだろうが、我々も仲間が気掛かりだ。何か思い当たることがあるのなら、話してくれぬか?」
「……」
―――スッ……
三人に向き直り、俯いたまま腰を下ろす。
「クレハ……?」
「……」
クレハは重い口を開いた。
「……マイが……トウヤの兄が、ここに来たのかもしれません……」
「!!」
ナツキの顔が強張る。
「この国を出て行ったという、兄上のことか?」
「ええ……エジャの牙に、これが引っ掛かっていました」
クレハは千切れた布を三人に見せた。
「……珍しい色だな」
それはただの紺ではなく、紺色がかった藍色だった。
「紺藍色といいます。あまり目にしない色ですが、西大陸にはこの色のローブを纏う集団がある……」
「集団?」
「……暗殺集団クラーレ」
「!!」
「暗殺……!」
「……っ」
―――ダダッ
突然、ナツキが武器を持って走り出した。
「待てナツキ!」
「俺が行く、あいつをぶっ殺す!!」
「止まれ!命令だ!!」
「!!」
何時にないクレハの強い口調にナツキは足を止めた。
「……なんでだよ?今もあいつのせいで、トウヤがひでえ目に遭ってるかもしれねえのに……」
「マイはそんなことはしない」
「何言ってんだよ……しただろ?……トウヤの目は、あいつが……」
「きっと、仕方なかったんだ」
「……しかたない……?」
信じられないという表情をクレハに向ける。しかしクレハは答えない。
「……っ」
……あいつがしたのが“仕方ない”こと?
仕方ないで済まされるのか?トウヤがどれだけマイのことを好きだったか自分は知ってる。トウヤがどれだけマイに傷つけられたか、自分は嫌というほど見てきた。
それが、全部仕方ない?
「……っざけんな」
怒りが全身を駆け巡る。憎い、憎い。今、目の前でマイを庇うクレハでさえも。
「クラーレに入る為に弟の片目潰すのが、仕方ないことなのかよ!!」
全ての怒りをぶつけた。身体が震える。息は乱れ、瞳からはボロボロ涙が零れた。
「……」
クレハは、ナツキから一度も目を逸らさなかった。もう、言わなければと思った。
「……マイは、自ら望んでクラーレに入ったんじゃない」
「……え」
ナツキの息が止まる。
「売られたんだ」




