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ライフ  作者: 道野ハル
オウド国Ⅳ[後篇]
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いつか



 オウド城、王の間。



 ラルフが戻って来たのでその報告と旅立ちを告げるために、私たちは四人でロレンスさんを訪ねることにした――ロレンスさんは今も“王の代理”を名乗っている。しばらくは国民に王の死を伏せることにしたらしい。皆の不安を煽らないように、頃合いを見て話したいと言っていた。



「どうぞ、こちらでお待ち下さい」



―――バタン……


―――ガチャッ



 案内してくれた兵隊さんが去るや否や部屋の奥にある扉が開き、白い服を着たロレンスさんが姿を現した。


「!、……ラルフさん、お怪我はされていませんか?」

「うん」

「そうですか……」


 ロレンスさんはラルフの返事を聞くと、絨毯に片膝をついて深く頭を下げた。


「「『!』」」

「この度は本当に申し訳ありませんでした。我々のことを思い200年目の年に遠い異国まで来て下さったのに、このような事態になってしまい、お詫びのしようもありません」

「……オウド国の方々が悪いわけでは」

「いえ、これは私たちの過ちです。とどのつまり、自分の周りのことしか見えていませんでした……」

『!』



“オウド国が国民を守りながら大国になることが出来たのは、我々――クラーレが他国で暗殺や強奪を行ってきたからだ”


“諸外国の国政を変え、資金を得ることでこの国は成り立ってきた”



 あの男が言っていた……。オウド国は、“他の犠牲の上に成り立っている”と。


「私たちは、与えられたものをただ受け取っていただけなのです。何の疑いを抱くこともなく、当たり前のように平和を享受していた。それは、幸せなことかもしれない。その中で一生を終えるのは幸福なのかもしれない。でも……やはり、考えるべきだと思います。その影で、誰か泣いている者はいないのか、と」

「……」

「……」

『……』


 ナウェ国で会ったトウヤくんのお兄さんは、間違いなく“泣いている者”の一人だ。そのお兄さんを慕うトウヤくんとクレハさんも、トウヤくんのことを想うナツキくんも。そして……



“だから、200年目があるのかもしれねえな”


“俺たちは慣れる、忘れる、そして繰り返す。もし200年目が無かったとしたら……繰り返す争いはもっと大きなものになり、やがて……星全体を滅ぼす事になるのかもしれねえ”



『……』

「……」


 もしかしたら、ラルフも……


「これから、変えていきます」


 清廉な声が響いた。目を向けると、澄んだ青い瞳が真っ直ぐ前を見据えていた。


「たとえ200年目で国が滅んでしまったとしても、私が――私と同じ意志を持つ誰かが、少しずつでも変えていきます。無茶なことかもしれない、夢物語かもしれない。でも、諦めることは出来ません。誰も犠牲にならない世に、私は変えていきたい」

「「『……』」」

「この気持ちは生涯、揺るぎません」

『(!あっ……)』



“寂しさも、胸が潰れるほどの後悔も、きっと消えることはありません。これから先何度も思い出して、その度に苦しくなる……。でも、だから忘れない”



 寂しいから、苦しいから、忘れない――それはとてもつらい事だけど、ロレンスさんみたいに考えることが出来たら、この先なにか変わっていくのかな……。


「……勝手なことを言うようですが、オウド国に来て下さったのが皆様で本当に良かった……ありがとうございました」

「俺たちも同じだ」

「え?」


 黙って聞いていたイオリさんが静かに口を開いた。イオリさんはロレンスさんを見つめると、確かな口調で言った。


「諦められないものがあって、望んでここまで来た」

「……」

「同じだ」

「……はい」

『……』

「ラルフさん、」

「え」


 ふいに名前を呼ばれたラルフが反射的に顔を上げた。


「よかったら、また訪ねてきてください」

「……」

「お待ちしています」


 ロレンスさんはそう言うと、青空みたいな瞳で笑った。




             オウド国Ⅳ・後篇【完】

 



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