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見えないもの
―――……スッ
―――……
「うなされてたね」
『……』
「だいじょうぶ?」
夢から醒めると、ラルフが横に座っていた。白い月あかりが照らすその姿は、今にも消えてしまいそうだ。
『……ラルフ』
「うん?」
『大丈夫?』
「なにが」
『……』
「ねなよ」
『……ラルフは、寝ないの?』
「ねるよ?」
嘘だ……。そう言って、きっと朝が来るまで一人で起きてるんだ。草も木も人も眠るなか、暗い夜を一人で――
「早く寝ないと、また吐くよ?」
『……うん。……寝ても吐くと思うけど……』
「あははっ、そうだね」
『……』
「タナカ」
『……』
「おやすみ」
『…………おやすみ』
―――スッ……
私は、目を閉じた。閉じるしかなかった。だってラルフが……まっすぐに目を見て“おやすみ”って言ったから。
“後悔してる?”
“ごめん”
“……ありがと”
―――……
どうして今まで気付かなかったんだろう?
いつも飄々としてる人が
無邪気に笑う人が
ずっと隣にいた人が
消えてしまいたいくらいの 深い孤独を抱えていたことに
『……』
「……」
ああ 今この目を開けて
なにか出来ることがあればいいのに