表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライフ  作者: 道野ハル
帰路
159/162




―――チュンチュン……


―――……



『え……』


 目覚めると、ラルフの姿がなかった。イオリさんとユラさんの話によると、ラルフは夜のうちにここを出て行ったらしい。もうすぐ200年目がくるので、それに巻き込まれる人を少しでも減らすために、誰もいない土地を目指して自ら去っていったのだという。


 ……誰もいない場所を探して、一人で


『追いかけていいですか』

「え?」


 気が付くと声が出ていた。二人の目が見開かれる。私はその瞳を見つめ返して、改めて強い口調で言った。


『私、ラルフを追いかけたいんです』



“タナカ、今なに思ってる?”



 追いかけたい……。たとえ追い付けなかったとしても私はラルフを探したい。このままここで何もしないなんて、それで終わりなんて嫌だ。


 拳を握って返事を待っていると、イオリさんの口がゆっくり開いた。


「……初めてだな。お前が自分から言い出したの」

『え?』

「うむ。これまで誰かに訊かれたり、促されたりして答えていたタナカ殿が……自ら見つけたのだな」

『(あ……)』


 そうだ、今まで自分の意見を言ってるようで、いつも周りの様子を窺ったり、導いてもらったりして進んできた。


 きっと私は他人の事だけじゃなくて、“自分”も見ようとしていなかった……



“あたしは、いつでも好きな自分でいたいんだ”


“やるべき事は、そこでどう生きるかだ”



 でも今は見える。今は分かる。自分の心がどうしたいか。


『私、一人で追いかけます』

「!」

「タナカ殿っ、それは危険……」

『私なら近くにいっても大丈夫ですよね?“その時”には、いなくなるから』

「「……」」


 黒と灰色の瞳が戸惑うように揺れている。私は一度息を吐いてから大きな声で二人に言った。


『イオリさん、ユラさん、今まで本当にありがとうございました!!』


 これでもか、っていうくらいお腹にグッと力をこめた。……ちゃんと届いただろうか?不安に思っていると、イオリさんが下を向いてぽりぽりと頭を掻いた。


「…………声でけぇよ」

『!!、はいっ、すいませんっ!!』

「はっはっはっ!タナカ殿は意外と体育会系なのだな!!」

『はいっ!!』


 叫ぶように返事をする。そうやって大声を出していないと……パンパンに膨らんだ気持ちが溢れ出して、泣いてしまいそうだ。


「綺麗になった」

『へっ?』


 唐突に放たれたイオリさんの言葉におもわず思考が止まった。何をいわれたのか分からずポカンと口を開けていると、ユラさんが続けるように言った。


「うむ。出会った頃と見違えるほど、タナカ殿は綺麗になった」

『!、……』

「?タナカ、」

「タナカ殿?どうし……」

『うっ……』

「「(あ)」」

『う゛ゔーっ!!』

「「(やっぱり泣いた……)」」


 結局、私は涙と鼻水をだらだら流して泣いた。その間、イオリさんとユラさんは笑って傍にいてくれた。



“いつまでも後ろ歩いてんじゃねえよ。並んで歩け”


“予定変更だ!三人で噂の火薬職人の元へ向かうぞ!!”



 感謝しても感謝しきれない……。私は二人のことを、絶対に忘れない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ