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芽生え
―――サワッ
―――サワサワ……
割れたガラス戸の向こうから木の葉の揺れる音が聞こえる。この場で起こった事とは裏腹に、外は眩しい光で満ち溢れていた。
「あのさ」
「え?」
ふと、ラルフさんがヴェルカさんに顔を向けた。その表情は逆光で見えない。
「世界がかわることだってあるよ」
「……」
抑揚のない、風みたいな声だった。
「タナカ」
『!、え』
「最後までちゃんとはたらきなよ」
『あ、うん』
―――スタスタスタ
それだけ言うと、ラルフさんは何ごとも無かったように飄々と食堂を出て行った。
『……』
あの人は、いつも何を考えているんだろう?
どんな目で物事を見て、なにを感じているのだろう
知りたい……
今までどうやって生きてきたのか
200年目をどうやって生きていくのか
―――バタバタバタッ
「ちょ、ちょっと待って!!」
「何かお礼を……!」
「あ、名前は!?」
我に返った人々が慌ててラルフさんを追いかける。通り過ぎて行く幾つもの影を私は他人事のように眺めていた。……暫くすると、食堂には私とヴェルカさんの二人だけになった。
「マサコは、行かなくていの?」
『え』
どこかぼんやりした様子でヴェルカさんが訊ねる。私?私は……
『大丈夫です』
「そう……」
だって、宿に帰れば会えるから。またその顔を見ることができるから。




