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ライフ  作者: 道野ハル
パリツェ国
16/162

海辺の街で




「……―――……どうしたの?」



 たまらなくなって 手を伸ばした



 ああ 暖かい 



 なんて暖かいんだろう



 でも



「―――も――も、自由って……」



 さよならだ



 もう一緒にはいられない




*****




―――ザザーン、ザザーン



『……ん?』


 瞼の向こうに光を感じて、目を開ける。



―――ザザーン、ザザーン

 


『うっ』


 目覚めなければよかった……。また吐きそうだ。


「!、……タナカ殿、大丈夫か?」


 咄嗟に口を押えると、隣に座るユラさんが心配そうに声を掛けてくれた。


『……ちょっとはマシになったかと……』

「そうか!もう暫くの辛抱だ」

『はい……』


 船酔いをやわらげようと、私は海の彼方を見た。



―――ザザーン、ザザーン



 カタス国を出た私たちは、東大陸の最西の国から船に乗った。


 西大陸には半日程で着くと聞いていたので、そんなに遠くないと思ってたけど……船酔いしながらの半日は、めちゃくちゃキツイ。


 うたた寝してる時に哀しげな夢を見たけど、船酔いから逃れられるんだったら、我慢してあの夢を見てたほうがマシだったかもしれない……。



―――ザッ、ザッ



「おい、もう着くらし……お前ホント弱いな」


 船首からやってきたイオリさんが呆れた顔で私を見る。……仕方ないじゃん!!ア◯ロンもトラ〇ルミンも無いんだもん!!そりゃ酔いますよ!!


『うっ!』

「「……」」


 また吐き気が……もう、これが最後であって欲しい。ユラさんとイオリさんの哀れみの視線を感じながら、私は何度目かのトイレに向かった。



 


―――カンカンカーン!



 鐘を鳴らしながら、船は西大陸の入口「パリツェ国」に入港した。ふらふらと桟橋に降りて陸へ向かう。久々に踏む揺れない足場に、ものすごい安心感を覚えた。


「あ」

『?』


 ふと、ユラさんが立ち止まった。


「なんだ?」

「船長に宿代を払ってくる」

「なんで船長に払うんだよ?」

「港にある宿と提携しているらしくてな!今船長に支払えば、通常価格より二割安く泊まれるそうだ。船に貼り紙があった!!」


 さすがユラさん、主婦のようだ。


「先に行っててくれ!」


 そう言って、ユラさんは桟橋を戻って行った。


「zzz……」

「ラルフ、目え覚ませ」

「zzうん?……zzz……」


 前から思ってたけど……ラルフさんはよく眠る。船でも寝てたし、今も立ちながら寝てる。器用だよなあ。


「……おら、行くぞ」


 イオリさんがグイッとラルフさんの腕を引っ張ったその時、



―――ボチャン


―――バクンッ



「「『うん?』」」


 背後で何かが落ちた音と、何かが何かを食べた音がした。三人揃って振り返る。


「……」

『……』

「……なにしてんだ?」


 そこには桟橋に跪き、遠くの海面を見つめるユラさんの姿があった。ユラさんの目線の先には大きな魚の影があり、それはすぐに見えなくなった。


 ユラさんはフリーズしている。


「……おい」


 イオリさんが低い声を投げかける。ユラさんはゆっくりと首だけを動かしてこちらを見た。顔にはぎこちない笑みが浮かんでいる。


「……お金、持っていかれちゃった」

「「『……』」」


 突然、私たちはピンチに陥った。




「おまちどうさま!いま紹介できる仕事はこんなもんかな!」


 私たちは直ぐさまパリツェ国の職業紹介所にやって来た。


 ユラさんは、お金を保管用とすぐ使う用に分けていたらしく、すぐ使う用だけは落とさなかった。……しかし、今の所持金ではとてもオウド国まで辿りつけない。そのため数日間この国に滞在して、旅費を稼ぐことにした。


「右から船大工、商店建設、森林伐採……」

「大金が稼げる仕事を紹介してくれ」

「ひぃっ!!」


 血走った目で身を乗り出すユラさんに、おじさんが怯える。


「……あ、一つあるよ!採用してもらえるかどうか分からないけど……」


 そう言うと、おじさんは引き出しから新たな紙を出した。ちなみに私はこの世界の文字が読めない。これは、なんの仕事だろう?


「……王女の護衛?」


 文面を見たイオリさんが眉間にしわを寄せる。


「うん。いつも募集してるんだけど王女が厳しい方でね……。なかなか採用されな」

「日給30,000ヴェル!!」

『!』


 ユラさんの目がカッと開かれた。30,000ヴェル……。たしか、私が買ってもらった服が500ヴェルだったから……その60倍!!


「イオリ、ラルフ、これだ!これしかない!!」

「あ、俺ダメだ」

「え?」


 そう言って、ラルフさんは紙の下の部分をさした。


「20歳未満はダメだって。ざんねんだな~」


 全く残念そうじゃない。


「……くっ!俺とイオリの二人だけか。まあ致し方ない」

「いや、お兄さんたちが採用されるかどうかは……」

「すぐに紹介してくれ」

「……はい」


 尋常でないユラさんに気圧さて、おじさんは速やかに紹介状を書いた。




 正子とラルフを街の宿に置き、ユラとイオリはパリツェ城へやってきた。城は高い丘の上に派手な色をして建っていた。


「どうぞ、こちらでございます」


 城の者に紹介状を渡すと、すぐに王女の間に通された。じきに王女がやってきて直接面接をするのだという。


「王女の面接なんざ聞いたことねえよ……」


 イオリは訝し気に周囲を見回した。部屋には金を基調とした様々な装飾品が所狭しと並べられている。


「うむ、確かに変わっているが……。いや、きっと国を憂う心優しき王女なのだ!少しでも優秀な人材を求めているのであろう!!」

「そんなもんかねえ……」



―――ギイ



 イオリとユラが小声で話していると、ふいに奥の扉が開き、年老いた侍女が顔を覗かせた。


「ビビアン様のご入室です」

「「!」」


 二人はすぐに口を閉じ、さっと頭を垂れた。



―――カッ、カッ、カッ



 高いヒールの音が室内に響き渡る。堂々とした気品あるリズムだ。まさに、“気高い王女”を連想させる。



―――カッ



 高潔な音は彼らの正面で止まった。


「おもてをお上げください」


 侍女の言葉に、二人はゆっくりと顔を上げた。


「「!!」」


 そこには、華やかなドレス、艶のある茶色の髪、きめ細やかな小麦色の肌をした……


「ぶふぁっ!!うっそぉ~!!超美男子なんだけどぉ~~~!!!」

「「……」」


 ヤマンバみたいな王女がいた。


「……おい、どうゆうことだ?なんでここにバケモンがいる」

「落ち着けイオリ。アレは王女が飼ってるヤマンバだ」

「ちょっとぉ~アタシ王女なんですけどぉ~」

「「……」」


 イオリとユラは、改めて目の前の王女と名乗る者を見た。


「やっ、ちょ、そんな見ないでよぉ~、照れるぅ~」

「「……」」

「ビビアン様、この者共いかがなされますか?」

「いや合格ぅ~二人とも合格ぅ~!」

「「……?」」」

「畏まりました」


 侍女は王女に頭を下げると、スッと二人の前に歩み出た。


「おめでとうございます。貴方達は厳しい審査の結果、見事ビビアン様の護衛試験に合格いたしました」

「「え」」

「早速明日から仕えるように。良かったですねビビアン様」

「うんっ、最高~!」

「「……」」


 自分たちの身に何が起こったのか分からぬまま、二人は城を後にした。


  


 パリツェ国、2日目。


 朝ご飯を食べ終わると、イオリさんとユラさんはお城に出掛けて行った。私とラルフさんはユラさんに頼まれた買い物をするため、二人で街にやってきた。



―――ザザーン、ザザーン


―――ざわざわ



 街の建物は、ほとんどが白く塗られていた。純白の壁が太陽の光を反射して眩しい……。港には小型の船がたくさん停泊していて、まさに“海辺の街”という感じだった。



―――ざわざわ


―――わいわい



「なにあれ、へんなの」

『……』


 隣を歩くラルフさんは、さっきから色んなものに興味津々だ。


 正直、ラルフさんが一緒に来るとは思わなかった。だっていつも気付いたらいないし隙あらば寝てるし、私と行動するなんて絶対に嫌がると思ってた。


 でも昨晩、ユラさんに“二人で買い出しに行ってくれ”と言われたラルフさんは“いいよ”と素直に返事をしたのだ。……三人のなかで、この人が一番よく分からない。



―――くるっ



「タナカのすんでるとこって、どんなとこ?」

『えっ』


 突然、ラルフさんが振り向いた。

 

『え、えっと~……』


 まさか私に関する質問をしてくるなんて……想定外すぎて頭が回らない。


 な、なんて答えればいいんだろ?まず、地球の説明からするべき??いや、そんなことしてたらすごく時間掛かるんじゃ……と、とりあえず地元の説明でいいかな?


『……田舎っていうほど田舎じゃないんですけど、たまに畑とかあって……2キロくらい歩くと大きいスーパー、あ、商店?とか娯楽施設が少しあって……横浜せ、あ、乗り物に乗れば大きい街にも1時間くらいで出れるんで、まあ便利です」


 あれ、私なに話してんだろ?異星の人に都心へのアクセスを語たってしょうがな……


「乗りものってどんなやつ?はやい?」


 食いついてきた!!


『え、っと、四角い形で、それがいくつか繋がってて……人がたくさん乗れて……馬車よりも早いです』

「タナカものるの?」

『うん。週に何回か乗るかな』


 はっ!タメ語つかっちゃった!!


 だってラルフさんがあまりにも純粋な目で聞いてくるから!ま、まずかったかな?ひょっとして怒って……


「たのしそうだなあ」

『……』

 

 あれ、笑ってる……


「たかいの?」

『え?あ、料金ですか?いや、高くはないかと……』

「そうなんだ」


 なんか、楽しそう。こんな顔もするんだ。


 いつも飄々としてて、肝が座ってて、何を考えてるのか分からない。だからなんとなく近づきがたい人かと思ってたけど……18だもんね。私より年下だもんね。



―――ザザッ!



「寄るなっ!!こっち来るんじゃねえよ!!」

『!?』


 ラルフさんの表情に気を取られていると、後ろで大きな声がした。振り返ると、貝や魚がたくさん入った籠を背負った男の人と、足元まである赤いワンピースを着た女の人が向かい合って立っていた。女の人は、一匹の魚を男の人に差し出している。


「……これ落としたよ。ほら、」

「来るんじゃねえって言ってんだろ!この売女が!!」


 ばっ、売女!?



―――ザワザワッ



「なんだ?喧嘩か!?」

「あ、あの女!」

「ああ、あの城の……」


 あっという間に人だかりができた。騒いでるのは男の人だけど、みんな何故か女の人を見ている。……なんで?


「けっ、色目使って男から金巻き上げやがって……。てめえらがいたら街ごと腐っちまう!あの城たたんで、とっとと出ていきやがれ!!」

「!!、……っ」



―――ベチンッ!!



『!!(ひえっ!!)』


 突然、女の人が鬼のような顔で手に持っていた魚を地面に叩きつけた。


「……黙って聞いてりゃ……ざけんなコルァァァ!!」


 そして栗色の髪を振り乱しながら、すごい勢いで男の襟元に掴み掛った。



―――ガッ!!



「こっちは生きるために商売してんだよ!商売でたまたま体売ってるだけなんだよ!!文句あっか!?」

「な……」


 凄まじいエネルギーに男の人は唖然としていたけれど、我に返ると両手で彼女の肩を摑んで大声で怒鳴った。


「ふっ、ふざけんじゃねえー!!」



―――ドンッ



「!、いたっ……」

「売女の分際で調子に乗りやがって……」


 男はそう言うと、女の人を見据えたまま静かに自分の腰に手をやった。あれは……皮袋?



―――スッ……



「「「「『!!』」」」」

「痛い目みねえと分からねえみたいだな……」

「っ……」


 出てきたのは、なんと小刀だった。た、大変だ!このままじゃ、あの女の人が……。男はいかにも余裕ありげな顔で小刀をブンブン回している。ブンブン、ブンブン、ブンブ……


「あっ」

『え』

「!!」


 ふと、勢いあまってその手から離れた小刀が……私の方に飛んできた。



―――ヒューンッ



『!!』


 え、嘘!?し、死ぬ……!!



―――カラーンッ



『……っ』


 ……


 ……あれ?痛くない?


 小刀飛んできたよね?私に向かって真っ直ぐきたよね?でも……なんで痛くないの?心臓をバクバクさせながらそっと瞼を上げる。すると、目の前に白い背中があった。


『!』

「……」


 ラルフさん、だ。


「「「「「おおおおっ!!」」」」」


 周りからどっと歓声が上がる。


「兄ちゃんすげえ!!」

「片足で蹴落とすとは……どっかの兵隊か!?」

「いやあ大したもんだ!」


 いつの間にか、私たちの周りには多勢の人だかりが出来ていた。ええっと……ラルフさんが助けてくれた?全く何も見てなかったけど……


「ちょっとどいて」

『!』


 周囲の熱気を気にも留めず、ラルフさんが歩き出す。お、置いて行かれたら大変だ……!私は慌ててその背中を追い掛けた。




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