また、
真夜中。
―――……
「……ユラ」
「ああ……」
背中からイオリの声がした。……予感が当たってしまったか。上体を起こして辺りを見回す――やはり、あいつの姿がない。
「まだ遠くには行ってないはずだ」
「そうだな……急ごう」
気配を消したラルフを追って、俺はイオリと寝床を出た。
―――サァァァ……
夜の草原を風が吹き抜けていく。月の光を頼りに周りを注視すると、北の方角に見慣れた後ろ姿があった。
―――スタ、スタ、スタ……
―――ザッ
「どこへ行く」
―――……スタ
イオリの声に細い背中が止まる。ラルフは一拍置くと、何でもないような様子でこちらを振り返った。
「あ、バレた?」
「ふんっ、お前と過ごして三年になるからな。見くびってもらっては困る」
言い切って、俺とイオリは一歩を踏み出した。しかし、その動きを阻むように白い掌が突き出された。
「ここまで」
「……」
「……」
抑揚のない言葉は、真っすぐ身体のなかに落ちてきた。
「ありがとう」
―――くるっ
「!!待てっ、ラル」
「たえられない」
「え……」
背中越しに投げられたのは、どこか揺れのある声だった。
「近くにいたらアンタたちは助からないよ」
「……」
「……」
「じゃあね」
―――スタ、スタスタ……
「っラルフ!!」
隣でイオリが叫んだ。ラルフに止まる気配は無い。それでも奴は叫び続けた。
「アンタじゃねえ、俺はイオリだ!!」
「!、俺もだぞ、俺はユラだ!!」
「……」
「「覚えとけっ!!」
「……ははっ、あはははっ」
「……」
「……」
「ばいばい、イオリ、ユラ」
“あれ、本当にきたんだ”
“まいったなあ”
「……」
「……」
―――スタスタスタ……
―――……
―――……サワッ
―――……
「……なあ」
二人になった草原で、ぽつりとイオリが呟いた。
「別れって、簡単にくるんだな」
「……」
その通りだ……。どんなに共にいたいと願っても、いつかは別れる時が来る。それは当たりまえのように俺たちの前にやって来る。
けれど……
“明日、世界がどうなるかなんて誰にもわからない”
「また、会いにいこう」
「え?」
視界の端で黒い瞳が丸くなる。俺は前を向いたまま、はっきりとイオリに告げた。
「200年目が終わったら、また三人で旅でもしよう」
「……やっぱりお前って、バカだな」
「まあな!」
「……のってやるよ」
「のらせてやる」
“なにしたっていいんだよ”
“ぜんぶ意味ないんだから”
「行くとしたら……やっぱりあの森か?」
「うむ、そこにいる可能性が最も高いであろうっ!」
「また無くなってたりしてな」
「無きにしも非ずだな……。さすれば捜すための費用も必要だ、イオリ!よろしくたの……」
「いい加減にしろよコラ」
“肉あるかな”
“俺のしんぱいは?”
“あはははっ”
別れても、どこかにいるなら会いに行こう
どんな明日が来るかなんて 誰にも分からないのだから