この空を
―――……
―――シャーッ
走ってる……風をきって走っている。どこを?そっと辺りを見回す――白い霧が晴れて、目の前に橙色の光が差し込んできた。
―――パッパァァァ
―――ブロロロッ
―――シャーッ……
「……」
ここは……道路だ。私は道路の端を自転車で走っている。十数メートル行くと大きな交差点にぶつかり、そこを渡って右に曲がれば専門学校の時から通っているビル――バイト先がある。
「……あー……」
帰って、来た。なんだか夢を見ているみたいだ。フワフワと知らない世界に迷い込んでしまったような……おかしいな、ずっと住んでた場所なのに。
―――パシャッ……
ふと、タイヤが水をはねた。水たまりだ。よく見ると舗道も黒くなっている――そう思った途端、あのツンとしたような、じめっとしたような独特の匂いが鼻をついた。……ああ、アスファルトだ。
―――ブォォォォッ
―――ブーンッ
右側を、帰宅ラッシュの車やバイクが騒がしく通り過ぎていく。いつも通りのことなのに今日は窮屈に感じる。……とりあえず、深呼吸しよう。息を吐き、新鮮な空気を取り入れるために私は顔を上げた。
「あ……」
―――……
―――……
そこには、雨上がりのオレンジの空が広がっていた。
「……」
綺麗、だ。
雨上がりの空はとても綺麗だ
私一人で見ているのは勿体ない
誰かに、誰かに教えてあげたい
“なにそれどうなってんの?”
“いろんなヤツらが見てるんだね”
「……ラルフ、綺麗だよ」
ねえ、ラルフ。空がこんなに綺麗だよ。