心
―――チュンチュン……
―――……
『え……』
目覚めると、ラルフの姿がなかった。イオリさんとユラさんの話によると、ラルフは夜のうちにここを出て行ったらしい。もうすぐ200年目がくるので、それに巻き込まれる人を少しでも減らすために、誰もいない土地を目指して自ら去っていったのだという。
……誰もいない場所を探して、一人で
『追いかけていいですか』
「え?」
気が付くと声が出ていた。二人の目が見開かれる。私はその瞳を見つめ返して、改めて強い口調で言った。
『私、ラルフを追いかけたいんです』
“タナカ、今なに思ってる?”
追いかけたい……。たとえ追い付けなかったとしても私はラルフを探したい。このままここで何もしないなんて、それで終わりなんて嫌だ。
拳を握って返事を待っていると、イオリさんの口がゆっくり開いた。
「……初めてだな。お前が自分から言い出したの」
『え?』
「うむ。これまで誰かに訊かれたり、促されたりして答えていたタナカ殿が……自ら見つけたのだな」
『(あ……)』
そうだ、今まで自分の意見を言ってるようで、いつも周りの様子を窺ったり、導いてもらったりして進んできた。
きっと私は他人の事だけじゃなくて、“自分”も見ようとしていなかった……
“あたしは、いつでも好きな自分でいたいんだ”
“やるべき事は、そこでどう生きるかだ”
でも今は見える。今は分かる。自分の心がどうしたいか。
『私、一人で追いかけます』
「!」
「タナカ殿っ、それは危険……」
『私なら近くにいっても大丈夫ですよね?“その時”には、いなくなるから』
「「……」」
黒と灰色の瞳が戸惑うように揺れている。私は一度息を吐いてから大きな声で二人に言った。
『イオリさん、ユラさん、今まで本当にありがとうございました!!』
これでもか、っていうくらいお腹にグッと力をこめた。……ちゃんと届いただろうか?不安に思っていると、イオリさんが下を向いてぽりぽりと頭を掻いた。
「…………声でけぇよ」
『!!、はいっ、すいませんっ!!』
「はっはっはっ!タナカ殿は意外と体育会系なのだな!!」
『はいっ!!』
叫ぶように返事をする。そうやって大声を出していないと……パンパンに膨らんだ気持ちが溢れ出して、泣いてしまいそうだ。
「綺麗になった」
『へっ?』
唐突に放たれたイオリさんの言葉におもわず思考が止まった。何をいわれたのか分からずポカンと口を開けていると、ユラさんが続けるように言った。
「うむ。出会った頃と見違えるほど、タナカ殿は綺麗になった」
『!、……』
「?タナカ、」
「タナカ殿?どうし……」
『うっ……』
「「(あ)」」
『う゛ゔーっ!!』
「「(やっぱり泣いた……)」」
結局、私は涙と鼻水をだらだら流して泣いた。その間、イオリさんとユラさんは笑って傍にいてくれた。
“いつまでも後ろ歩いてんじゃねえよ。並んで歩け”
“予定変更だ!三人で噂の火薬職人の元へ向かうぞ!!”
感謝しても感謝しきれない……。私は二人のことを、絶対に忘れない。