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少年
少年は、夜の草原を走り続けた。振り切るように、逃げるように、ひたすら北へ向かった。
「……」
苦しくはない。痛くもない。体は一向に疲れない。この足で何処までも走っていける、そう思っていた。けれど……
―――……ザ
―――……
立ち止まって振り返ると、そこには誰も居なかった。当然だ、その為に走ってきたのだから。そのために一人になったのだから。
「…………ぅっ、ぁっ、ああああああっ」
ああ、知っていたのに。“大切”になれば穴があく。なんで同じことを繰り返すんだ。何度痛みを感じれば気が済むんだ。
「っ……」
さあ、終わりにしよう。要らないものを捨て去ればもう振り回されることもない、体が震えることもない。
―――……
―――ザザッ
少年は走り出した。人の手も想いも届かない、遠い場所を目指して。縋るように、願うように。
「……」
そしてもう一度だけ、後ろを振り向いた。