その名は
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その少年は鎖に繋がれていた。生まれたときから運命は決まっていた。他人を傷付けなければいけない。そうしないと、自分が生きていられなかった。
「とどめを刺せ」
「……」
渦巻く歓喜と狂気の中で 何度も“死”を目の当たりにした
願いもなければ望みもない
でも ソレになるのは嫌だった
……ドッ
ドドドドォォォォォンッ……
……
……
やがて少年を繋いでいた鎖は消えた。鎖だけでなく全てが消えた。どこかの誰かがやったことで少年がいた場所は宇宙からなくなった。
なにもかもが掻き消えた世界で、少年は声をきいた。
……
私は 新たに生まれようとしている星
どうして生まれるのかは分からない
しかし 生まれたからには生きたい
私の願いを叶えてくれるのであれば お前に朽ちぬ体と命を与えよう
願いとはなにか?、と少年は聞いた。
お前たち人間は 邪魔でもあるが必要でもある
だから
200年に一度 人間を滅ぼせ
少年は黙った。何を言われているのか分からない。声は続けた。
嫌だというならそれでいい
お前でなくても構わない
たまたまお前がそこにいたから 声をかけたまで
俺はこれからどうなるんだ?、と少年は聞いた。
願いを叶えてくれるのであれば この星が滅びるまで永遠に生き続ける
そうでなければ このまま消えて無くなるのみ
それは、死ぬということか?
そうだ
いやだ、いやだ、いやだ
死にたくない
あんたの願いを叶えるよ
いいだろう
……
声はすこし黙ると、ふたたび少年に言った。
10回目――2000年目に、お前の願いを一つ叶えよう
え?
私とお前の滅亡以外なら何でも叶える
……
少年は星と約束をした。
それから、少年は同じ姿で生き続けた。若い体のまま衰えることもない――だから、誰よりも強かった。人間はそんな彼を崇め、恐れながらも敬った。
しかし最初の200年が終わると、それは一変した。
「……悪魔だ」
あくま?
「俺は見た。こいつが大きな化け物になって大洪水を起こしたんだ!!」
え?
「殺せ、この悪魔を殺せ!!」
!
「待て!!殺してやる!!」
伸びてくるたくさんの手
鋭い刄
怒り
憎しみ
少年は逃げた。逃げて逃げて遠くまで走った。そこで、一人の小さな女の子に会った。
「あ……あ……」
「?」
「うー……」
女の子は汚い恰好をしていて言葉を喋れなかった。それを可哀そうだと思った人間がパンや果物を与えていた――都合がいいから、少年はその子と一緒にいることにした。
女の子には名前がなかった。あったのかもしれないけど分からない。不便だと思った少年は適当に名前をつけた。雑草の名前、アシアとつけた。
しばらく経つとアシアは少年の名を知りたがった。そういえば少年にも名前かない。名前などどうでもよかった少年は目に入った文字を適当に告げた。
「ラルフ」
「ラ、ル、フ……」
「……」
「……ラルフッ」
アシアは教えてもらったそれを嬉しそうに口にした。その言葉だけは言うことができた。その日から少年はラルフになった。
やがて二回目の200年目がきて、終わった。
―――……
―――スタ、スタ、スタ
何もなくなった大地を少年はぶらぶら歩いた。そこで何かを踏んだ。踏んだのは、この前まで生きていたアシアだった。
「?」
「……?」
「……っ」
「ぁ……っ……ぁあっ」
痛い 痛い 痛い
身体の中に穴が空く
こんなに こんなに深い穴が
やめてくれ
やめてくれ
こんな
こんなもの
……
……
独りでいたほうがよかった
光なんてなければよかった
忘れられない
忘れられないなら消してしまえ
なくしてしまえ
……
2000年目に……
2000年目に願うことは……
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